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冒険者ギルドの死体処理班ネイル  作者: 三神カミ
第三章 Fランク冒険者パーティ漆黒の爪 編 
34/37

火竜と岩竜の”競合”討伐依頼、つまりは競争です



 僕はムウライさんからの依頼内容をきいてひとまず家に帰った。家の扉を開けると、なんとも騒がしい光景が目に飛び込んでくる。



 ミシャが中央のテーブルの上にのった竜肉を切り分けている。ホカホカとゆげが立ち上り甘辛いにおいが充満している。ミシャはとても料理がうまいのだ。クロがそれを眺めながら「人間族って残酷よね!」とテーブルをたたきやけくそにさけんでいる。そりゃクロの本来の姿は竜だから、いってみれば仲間といえなくもないからしょうがない。


 ミシャが肉を切り分けるテーブル、すぐよこの椅子に座ってエミーリアがクスクス笑っている。ほんの少し前まで僕とエミーリア二人だけの食卓だったのにいまは随分とにぎやかになってしまった。


ミシャが僕に気が付いて微笑んだ。




「あ、ネイルおかえり。このお肉、この前のギルドの依頼の報酬でもらった竜肉よ、味付けはコショウとお塩だけだけど」

「いい匂い」

「でしょ! それよりギルドはどうだった、何か新しい依頼はあった?」

「ああ、そのことだけど……昼ごはんが終わってから話すよ」



 僕はエミーリアの後ろに回り込んで、頭をポンポンとなでた。エミーリアは僕を見上げてにこりと笑う。




「お兄ちゃん! 私こんな大きな竜肉見るの初めて!」

「僕もはじめてだ」

「ミシャってすごいね! わたしもミシャにお料理習う!」

「いいじゃないか、今度はエミーリアにも何か作ってもらうかな」

「うん!」




 僕たちはそのままお昼ご飯にした。クロは食事をしないものだから、この時間はいつもつまらなそうに軽く悪態をついている。

 食事が終わりエミーリアに“石化病”を押さえる薬を飲ませた後、エミーリアをいったん寝室に運び寝台に横たえる。僕は少し横になって休むようにつたえてから寝室を出た。



 空っぽになったお皿を前に、クロとミシャと僕でテーブルを囲む。僕は口火を切った。




「さっき冒険者ギルドで依頼を探していた時に、ベルク竜具商人団のムウライさんにあったんだ」



クロが声を上げる。



「ああ、あの金髪のおにいさん?」

「そう。そのムウライさんから僕たちのパーティ【漆黒の爪】に指名依頼が来たんだ」

「しめい、いらい? なにそれ」

「僕たちへの直接の依頼さ」



 聞いていたミシャが話す。



「指名依頼ってことは、パーティランク関係なく受けられる依頼ってことよね」

「そうなんだ。緊急の依頼ってことでいくつかのパーティに依頼をかけているらしいけど、その中に僕たちも含まれている。それがかなり難易度の高い依頼なんだ」

「大型の魔物の討伐とか?」

「そう。竜の森最深部、岩石地帯に住む、火竜サラマンダーと岩竜グランドラゴンの討伐と死体の持ち帰りだ。死体の持ち帰りがむつかしければ、鱗か皮だけでも、持ち帰る必要がある」




ミシャの顔色が変わる。

あたふたと手をふる。




「サ、サラマンダーとグランドラゴン?! ムムム無理よ。わたしたちまだFランクパーティなのよ?」

「そうだ。ミシャには危険すぎるから、今回は僕とクロだけで行きたいんだ」

「え、いいの?」

「うん、そのかわりというのもなんだけど、ミシャにはエミーリアと一緒にいてほしい。たぶん数日、下手をすれば十数日はかえって来られないかもしれない」

「それはいいけど……ネイルは大丈夫なの?」

「うん。クロとならば大丈夫だと思う」



クロは僕の話をかたひじをつきながらきいている。

なんだかわかっているようなわかってないような微妙な表情だ。



「クロ、一緒に来てくれるかい?」

「あたりまえじゃない! 私はネイル様と一緒ならばどこへでもいくよ!」



 クロは力強くうなずいてくれた。

 よし。でも僕には気がかりなことが一つあった。


 この依頼は複数の冒険者パーティに依頼しているといっていた。いわゆる“競合依頼”にあたる。この依頼形式は同じ魔物の討伐を依頼し、一番早く結果を出したパーティに報酬が支払われるという種類のものなのだ。もしも後れを取れば無駄骨になるか、報酬自体がかなり減額されてしまう可能性もある。



 そしてこの競合依頼にはアスター率いる【黄金のタカ】も参加しているはずなのだ。



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