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冒険者ギルドの死体処理班ネイル  作者: 三神カミ
第一章 Aランク冒険者パーティ黄金のタカ 編
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僕のミス




 黒い飛竜の背にのって、僕は夕闇の空を飛んでいる。


 改めて眺めると本当に立派な竜だ。僕は飛び上がる前にこの竜の体をくまなく調べてみた。もう翼がもげて墜落するなんて体験はごめんこうむりたい。


 けれど、この竜の体のどこを探してもこれといった致命傷は見当たらなかった。もしかすると何かの病気で死にかけていたのかもしれない。その時、真っ暗な大地の隙間に煌々と光る町の灯がみえた。ようやく、町にたどり着ける。


 今日は本当に、本当に、長い一日だった。







 竜を町近くの茂みの中に隠してから、僕は歩いて冒険者ギルドにたどり着いた。


 ドアから中に入り込むと、吹き抜けの天井の大きなホールが目の前に広がる。まだ数人の冒険者らしきグループがあちこちのテーブルに腰かけ思い思いに話し込んでいる姿が見えた。その時、アスターの声が聞こえた。




「ネイル! こっちだ!」



 僕が目をやると、アスターたちがテーブルを囲んで座っている。待っていてくれたんだ。僕は意外に思いつつもどこかうれしくなった。僕は手をあげてメンバーたちの座るテーブルに走り寄る。四人がけの丸いテーブルの前にきて、僕は皆に声をかけた。




「おまたせ!」




 僕が席に着こうと椅子を引くと、僕が座る前に左斜めの席のモートンが声を荒げる。




「おい、ネイル! おまたせ、じゃねぇよ! 待ちくたびれたぜ。お前、俺たちよりも先に帰ったってのに、どうしてこんなに遅いんだよ。それに、さっき受付に聞いたら、俺たちが倒した中型のワイバーンがまだここに届いてないっていわれたんだが?」

「ああ、それが……運搬の途中でワイバーンの翼がちぎれちゃって、穴の中に落っこちてしまったんだ。あの翼ではもう飛べないし……」

「あのよ。ネイル、俺が聞きたいのはいいわけじゃないんだよ。俺たち3人が命がけで戦っているってことを、お前わかってんのか?」

「わ、わかってるよ、でも……」

「……いいや、わかってねーな……」




 僕が言い終わる前に、モートンは熱のこもった声でそうつぶやいた。


 のそりと立ち上がり左手で僕の胸ぐらをつかむ。そのままぐっと引っ張り僕の体を木のテーブルに押し付ける。反対の手で僕の髪の毛をわしづかみにして僕の顔を強引に上に向かせた。僕は痛みに顔をゆがめる。モートンは僕の耳元で大声で怒りをぶつける。



「いいわけなんかきいてねんだよ! まずは! す、み、ま、せ、ん、で、し、た! だろうが! このくそボケがよ!」



 その時、シラのあきれたようなため息が聞こえた。


 僕の視界からはシラの顔までは見えなかったけれど、いつものように目を細めて蔑みの視線を送っているんだろう。またモートンが僕の耳元で怒鳴りつける。



「おい! 俺がなにか間違ったことを言っているか!? お前は謝るってことを知らねぇのか!」



 僕は押さえつけられて、せばまった喉の隙間から、かすれた声を押し出した。



「す……すみませんでした……」



 突然、僕は窮屈な体勢から開放された。僕は胸を押さえて咳をしながら体を後ろに持ち上げた。ようやく呼吸が落ち着いても、椅子に座る気にもなれない。僕はテーブルの前で立ちすくんだ。モートンは舌打ちをして、また席にふんぞり返った。


 僕の右側に座るアスターは何事もなかったかのようにじっと座り腕組をしている。表情の動かない白く整った横顔は、モートンなんかよりもさらに威圧感がある。アスターは沈黙で僕をひとしきり責め抜いた後、口をひらいた。




「ネイル、仕方がない。夜も遅いし、今日のところは終わりにしよう」




 それを聞いたモートンが慌てたように大げさに腕を前に広げる。




「何いってんだよ、アスター。ワイバーンの報酬を棒に振るってのか。こいつのせいなんだから、今からこいつに死体を取りにいかせようぜ」

「モートン。お前も無理な注文をするんじゃない。ネイル、今日は魔物を三匹も運搬したから、お前も限界だったんだろ?」




やっぱり、アスターはわかってくれている。僕はうなずいた。




「そうなんだ……それに、今日はいもうとの……」




 僕の言葉を遮るようにアスターは立ち上がり、こちらに顔を向けて口を開いた。




「ネイル。今日はもういい。だが、明日だ。明日ワイバーンをギルドに持ってきてくれ」

「え?」



「自分のミスは自分でカバーしないと。それでこそ、このAランクパーティ【黄金のタカ】のメンバーだ。じゃ、今日のところは解散だ。しばらく討伐作戦はないから、しっかり休んでおけ。報酬は後日、手渡す。みんな、お疲れさんだったな」




 アスターはこともなげにそんなことを言って、僕に背を向けた。


 僕はぐっと両の手を握りしめた。馬鹿な。


 普通に考えれば僕一人でワイバーンを討伐するだなんて、無理に決まっている。アスターはそんなことは百も承知のはずだ。僕はうつむいたまま黙り込んだ。


 石のように黙り込んだ僕をしり目に、メンバーたちはぞろぞろと立ち上がり去っていった。どれくらい一人で突っ立っていたのか。


 はっと顔を上げる。こんなことをしている場合じゃない。はやく家に帰らなければ。


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