冒険者ギルドの看板娘リーゼさん
僕の住む町【ベイルンゲン】は大陸の西端にある。
澄んだブルーの海と深い森に挟まれた町。茶色い屋根と白い壁、おんなじ形の家々が並んでいる。その街はずれにひときわ大きな四角い建物がある。そこがこの町の【冒険者ギルド】だ。
僕は、カリヨンドラゴンの死体を操り、ギルド横の空き地にたどり着いた。
すぐに背中から飛び降りてギルドの入り口をくぐり、受付に向かった。受付けから元気な声が聞こえてくる。この声は看板娘の【リーゼさん】だ。
冒険者ギルドの受付嬢の制服は純白に光るブラウス。その中央に特徴的な桃色のリボンがあるのだけれど、そのリボンが埋まりそうなほどのリーゼさんの大きな胸のふくらみ。それはここに来る荒くれ者たちの視線をくぎ付けにする。
僕もその一人だけれど、恥ずかしいからできるだけ見ないようにしている。
リーゼさんは受付のカウンターに座っていた。でも僕の顔を見るなり立ち上がり軽く手を振ってくれた。そして見せてくれるふわりとした満面の笑み。それだけで、疲れ切っていたはずの僕の心は軽くなる。
きっとこの冒険者ギルドにくる誰しもが、この笑顔に元気と勇気をもらっているんだと思う。僕がカウンターに走り寄るとリーゼさんはさっそく聞いてきた。
「おかえり! ネイル君。今日の討伐はもう終わったの?」
「まずは一匹です! 今横の空き地にカリヨンドラゴンの死体があります。すみませんが、すぐに死体の鑑定をお願いします」
「おっけい。ちなみに大きさは?」
リーゼさんは受付カウンターの手元から羽根ペンと羊皮紙をさっと取り出し書き留める準備をした。この死体の鑑定が重要だ。鑑定の額によって僕たちパーティの報酬額が決まってくるのだから。
僕は伝えるべきことを一気に頭の中でまとめた。
また、すぐにここを出て、アスターたちの後を追わなくてはいけないのだ。悠長にしている暇はない。
「ええと、小竜カリヨンドラゴン。中型のオスです。しっぽから頭までいれると全長は3メートルほど。皮膚はうすい緑、両足に剣と斧による裂傷多数、炎の魔法による背中表面の損傷もあります。爪と牙は生え変わった直後のようで真新しい感じでした、ひとまず、これくらいですね」
「ふむふむ……さっすが、ネイル君。1を聞いて10を答える男。実物を見るまでもなく、いまの聞き取りだけである程度は鑑定できそうだね。えっとねぇ……カリヨンドラゴンの今の相場からすると……」
「あ、あの、リーゼさん、すみません。僕急いでいるので、鑑定額はまた後で聞きに来ます。今からまた森に一人で行かなければならないので」
その時、リーゼさんは手元の羊皮紙から視線を上げて僕を見つめる。どこか真剣なまなざし。僕はリーゼさんを怒らせてしまったのではないかと、どぎまぎする。リーゼさんが花びらのようなピンクのくちびるを開いた。
「ネイル君……」
「は……はい?」
「キミ、またアスター君たちにこき使われているのかしら。ここから魔物たちがいる森の奥までキミ一人でいくだなんて、危険すぎない?」
「だ、大丈夫ですよ。心配しないでください。僕だってこう見えてAランクパーティのメンバーなんですから」
「……君がそれでいいなら私は何も言えないけれど。でも今日は病気の妹さんのお薬を取りに行く日じゃないの?」
僕は固まる。リーゼさんにそんな話をした記憶はないのに。どうして知っているんだろう。返事に困った僕が動きを止めているとリーゼさんはまたにこりと笑った。
「ふぅ……ごめんね、ひきとめちゃって。さ、早くいかなきゃ日が暮れるわよ!」
「あ、は、はい! じゃ」
「気を付けてね」
手を振るリーゼさんに頭を下げて、僕はギルドを出て森へと向かった。リーゼさんとのなにげない会話が終わる。でも、それだけで、僕の心はすでに元気で満タンになった。
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