墜落!
カリヨンドラゴンを運んだあと、僕はたて続けに三匹目の竜の死体を運搬させられている。
疲れのせいか少し目がかすんできた。
今日だけで森と冒険者ギルドの間を何往復させられているのか。心も魔力も体力も、もう限界に近い。
僕は飛竜ワイバーンの背中に乗り夕暮れに染まる空を飛んでいる。周囲はもう赤から紫へとその色合いを変えている。とおい地平線の向こう、太陽がゆがみながら沈んでいくのが見えた。世界が今日という一日の終わりを告げようとしているってのに、僕の仕事はまだ終わらない。
波のように繰り返し襲いかかってくる眠気と戦いながら、僕はふとつぶやいた。
「エミーリア……」
僕の口から、ふいにこぼれ落ちたのは妹の名前だった。早くに両親を亡くした僕たち兄妹は町の隅っこにある小さな屋敷の一室を借りて住まわせてもらっている。病気がちのエミーリアは一人で僕の帰りをずっと待っているはずだ。早くエミーリアの為の薬をもらって家に帰らないといけない。気持ちだけがはやる。
その時、ぐらりと、視界が右に傾いた。僕は慌ててワイバーンの体勢を立て直そうと魔力を込めてぐっワイバーンの背中を押さえる。翼を大きくはためかせる。それなのに、ワイバーンの体はさらにバランスを崩していく。右に、右に、流れていく。そして、ついにゆっくりと向きを変え始めた。
「くそっ! どうしたんだ! しっかりしてくれ!」
次の瞬間。不快な音とともに、ワイバーンの右の翼が根元からちぎれて上空に舞い上がった。
「え、うそ、」
僕がとっさに見上げた時には、ワイバーンの体からもげた翼はすでに小さい。ボロ布のようにはるか上空に舞いあがっていく。
いや、ちがう。翼が舞いあがっているのではない。
”僕のほうが”急降下している。
僕は視線を下にむける。すでに森が目の前にせまる。僕はワイバーンの体にしがみつき、ありったけの魔力を込めて思い切り叫んだ。
「まっっがれぇええええええええ!」
ワイバーンの軌道を曲げなくては。
直線ではなく、できうる限りに斜めに、よこに。
軟着陸を試みる。
でも、
だめだ、
森に、
突っ込む。
僕の意識は全身の痛みに打ち砕かれた。