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13 よりしろ

 世界は二百年ほど前に大きく変わった。


 それまでの世界を、人々は「よりしろ時代」と呼んでいる。

 人々と神々の世界は今よりずっと近しく、神は自分の力を人間に宿すことがままあった。それを「よりしろ」と呼ぶ。


 よりしろには、自覚がない。ただ人の子として生まれ育ち亡くなっていく。「自分が他とは何か違う」と感じる者もいるが、特別な家系に出るわけでもないので、見逃されることの方が多かった。そうでなければ神の子と祭り上げられたり、異端だ化物だと迫害された。


 今となっては高次元の世界とこの世を繋ぐ『穴』がその身中にできてしまった哀れな存在だと言えるが、当時の人間には彼ら「よりしろ」の存在は生活に直結する問題となった。

 というのも、長い人間の歴史の中で徐々によりしろの存在が明らかになってくると、権力者たちはその価値に気づいてしまったのだ」


 まるで本を読むかのように朗々と話を聞かせるヴァリスに、彼の隣に座った子供たちは目をキラキラさせて先を促した。


 ヴァリスとレアラードは岩山を越えて街道に出ると、最寄の街に向かう途中の農夫と交渉し、野菜を運ぶ馬車の荷台に乗せてもらっていた。夜が明けたばかりであったが、最寄の街がそれなりの規模の商業都市だったため周辺からの荷馬車が朝の開門を目指していくつも向かっていたのはヴァリスたちにとってありがたいことであった。


 盗賊の根城があると噂の森近くから突然現れた二人を農夫が怪しげだと拒否せずに拾い上げたのは、レアラードの美しさと、なにより「おしゃべりな魔道士」というおもちゃを見つけた彼の息子娘が合唱して同行をねだり荷台に引っ張り込んだからに他ならない。


 農夫の子供二人がヴァリスの傍らを離れないので、レアラードは御者台で農夫の隣に座り、ヴァリスは子供達と荷台後方の端に腰を下ろした。

 風向きのおかげで、幸い森林火災は街道にまでは到達していない。それでも荷台上から後方を眺めると、森の中からもくもくとあがる黒煙と場違いな朝焼けのような橙色を見てとることができた。


「ああ、あんなに燃えてますね……う~ん、なんだか心が痛い」


「ねえ、続き! “よりしろの価値”って何何?」


 ローブを掴んだ十歳に満たない小さな男の子が先を急かせると「続き続き」とさらにひとまわり小さい妹が逆側から青年のローブを引っ張った。

「可愛いですねー君たちは、ここ三年は生意気な子供……いや、“子供らしきもの”しか見ていなかったので、君たちのそういう仕草にはほっとしますよ。ええと、よりしろの価値、ですね。それにはまず魔法というものについて話さなくちゃいけない」


「魔法?」


「俺、見たことある! なんかすげー鉈の切れ味がよくなったりするんだよな」


「ああ、それは魔法をかけた道具、いわゆる魔道具の類かな。下級魔道士が街で製作を実演しているのを私も昔見たことがありますよ。あれは師匠と薬草を取る旅の途中だったかな、ある街で……」


「また脱線した、ねえ続き」


「はいはい、あれ、君はどうしてそんな悲しげな顔なんです?」


「私、魔法見たこと無い……」


「ああ、そういうことですか。拗ねなくていいですよ、見せてあげますから。つまりこういうこと」


 ヴァリスは女の子をなだめながら空中に魔方陣を描き込んで古代語をつぶやいた。すると、それらはうっすらと白い光を放ち、魔方陣の平面の片側から光りに包まれた梟が扉をくぐるようにして現れた。


「わあ!」


 兄妹が驚いて荷台からずり落ちそうになるのを、ヴァリスは慌てて抱きとめた。両手に幼い兄妹を抱えてバランスを保つ周りを、梟は手伝うでもなくゆっくりと旋回してからすっと空中に溶けるように姿を消した。


「驚かしてしまいましたが、これが魔法です」


「すげー! 何にもないところから鳥が出たー!」


 兄は興奮状態であったが、妹の方は興奮しつつもちょっと涙目で「あの鳥死んじゃったの?」などと言っているのが青年魔道士の心をきゅんとさせた。


「やっぱり女の子というのはこういうものなんですねー、盗賊団を壊滅させて平気だったり炎の雨を降らせて森林火災を起こすのはあの人が特別ということですよ。そりゃあ数々の冒険譚や武勇伝も残っている人ですし、人の生き死には当然数多く立ち会ってきたのでしょうが……いや、いかんいかん! お嬢さん、心配しなくていいですよ、あの鳥はもともと生きている鳥じゃないからね。私が鳥の形にしただけで、本来丸でも四角でもいいものなんです。でもああいう使い魔は動物の形にすることが多いんですよ。使い魔は術者の潜在的なイメージや記憶を拠り所にしますから、動物の形にしておくとある程度勝手に動いてくれるので」


「あの鳥ってどこから来たの?」


「鋭い質問ですね。そう、それがよりしろの話にも繋がってくるんです」


 もう大丈夫だろうと兄妹から手を放して、ヴァリスは話を続けた。


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