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第一話 旅を振り返って その九

「お待たせいたしました」

「うわぁ……!」


 木の板の上に乗せられた加熱された鉄板で、蒸気を挙げる厚切り肉。

 うーん、これは美味そうだ。


「ディアン様、厚切り肉ですよ!」

「そうだな」


 はしゃぐルビナ。

 そんなに好きだったか、厚切り肉。

 前に聞いた時は一番は決められないと言っていたが。


「ディアン様、お好きなんですよね」

「あぁ。覚えていてくれたのか」

「はい! 今日はディアン様と一緒に食べられるんですね……」


 そうか。あの夜私が厚切り肉を好きだと知ってから、以前自分だけ食べた事を悔いていたのか。

 まぁ前にも騎士団長の所で食べているんだけど、あの時はその後の衝撃が凄かったからなぁ。


「いただきます!」

「いただきます」

「どうぞどうぞ。じゃあ僕も」


 おぉ、鉄板で弾けた脂が香り立ち、食欲がそそられる。

 また食べる直前まで加熱されているお陰で、出来立てを食べる美味さが長続きする。

 あぁ、生きてこの厚切り肉を食べられるとは!


「美味しいですねディアン様!」

「あぁ、美味いな」

「喜んでもらえて良かったよ。もし良ければお代わりもあるからね」

「よろしいのですか? ありがとうございます!」


 ラズリーの言葉にルビナは目を輝かせる。

 見ればルビナの厚切り肉は半分ほどになっていた。

 早い。だが気持ちは分かる。

 さてルビナが肉に夢中になっている内に、と。


「ラズリー」

「何だいディアン」


 私の小声を察して小声で返してくるラズリー。

 こう言う内密に話したい事などが瞬時に伝わるところは助かる。


「ルビナを様々な人間と交流させたい。ルビナを竜と知っても交流してくれる人物に心当たりはないか」

「ぱっとは思いつかないな。シルルバ様が竜だってのも貴族のごく一部しか知らないし。国王陛下や大臣達は、あまり表に出したがらないだろうしね」

「いや、公的なものと言うよりは、友人として付き合えそうな人間を紹介してくれると助かるのだが」


 私の言葉に、ラズリーは天井を仰ぐ。


「友人として、か。流石に竜との交流の経験がある人は居ないけど、まぁ身分差とかに偏見が少なくて、肝の据わっている人なら何人か。それにしても何でまた?」

「ルビナは三年間村に囚われていた。そこから解放した私に対して信頼を寄せてくれている。だがそれは盲信に近い感情だ。なので様々な人間に触れさせる事で、その盲信を解きたいのだ」

「……」


 妙な沈黙。

 お喋りで、かつ歯に衣を着せないラズリーが黙り込むのは珍しい。


「何だ」

「君は相変わらず女心に疎いな、と思ってね」


 また妙な勘違いを……。


「ルビナの感情は本当の意味での恋じゃない。不安と絶望がもたらした幻だ」

「そう思いたければそれでも良いけど。分かった。信頼のおける人間を紹介するよ」

「助かる」


 ラズリーの人脈なら、そうそう危険な人物には当たるまい。

 ……普通ではないだろうけど。

 もしその中からルビナが気に入る人間が見つかれば、そこで私の役目は本当に終わりとなるだろう。


「ディアン様、この厚切り肉とお酒も、一緒に食べると美味しいですね!」

「あぁ、そうだな。気に入ったか?」

「はい!」


 この笑顔から離れる事を思うと少し寂しい気持ちにもなるが、ルビナの本当の幸せのためにやれるだけの事はやっていこう。

 私は酒の器をあおった。

果たして当たっているのはディアンかラズリーか。


第一話終了となります。

読了ありがとうございます。


こうして振り返ると、最初に村に立ち寄ったら、後はもう選択肢が無いですねこれ。

小心者なのに変に漢気を見せるから……。

でもこれだけの旅を無傷で乗り切っているのですから、幸運な男と呼んでも差し支えないでしょう。

ディアンも「不幸中の幸いと言う意味では……」と渋々頷いてくれると思います。


次回から第二話「張り詰めたものは綻んで」になります。

第二話は全七回構成となっております。

よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 振り返ると本当に濃厚な7日間でしたね。 考えてみると7日間でルビナちゃんをここまで餌付けした上に、恋に落としてしまった訳で……自己評価の低いディアン様だとこれは恋じゃないって想ってしまう…
[一言] やはり朴念仁だった・・・! 個人的には、交流増やすのもさることながらその前に、今のルビナの外見ってドラゴンスレイ村のやや美人さんの丸コピーなので、オリジナルの外見も模索(キャラクリ?)する…
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