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23 言い訳はいつも口の中

「レアラード! 瓦礫が……」


 緊張したヴァリスの声がレアラードの意識を現実に返らせた。振り返ると、少女の様子を心配して追ってきたらしいヴァリスが主塔脇のアーチの下に現れていた。彼の指差す先に視線を巡らすと、地下室を覆い尽くした瓦礫の一部が少しずつ動いているのが見えた。


「きっとロイだ!」


「瓦礫に潰されて再生できないかと思ったが、甘かったか」


 舌打ちし「城門まで戻って待っていろ」と指示すると、レアラードは半月刀をすらりと引き抜いた。彼女の引き締まった表情から、不老不死のロイに最期を迎えさせようという強い意志が感じられた。


「殺すんですか?」


「女を先に始末したかったがな」


 “女”とはニディアのことだろう。

 そう認識してから、人を殺すことに対して気持ちがついていけなくなるくらいあっさりとしているレアラードを改めてヴァリスは遠く感じた。それが、長い戦争の時代を生き抜いてきた故なのだと頭では理解していても、他国との戦が収まって久しくしてから生を受けている彼には人を死に追いやることは、その是非よりも恐ろしさが先に立つ。

 一か月前、ロイの頭上の石天井に攻撃魔法をぶつけた時も、長い逡巡と葛藤があったことを思い出した。

 銀色の瞳が、何か言いたげで、そして何かしら言ってしまっているヴァリスを一瞥した。


「おまえにはできない。あれらがどんなにこの世界にとって危険なのか知っていても、おまえは殺せない」


「そ、そりゃあ……元の体に戻るためにロイには聞かなきゃいけないこともありますし」


「そうじゃない。言葉を交わしてしまったから……あれと三年も一緒に過ごしたのだから、情が移っているはずだ」


 ぐっと詰まった青年を「殺さずに解決できるならやっている」という少女の言葉が追い打ちをかける。自分を隠すように、ヴァリスは別の質問を口にした。


「でもロイは体が再生します、どうやってとどめを刺すと言うんですか」


「『穴』を破壊してやればいい」


「でもどこが……」


「ロイのはここだ」


 レアラードは首の後ろを指した。


「あの青い刺青……」


 こくりとレアラードは頷く。


「ただ攻撃してもダメだ。『それに対応しうる力』で破壊しないと」


 その言葉を理解しているように半月刀の柄先に収められた魔石がきらりと光った。


「……ロイは、本当に殺すしかないのでしょうか……」


「殺されかけた相手であっても殺したくはない、か?」


 寂しげな苦笑が少女の口の端に上る。瞳に宿る光の奥深さだけが、幾度も死線を潜り抜け、齢を重ねた者の深みを残していた。


「そうじゃないんです。でも彼はまだ子供で」


「五十年から生きている子供、か」


「きっと体と同じように考えだって成長できないのかもしれない」


「根気よく考えが変わるのを待つのか? 犠牲者を増やしながら」


「それは、たしかに放ってはおけないですが……」 


 もごもごと、あとは話にならない言い訳のような抵抗がヴァリスの口中で繰り返されただけであった。


「奴には蘇生を伴った再生能力がある。一度死ぬと、また死の苦痛を逆再生して体を元に戻し、生きるのだ」


 急に歩を詰めたレアラードの左手が、すぐ後ろまで来ていたヴァリスの胸倉を掴んだ。そのままとてつもない力で、顔を引き寄せられる。


「何度も蘇るということがどういうことかお前にわかるか? どれだけ苦しくて、先が見えない辛さなのか」


 まっすぐにヴァリスの左右色の違う目を見てそれだけ言い終えると、少女は手の力を緩めた。


「死を与える覚悟がないのなら足手まといだ」


 ヴァリスは喉にかかった負担に軽い咳をしながら、歩みを再開したレアラードの後ろ姿を見送った。


「ロイにとっては死が救いだってことですか?」


 背中にかかる声に、彼女は答えなかった。


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