死体処理班 ソルさん
リーゼさんから仕事の詳細を聞いた後、僕たちは死体処理班でパーティを編成して森に向かった。
大型の二角馬獣の背中に乗り僕たちは薄暗い竜の森の中を行く。僕の後ろにはクロが座り、僕の腰に後ろから手を回しぐっと構えている。
僕の隣には同じく青い毛に包まれたバイコーンの背に乗った死体処理班の一員、ソルさんがいる。ソルさんは僕よりも二回りほど年を取った大柄な男性だ。自然とたくましくなったような二の腕はしなやかな筋肉に包まれている。ソルさんは、最近奥さんとの間に小さい女の子が生まれたって聞いたけど。
その時、ソルさんがバイコーンの背にゆられながら不意に話しかけてきた。
「ネイル、そのかわいい彼女との出会いをきかせてくれよ」
「か、彼女!? ち、ちがいますよ。クロはただの……」
僕は言葉が続かない。クロと自分の関係を表す的確な言葉が出てこなかった。ソルさんはにやにやしながら僕の説明を待っている。その時、クロが答えた。
「私はネイル様に助けてもらったの! 穴の中で苦しんでいたところを拾われたのよ!」
クロはそういいながら僕の腰に回していた手をぎゅっと締め付ける。僕の背中に体をくっつけてくる。それを見ていたソルさんが小さく笑った。
「拾われたってなんだよ。捨て猫じゃないんだからよ、それにネイル“さま”だって?」
僕はバツが悪くなり、クロを睨んだ。クロは僕の視線を避けるようにぷいっとそっぽを向く。僕は強引に話の流れを変えようと今回の仕事の内容をソルさんに確認する。
「ソルさん。今回の仕事って僕たち二人だけで大丈夫なんでしようか。オオトカゲの運搬でしょ?」
「今回の仕事は小型のオオトカゲ10匹程度だから大丈夫だよ。それに、今は人手不足でよ。それぞれの現場に必要最小限の人間しかさけないんだよ。ま、死体操作のスキルが使えるお前が戻ってきてくれて助かったぜ。お前は俺たち死体処理班員の3人分の働きはできっからよ」
「そ……そんな大げさな」
「大げさでも何でもねぇぞ。確か、死体操作のスキルでも死んだ後にかたくなっちまった死体は動かしんくいんだよな。それでも、でかい魔物の死体を荷台に乗せるくらいの動作をしてもらえるだけで全然違うからな。お前が戻ってくれてみんなほんとに喜んだんだぜ。あんまり顔には出さねぇ連中だがよ」
「ありがとうございます」
ソルさんは僕の薄い反応の仕方に気を遣ったのか、少し声を落とした。
「……だが、お前はやっぱり冒険者のほうがイイんだろ? たしか王都の魔法院に入学するための資金が必要なんだったよな」
「はい、それに妹のエミーリアの病気もあって薬代も結構かかるんです」
「お前も、大変だな……しばらくこの死体処理班の仕事をしたとしても、その後はまた冒険者に戻るのか?」
「まだ、わかりません。でもしばらくはもういいです。【黄金のタカ】にメンバーとして入っていたときは散々でしたから。戦えないのに高額の報酬をもらいすぎているって、いつも仲間に責められていましたし……」
「なるほどな。ま、お前もいろいろあったんだな」
ソルさんはそれ以上の事は聞いてこなかった。ここがソルさんの好きなところだ。わきまえた会話とでもいうか、僕が今は話したくないというところまでは突っ込んで聞いてこない。その直前ですっと身を引いてくれる。
僕は今回の久しぶりの死体処理の仕事の事を思った。湿地帯にある小型のオオトカゲ10匹の運搬か。大型のバイコーン二頭と荷台さえあれば十分か。僕たちは先を急いだ。




