竜の名はクロ
まるで僕とリーザさんの話を盗み聞きでもしていたかのように、アモンドラゴンは自慢げな顔でこちらにすり寄ってきた。頭を左右に振りながら僕の腹をつついてくる。
「な、なんだよ」
アモンドラゴンはきゅうるる、と小さくないた。そろそろこいつにも名前をつけてやらなきゃならない。ずっと竜だとかあいつだとかじゃどうもな。僕は優しく話しかける。
「……そうだなぁ。僕は動物なんてかったこともないしどうやって名前を決めたらいいんだろう……ま、単純で悪いけど、黒いからクロでいいか」
クロはどこかうれしそうに青い目を伏せうなずいた。僕はその仕草に少し笑いそうになった。
こうして改めて見ても、クロは生きているように見える。今まで、僕が死体操作のスキルで操ってきた死体とは一線を画している。
何といっても一番の違いは目だ。いままで僕が操ってきた魔物たちの死体の目は半分閉じかけて、虚ろで、まるで意思を感じなかった。動きだって吊られた糸人形のようにぎこちなく不格好。
でも、今目の前にいるクロの目は青く輝いている。瞳の奥に青い炎がともっているように、キラキラと。なんてキレイな目なんだろう。本当に不思議なブルー。僕はそんなクロの目を見つめながら、ふとつぶやいた。
「なぁ、クロ。実は僕には妹がいるんだ。エミーリアっていうんだけれど。お前にあっても大丈夫かな」
クロは首をかしげて小さく鼻を鳴らした。
僕は迷っていた。
エミーリアにクロの事をいうべきかどうかを。言えば、エミーリアはきっとクロに会いたがるに決まっている。でも、まだクロが本当に安全な存在なのかどうなのか、僕には確信が持てない。
空中でワイバーンを仕留めた時の、クロのあの動きはまさに獰猛な野生の飛竜そのものだった。ぱっと軌道を描いて落ちる雷のごとく。あっという間にワイバーンの下に潜り込み、心臓を尻尾で貫いた。
僕が命じたような気もするし、命じる前だったような気もする。クロの動きが速すぎて何が起きたのか、自分でもまるでわからなかったのだ。気が付くとクロはワイバーンを仕留めていたのだ。
それに、さっきリーゼさんから聞いた話。
クロは飛竜種の中で最も獰猛な【暗黒竜アモンドラゴン】だというのだから。クロの事を僕自身がもっと知らなくてはいけない気がする。エミーリアにあわせるのは、クロが安全だとはっきりしてからじゃないとだめだ。
僕はしばらくの間、クロの事を調べてみることにした。