クロが美少女になりました(一章 終)
しばらくの休息の後。
【黄金のタカ】メンバーの招集がかかった。僕は指定の時間にギルドに出向いた。次回の討伐作戦の説明をアスターから簡単に聞かされ、いったん解散となる。その後、僕はアスターに引き留められて、二人だけでテーブルに着いた。
アスターはどこか神妙な顔で僕に目を向けて話しかけてきた。
「ネイル。俺に秘密にしていることはないか?」
アスターの強いまなざしに僕は気圧される。表情を変えないようにぐっとこらえた。まさか、クロの事がばれたのだろうか。いやでも、全く別の話だという可能性もある。僕が考えを張り巡らせているとアスターは続けた。
「実は、昨日。ベルク竜具商人団のムウライさんから、話があったんだ。前回俺たちが討伐した竜について。特にワイバーンについてだ」
「ワイバーンっていうと……僕があとでギルドに持っていったあのワイバーン?」
「そうだ。俺もあの時は深くは考えなかった。お前が右翼が千切れたワイバーンの死体を取りに行ってくれたと思っただけだったんだが、どうやらそうではなかったようだな」
僕は黙り込む。
いまいち話が見えてこない。アスターはどこかもったいぶったような話しぶりで続ける。いつものことながら、なんだか試されているような気がする。僕はアスターの声に耳を傾ける。
「ムウライさんがいうには。お前が後でギルドに運び入れたワイバーンは、右翼がちぎれていたどころじゃなく、全身に全く傷がなかったといっていた。喉元の急所にとどめの一撃があっただけだと。ぜひ、このワイバーンを仕留めた冒険者の事を教えてくれといわれたよ。何の武器を使ったのか、どの程度の熟練者なのか、と。ネイル、お前の事だ」
僕の考えが浅かった。まさかあのワイバーンの傷跡からそこまでの推測をする人物がいたなんて。アスターの鋭い視線。アスターに嘘は通用しないことはわかっている。僕は腹をくくった。
「アスター、実は……僕は……」
アスターは腕を組んでじっと僕をみつめている。僕は告げた。
「僕は……【黄金のタカ】を抜ける」
アスターは拍子抜けしたのか、力なくふっ、と笑った。そして明らかに怒りを滲ませた声でつぶやいた。
「……ネイル、せっかく俺が声をかけてやったのに。何て言い草だ。この【黄金のタカ】を抜けるだと? お前がこのパーティをぬけるというのならば、勝手にしろ。だが、まだ俺の聞きたいことに、こたえていない。あのワイバーンをどうやって仕留めたんだ。ただの死体運搬係ふぜいが!」
アスターは僕のほうからパーティを抜けるといわれたことが、よほど気に食わなかったのか、こぶしをテーブルにたたきつけた。珍しく気色ばんでいる。
でも、僕はたじろがず、アスターをきっと見返した。そして言葉で伝えた。
「僕は死体運搬係じゃない。僕だって戦える。いえる事は、ただそれだけだ!」
僕はそう言い放ち席を立つ。振り返って出口を目指す。
これで【黄金のタカ】ともおさらばだ。
僕はそのままの足で町を出て竜の隠れ家へ向かった。
廃墟の扉をくぐると、いつものようにそこにクロが寝そべっている。クロは僕に気が付くと青い目で見つめてきた。僕はクロにちかよりひたいをなでる。クロは気持ちよさそうに目を閉じた。
「はぁ……クロ、いつまでもこんなところに隠れてもいられないよな……お前が、人目についても大丈夫ならばいいのに、もう少し人っぽければ」
その時、クロの首がくいっともちあがりその青い目が輝く。
その青い光はやがてクロの全身を包みこんだ。青い光の輪郭はやがて形を変えて、すうっと小さくなっていく。そして。
「く、クロ……おまえ……」
そこに現れたのは、漆黒の黒髪をさらりと流し、きわどいドレスのようないでたちの美少女。頭には小さな二又の角が飛び出している。
その美少女はクロと同じく青い目をこちらに向けると、にこりと笑った。
「ネイル様! わたしクロ! やっと言葉で自己紹介できたね!!! うっれしー!!」
その黒髪美少女はそうさけぶと、僕の首に腕を回してだきついてきた。僕は慌ててその腕をはなそうとするが、おっそろしい強さでぎゅっと締め付けてくる。僕はさけぶ。
「ちょ、ちょと、ちょっと! まって! 誰? 誰?」
「何いってるのよ! ネイル様! わたしクロよ、クロ! むーんちゅ!」
クロと名乗ったその美少女は僕の頬に口づけた。まさか、アモンドラゴンが、獣人化したのか。
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