閑話:アスターの受難 ①
さて、ここで視点は主人公のネイルから離れます。
アスターへと……。
いつものように討伐作戦が終わって数日後。
俺は【黄金のタカ】のメンバーを集める。冒険者ギルド内にある酒場食堂の丸いテーブルを囲んでいるのは、リーダーである俺とモートンとシラだ。
俺は今回の討伐報酬のはいった麻袋をモートンとシラに手渡した。受け取ったモートンがその場で袋を覗き込んで、不満そうに声を上げた。
「え? 報酬これだけなのかよ。飛竜を5匹も倒したってのに……」
「ギルドの死体処理班に死体の回収を頼む費用がかさむんだ。森の奥で倒した竜の回収は時間がかかる。それに、死体の腐敗がすすんでしまったものはさらに引き取りの値段が下がるからな」
「ちっ、これじゃ森の奥に行けば行くほど損が出ちまうじゃねぇか、じり貧だぜ……あいつがいたほうがましだったのかもな」
「あいつ? おいモートン。ネイルはお前が追い出しんだんだろ。ワイバーンの翼をちぎれやすくしたんだよな」
「へ……変な言いがかりはやめてくれ。あの時はわざとじゃねぇ。ワイバーンの動きを封じるには、翼を狙うのが一番なんだからよ」
「いまさらいい子ぶる気か、モートン。お前は何かにつけてネイルに嫌がらせをしていただろ」
「俺は報酬をもう少し増やしてほしかっただけだ」
「はぁ……本当にお前はおめでたい奴だな」
幼馴染だから大目に見ていたが、最近、モートンの馬鹿さ加減にいい加減うんざりしてきた。新しいメンバーもろくな奴が集まらないし、こんな事じゃ戦えなくとも足手まといにはならなかったネイルのほうがよっぽどマシだった。それにネイルは攻撃には参加できないものの、死体を操ってあるていどの自己防衛はできていたからな。
そのときシラがため息交じりにつぶやいた。
「はぁ……それよりアスター、ネイルが新しい冒険者パーティを組んでいるの知ってる?」
俺はシラの言葉にふと思いかえす。いつだったか、かなり前の気もするが。このギルドの掲示板のまえで獣人の女と一緒にいたのを見たな。俺はシラに目をやる。
「ああ、獣人の女とパーティを組んでいたのを見たぞ」
「なんだ……知ってるのね。ネイルがリーダーの【漆黒の爪】っていうパーティがあるんだけど、最近ぐんぐん力をつけているって噂よ」
「力をつけている? 死体運びが獣人と組んでなにをどうするっていうんだ」
「直接の指名依頼が殺到しているって噂しらないの? 直接の指名依頼って掲示板での募集はないから、あまりみんな【漆黒の爪】の事の存在自体知らないみたいだけど。冒険者パーティランクが急上昇しているみたいだわ。そのうちにランクAも近いといわれているのに」
「なんだと!? 俺たちですらランクCまでになるまでに半年はかかったのに、数か月でランクAなんてなれるわけがない。いかさまをしているにきまっている!」
「どんないかさまをするっていうのよ。きちんと討伐をしているからこそギルドが認定しているのに、受付のリーゼさんに聞いてみなさいよ」
「そんな……そんな馬鹿なことが! 俺たちが唯一のAランクなんだぞ!」
俺はいったんメンバーと別れた後ギルドの受付に向かった。受付でいつものように仕事をしているリーゼさんに声をかけた。
「リーゼさん」
「ん? どうしたの、アスター君」
「最近できた【漆黒の爪】っていう冒険者パーティの事について聞きたいんですが」
「ええ、話せる範囲でなら、はなすけど」
「いまそいつらのパーティランクは?」
「現時点でBランクまで昇格しているわ」
「び、Bランク?!だって、組んで間もないパーティでしょう?」
「アスター君、きみも知っているでしょ。ランクの昇格は期間の長さじゃなくて実績による依頼主からの評価できまるのよ。【漆黒の爪】はあちこちの武具店からの直接依頼が多くてね。それを着実にこなしているの。かなりの短期間でね」
「馬鹿な! だってそのパーティってあのネイルでしょ?」
「ん? まぁ、アスター君も知っているはずのネイル君ね」
「そんな! 何をどうすればそんなに早く昇格できるんですか!」
「うう~ん。悪いけど、パーティの詳しい情報は私からは言えないわ」
馬鹿な。本当にネイルの奴が。何か秘密があるはずだ。絶対に何かあるはずなんだ。俺はネイルの事について調べてみることにした。




