初仕事は、治療院の薬草採取依頼
冒険者のすぐ隣にある【治療院】は傷ついた冒険者たちが担ぎ込まれる場所だ。
そこには【治癒の魔法使い】が常に待機している。ただ治癒の魔法が扱える人物は非常に貴重で治療院にはわずか二人しかいない。その二人が朝夕交代制で待機している。
そして、治癒の魔法使い以外の治療として、おもに薬草からつくる粉末漢方や薬液などの回復薬がもちいられている。その回復薬の原料となるのが様々な薬草だ。
治療院の薬草採取の依頼というのは年中依頼がある。需要が高い上に比較的簡単なため、初心者の冒険者たちには人気が高い。
薬草と一口にいっても実に様々な種類がある。それこそ何百、何千といった種類があるけれどそれを全部探して集めるわけにもいかない。治療院から渡される資料をもとにいくつかの種類をあつめて納品することとなる。
僕たちは町から離れて南に位置する森ふかい渓谷に踏み込んでいた。
先頭をすすむのはクロ。何が楽しいのか、鼻歌を歌いながらついでにスキップまでしている。そんなクロの背中を見ながら僕とミシャは話していた。僕の話にミシャは目を丸くした。
「えぇ!? あのクロが、あの竜!?」
「うん。あまりほかの人には話してないんだけど。ミシャは同じパーティになるから、話しておこうかと思って……」
「じゃ、それって、ネイルは魔法使いってこと?」
「スキル鑑定で分かったのは、僕が【死体操作】っていうスキル持ちだってことだけで、そのスキルの内容はよくわからなかったんだ。だけど最近いろいろとわかってきてね」
「魔法・スキル鑑定院には報告しているの?」
「ううん。まだだよ。あそこのお役人にあまりいい思い出がないし、べつに報告したところで、何がどうなるわけでもないし」
「そうかな。新しいスキルならば、報告すればなにか知恵を貸してくるかもよ」
「どうだかな……」
僕たちが話しながら歩いていると、前を進んでいたクロが倒れた木に腰かけて、ぜぇぜぇと肩で息をしている。どうやら張り切りすぎてつかれたようだ。それもあるけれど、クロには弱点がある。これがその一つ、太陽のもとでは極端にその能力にかげりがでるということだ。死体操作のスキルとどう関係しているのかはわからないけれど、クロの能力は昼間に弱まり、夜に強いという特性を持っている。
何度か竜になったクロと夜空を飛び回ったことがあったけれど、その時のクロは疲れ知らずだった。青い目は月夜の中光り輝き、炎のようにもえていた。
でも、昼間、今のクロの目の青い光はとても弱弱しい。僕はクロに歩み寄り声をかける。
「クロ、張り切りすぎて疲れたかい? 少し休む?」
「んみゅ、だいじょぶ……でも、なんだかお昼間は力が抜けるのよね……夜は平気なのに」
「ミシャも加わってくれたし、ゆっくり行こう」
「おっけい、ありがと。わかったわ、ネイル様……ふう」
目の前に小さな川が見えてきた。このあたりだ。目当ての薬草の採取場所。すがすがしい、しめりけのある空気。僕たちはひとまず、少し休憩することにした。
僕は振り向いた。ミシャ、その後ろからうなだれたクロが傾斜のけもの道を踏み分けて歩いてくる。僕は声をかける。
「クロ、少し休もう」
「はぁい……」
それを見ていたミシャが小さく笑う。
「クロったら、ほんとに疲れちゃってるね、薬草集めはわたしたちでするから、休んでいてくれてもいいよ」
クロが後ろからミシャの腕にしがみついて、甘えた声を出す。
「うう、ミシャ! ありがと! めがみにみえる!」
「あはは、いいのよ。オオトカゲから助けてくれたんだもの、わたしのできることならなんでもするから、でも、討伐作戦の時はたすけてね」
「もち! 戦いならばまかせて! なんでもガンガンたおしてあげるから」
「約束ね」
二人は楽しそうに顔を見合わせて笑った。




