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冒険者ギルドの死体処理班ネイル  作者: 三神カミ
第二章 冒険者ギルド 魔物の死体処理班 編
25/37

ドラゴリア、ヒュムリア、



 グリフォンはちょうどソルさんの真ん前にふわりと着地した。大きな目玉でソルさんの足元をカッと睨みつける。そこにはいまソルさんが運んだばかりのオオトカゲの死体がソリにならぶ。どうやらそのオオトカゲを狙っているようだ。



 グリフォンが翼を広げて大きく歩を進めて前のめりにソリに首をのばした。瞬間、ソルさんは背中に斜めがけしていた(さや)から一気に刀を抜き出す。身構えるや否や、グリフォンの目玉に突きを繰り出す。が、グリフォンは素早く首をさげて飛び跳ねるようにソルさんの腹に体当たりした。



「ぐっ!」



 ソルさんは詰まるような悲鳴を上げて大きく飛ばされ、大地に倒れこんだ。


 ソルさんはそのまま動かなくなった。僕はとっさにクロに目をやる。クロは興味なさげな表情でただその光景を眺めていた。僕の身に起こることには敏感に反応するクロだが、それ以外の事にはまるで興味を示さない。


 グリフォンはソルさんが動かなくなったのを理解したのか、どことなく余裕を見せた。首を戻してオオトカゲが数体折り重なっているソリに大きなくちばしを伸ばす。



 ソルさんは気を失っている。クロに呪文を。僕は死体操作のスキルをつかう。




竜化(ドラゴリア)




 これはクロを竜にもどすときのスキル。クロの体が一瞬震えたかと思うと、青い目の光が全身を包み、一気に本来の姿に戻る。漆黒の鱗に包まれた暗黒竜アモンドラゴンへと。



 クロはぬるりと輝く真っ黒な鱗を震わせながら、周囲を包み込むほどの大きな翼をばさりと広げた。野太い声でぐるると唸る。そしてそのひし形に光る青い目玉でグリフォンをゆっくりと見つめた。見た目からして、形勢逆転。成獣のグリフォンよりも幼竜のアモンドラゴンのほうが大きいのだ。


 グリフォンはクロを見上げて動きを止めている。突然現れた自分以上の存在に戸惑っているさまが見て取れる。でもクロは何をするでもなくじっとしている。僕は命じた。



「クロ、追い払うんだ!」



 クロの目が光り、大きく口を開いたかと思うと雄たけびを上げた。途端にグリフォンは怯えた目で後ずさり、そのまま背を向けて逃げるように飛び去って行った。グリフォンが消えたのを確認すると、僕はクロに頼んでソルさんをバイコーンの背に乗せた。そしてクロの体を元に戻す。




人間族化(ヒュムリア)



 クロの体は再び竜から人型に変化した。でも。



「ありゃ……服がびりびりだな」



 元に戻ったクロの衣類は足元にちぎれて、散らばってしまっていた。クロは真っ黒な闇のおような鱗に包まれた体でたちすくんでいる。僕は自分が羽織っていたマントをクロに羽織らせた。お互いにそれぞれのバイコーンに乗り、オオトカゲの並んだソリをひいて早々に湿地帯を後にした。



 もうじきに森を抜けて町の近くにたどり着く。気を失ったままのソルさんが落っこちないようにバランスを取りながら、僕はバイコーンの手綱をしめる。後ろからバイコーンに乗ってついてくるクロに振り向き声をかける。




「なぁクロ。ソルさんが危ないときも助けてあげなきゃ」



「え? どうして? 私にとって大切なのはネイル様だけよ! それ以外の人が生きようが死のうがどっちでもいいじゃない!」



 僕は眉をひそめる。なんだか、怖いことを言うやつだ。ソルさんがちょっと引くのもわかる気がする。僕はクロに話しかける。




「ソルさんは僕にとって大切な人なんだ。だからソルさんの事も守ってほしい」


「う~ん……わかった。ネイル様がそういうなら、今度からそうするね!」




クロは無邪気に笑いながらそういった。本当にどこまでわかっているのやら。


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