いつか王都へいくために
僕は冒険者ギルドを出て町の通りを早足で抜ける。少し行ったところで立ち止まった。それとなく周囲を見渡し同じパーティーメンバーの姿が見えないことを確認してから、手に持っている報酬の入った麻袋をドキドキしながら開いた。
のぞきこんだ袋の中。ざらりと光る銀色の硬貨。
見たところ銀貨20枚くらい。ふぅと小さくため息をつく。僕が今まで貯めてきた報酬を足しても、目標の金額にはまだまだ遠い。
妹のエミーリアと一緒に王都に行くには、少しくらい危険でもこのAランクの冒険者パーティの討伐作戦に参加して、お金を稼がなくてはいけない。
お金を稼いで、王都に行き、魔法使いの訓練所、名門【オーズル魔法養成院】に入学するんだ。僕の持つ死体操作のスキルを研究し、さらに磨かなくてはいけない。
でも入学するには膨大な入学資金が必要だ。まだまだ、全然足りない。それに僕の妹であるエミーリアは石化病にかかっている。その薬代もなかなかに高いのだ。
それに、エミーリアの石化病を根本から治すには、幻の竜といわれる【蛇竜バジリスク】の喉から分泌される消化液が必要だ。
それから作る“霊水”を手に入れてエミーリアに飲ませること。唯一それだけが、エミーリアを石化病から解放することができる方法なのだ。
僕は、その幻の蛇竜バジリスクを探す旅に出るため、強い魔法使いにならなくてはいけない。そのためには魔法養成院に行ってきちんとした訓練を受けなくてはいけないんだ。
僕は銀貨のはいった袋を閉じて、ふたたび前を向いて歩き出した。
今日の【黄金のタカ】の集会はなんともいえない気分になった。
アスターに駄目だしされたモートンとシラの悔しそうな顔は正直いい気味だった。けれど、手放しでアスターに感謝するという気分にもなれない。アスターは何を考えているのかわからないところがあるのだ。
僕に死体運搬の仕事をたて続けに押しつけたり、高圧的な態度でいやなことを言う日もあれば、ああやって急に僕を持ち上げて、モートンとシラをたしなめたりする日もある。まるで飴と鞭の使い分けだ。
さっき、あの場では聞き流したけれど、アスターは気になることを言っていた。
モートンがワイバーンを討伐するとき、右翼ばかりを狙っていたきがする、と。もしも本当にそうだったら、モートンは僕がワイバーンの死体運搬に失敗するように仕組んでいたともとれる。いくら僕の事が憎らしいからって、そんなことをモートンがするだろうか。それとも単にアスターが深読みしすぎているのだろうか。
正直、真実はわからない。
それにしても、僕たちパーティメンバーは皆同じ15歳。だというのに、アスターだけが妙に大人びている。僕やモートン、シラとはどこか雰囲気が違う。なんというか、うまくは言えないけれど、アスターには生まれ持ったカリスマというか、リーダーシップみたいなものが備わっているように見える。
僕は【黄金のタカ】にはあとから入ったから、あの3人の過去の関係をまだよく知らない。けれど、モートンはアスターを恐れているのか、時々怯えたような表情を見せることがある。
僕はモートンのそんな顔を見るたびになんだか背筋が寒くなるんだ。
いや、もういい。こんなことをあれこれ考えるのはよそう。
僕は頭を振って、考えを切り替える。とにかくだ、数日は討伐作戦から解放されるのだ。
僕は報酬をポケットに詰めて、あの竜がひそんでいる隠れ家に向かった。
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