指名依頼ときたもんだ
クロとミシャと僕とで組んだ冒険者パーティ【漆黒の爪】はいくつかの依頼をこなしていった。報酬は安いけれどそれなりに充実した毎日だ。
そんなある日。
僕が一人きりで、次の依頼を探そうと、冒険者ギルドの掲示板を眺めていると呼びかけられた。振り返ると、そこにベルク竜具商人団のムウライさんが腕を組んで立っていた。ムウライさんの後ろには、はまるでトロールを思わせる大きな男。ムウライさんの護衛か何かだろうか。腰に剣を携えている。ムウライさんがにこりと笑って口を開く。
「ネイル、だったかな。死体処理班はもうやめたんだな」
「あ、はい」
ムウライさんが僕の事を覚えているなんて意外だ。あまり会話したこともないのに。ムウライさんは続ける。
「ちょっと聞きたいんだが。お前、昔Aランクパーティの【黄金のタカ】にいったって本当か?」
「え? あ、はい……そんなに長い期間ではないですけど。でもどうしてですか?」
「一度、ワイバーンを仕留めたことはないか?」
「ワイバーン……? あ、あぁ。随分前の事なのでよくおぼえてませんが……」
というのは嘘だ。明確に覚えている。僕がクロの背中に乗って初めて魔物を仕留めた時の事だもの。でも、なぜ今頃になってそんな話をしてくるんだろう。ムウライさんは視線で後ろにあるテーブルに僕を誘導した。
僕たちは席に座り向かい合う。大男は相変わらずムウライさんの背中を守るように突っ立ったままだ。僕は思い返す。そうだ、確かアスターから聞かれたことがあった。あのワイバーンを仕留めた人物をムウライさんが探していたと。僕はそっと心の警戒度を上げた。ムウライさんはたずねてきた。
「ネイル。俺はかなり前に【黄金のタカ】から受け取ったワイバーンの死体について気になっていたことがあったんだ。あの時はアスターが倒した、と聞かされてそれを信じることにしたんだが……どうやら違ったようだ」
「……なんの話でしょう、僕にはよくわかりませんが」
「あのワイバーンはお前が後で届けたらしいな。しかもお前ひとりで」
「ええと、どうだったかな」
「嘘はいい。何か隠したいことがあるのならばそこを無理に追及したりはせん」
「あ、はぁ……」
僕は話の行く先が分からず、あいまいに返事をする事しかできなかった。その時後ろの男が口を開いた。
「ムウライの旦那、なにをじれったいことをやってるんです。さっさと聞きゃイイんでス。オイ坊主、あのワイバーンを討伐したのがお前なのだったら、お前に依頼があるんだヨ。しかもこのベルク竜具商人団からの指名依頼だ」
ムウライさんは後ろを見上げてたしなめる。
「カミュリス、お前は黙っているんだ。俺が交渉するから」
「でも、ムウライの旦那、もしもこの坊主があのワイバーンを討伐した張本人でナケリャ、時間のむだってやつですぜぇ、オイは早くここから立ち去りたいんですぁ」
ムウライさんは小さくため息をついて、僕を見つめた。
「ネイル。もしもあのワイバーンを討伐した冒険者がお前ならば、お前に依頼がある」
「依頼? もしかして討伐依頼ですか?」
「そうだ。王都にある武具商人から竜具装備の大量発注が入りそうなんだ。どうも今王都できなくさい連中が妙な動きをしているようだ、そのため王都騎士団の装備品が大量に必要らしい。そこでこのベルク竜具商人団に緊急依頼が来たんだ。できるだけ多くの竜素材をきれいな状態で手に入れたい」
「まさか、その竜素材をあつめる依頼を僕たちのパーティ【漆黒の爪】に?」
「そうだ。しかしこれは急ぎの依頼だ。いくつかの冒険者パーティに同時に依頼する。お前が前にいた【黄金のタカ】にも依頼をかけるつもりだ」
黄金のタカ。僕の頭にアスター達の顔が浮かぶ。討伐依頼というのはある程度上位ランクの冒険者パーティしか受けることができない。僕たちのパーティ【漆黒の爪】はまだ最低のFランクだ。でも、今回のような依頼主からの直接指名依頼というのはランク関係なく受けることができるのだ。ここは乗るべきだろうか。この依頼をこなせば冒険者ランクも一気にあがるかもしれない。
僕は確認した。
「依頼の内容は、どいういうものなんですか?」
ムウライさんはにやりと笑った。
「ふっ……やはり。俺の勘もまだ鈍ってはなかったようだ。その言葉を言ったということはやはりあのワイバーンを討伐したのは、ネイル。お前だな」
僕はゆっくりとうなずく。そしてもう一度訪ねた。
「依頼の内容を聞かせてください」
「いいだろう」




