ベルク竜具商人団 ムウライ ②
俺は、少し嫌がるカミュリスを引き連れて冒険者ギルドを訪れた。扉をくぐる。
賑わうホールを進みながら、受付に目をやると看板娘のリーゼが今日も元気を振りまいている。相変わらず威勢のいい娘だ。ごつい男たちに囲まれても、物おじしない。
俺は受付に近寄り声をかけた。
「よう、リーゼ。今日もよく働くな」
リーゼは手元の視線をこちらにあげる。まじめな顔がほころんだ。
「あ! ムウライさん。ベルク竜具商人団様にはいつもお世話になっています。竜の討伐依頼ですか?」
俺は受付の前まで来ると、カウンターに肘をついて話す。
「いんや、ちょいと野暮用でな。今日は【黄金のタカ】のメンバーは仕事中か?」
リーゼは特に何を確認するでもなくすぐに答えた。
「いえ。今は、しばらくお休み中ですね。【黄金のタカ】に仕事のご指名ですか?」
「仕事の依頼ではないんだが……ちょっと聞いていいか?」
「ええ。私で答えられることでしたら、なんでもどうぞ」
「この前俺たちベルク竜具商人団の討伐依頼を引き受けたのは【黄金のタカ】だったよな。竜三匹の討伐報酬を支払ったが、一匹だけ後で受け渡された竜がいた」
「はい、そうですね。たしか……ワイバーンだけ一日遅れての引き渡しになってしまいました」
「一日だけ遅れた理由はなんだろう。ワイバーンだけ引き渡しが遅れたのは何か事情があったんだろ?」
リーゼは小さく首を傾げた。
「さぁ……私では詳しいことまでは……何か気になることがあるんですか?」
「ちょっとな……ま、【黄金のタカ】のメンバーたちがしばらくここに来ないんじゃ、確認しようがない。また出直すよ」
「はい。いつでもお越しください!」
俺はリーゼに軽く手を振ると、受付カウンターから肘を浮かせて振り向いた。途端にカミュリスの顔が目に入る。リーゼの顔の倍ぐらいはあるな。えらい違いだ。カミュリスはいかにも不機嫌だ、という顔で俺に聞いてきた。
「ムウライの旦那、いったい、ここに何をしに来たんデスかい。オイはこういうごみごみしたところは苦手なんでさァ」
「すまん。時間を取らせて。今日はお前の出番はなさそうだ」
「へ? じゃ、早く帰りましょうヤ、さわがしくって耳がいてぇです」
「わかった、わかった。確かに、ここはいつ来てもうるさいところだな」
俺はいらつくカミュリスをなだめつつ、冒険者ギルドの中をぐるりと見まわす。
この町【ベイルンゲン】はさほど大きな町ではないが、この町の冒険者ギルドは各地から集まる冒険者連中で非常ににぎわっている。これだけ賑わっているのには理由がある。
この町から少し離れた場所にある【竜の森】のおかげだ。あの原生林にほかの地域ではあまり見られない、いろいろな竜種がいるのだ。
それらの竜から採れる鱗や牙、爪、そして竜肉はこの町の名産品としてあちこちから買い取りの依頼が来るし、高く売れる。その竜の討伐を目的として、冒険者たちが集まってくるのだ。
まぁ“冒険者”というと聞こえはいいが、連中は日雇いの傭兵にちかい。ただ傭兵という響きが重たいという理由でイメージを一新するため“冒険者”という呼称を一般化したのがこの冒険者ギルドという組織だといわれている。
”傭兵”から”冒険者”と呼称を変えただけで、冒険者登録をする人間が格段に増えたというのだから、うまいこと商売をするもんだ。しかし、だれもかれもが軽い気持ちで冒険者登録をするものだから、それにより冒険者の間でその実力に”格差”が生まれている。
戦士や魔法使いとして本当に有能な人物を見分けるのがむつかしいのだ。それにより数年前からあらたな制度として”冒険者パーティランク制度”が取り入れられたという事だ。
ランクは最高のAランクから、最低のFランクまで。このベイルンゲンの冒険者ギルドで唯一のAランクが【黄金のタカ】というわけだ。このランクは依頼主からの評価報告により冒険者ギルドが決めているらしい。必然的に高ランクの冒険者パーティに仕事が集中するという仕組みだ。
ま、正直、俺の勤めるベルク竜具商人団も竜と竜を討伐する冒険者たちの恩恵にあずかっている。あまり文句の言える立場ではないが、最近、うちに入ってくる竜の質が落ちているのも事実だ。今回のワイバーンのように、傷の少ない竜の死体を納品してくれる冒険者がいるのならば是非、ひいきにしたところだが。
その時、カミュリスの背中をかわして、黒髪の少年がすっと進み出てきた。その少年は俺のすぐ横でカウンターに手をつくとリーゼと親しげに言葉を交わしていた。
俺はそれを横目に、カミュリスとともに出口に向かった。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
よければブックマークや評価★★★★★などしていただけると、意欲がわきますぅ!