第一話 旅を振り返って その八
酒で喉を潤し、ルビナは話を続ける。
「翌朝、竜皇国に転移し、父と再会しました。ただ、ディアン様に私が何かをされたのではないかと疑われたので、読心魔法で旅の記憶を確認しました」
「旅の記憶……? それってどこまで?」
ラズリーが小声で聞いて来た。
あぁ、苦い記憶が蘇る。
「……ルビナと出会ってからの全部だ」
「それを竜皇陛下に見られたの?」
「……ルビナと師匠、近衛兵の竜にもな」
「……うわ……」
絶句するラズリー。
「……それは、まぁ、何と言うか、ご愁傷様」
やめろ! 余計に辛くなるだろう!
「ディアン様の温かいお心遣いに私が感極まってしまい、部屋を出た後、ディアン様が私と兄、その他尾を切られた竜族の名誉を回復するために、竜皇の位に着かれ、人を下級種族と見なす掟を変えられました」
「……竜皇の、位? ……何がどうしてそうなったの?」
「私も無我夢中であまり覚えていない」
本当に何を考えていたんだろうあの時の私。
ルビナに失望されたと思って自棄になっていたのかな。
「こんな所に居て良いの竜皇様?」
「もう元の竜皇陛下に地位はお返ししてある」
「えぇ、勿体無い……。人間初の竜皇ディアンを見たかった」
勿体無くなどない。
あんな恐ろしい丸太渡りなんか二度とするものか。
「私も見たかったです……」
やめてルビナ!
そんな目で見られても駄目なものは駄目だから!
抱く必要の無い罪悪感をもたらさないで!
「その後父に死後竜に転生する魔法をかけられて、気を失われたディアン様を介抱しました。その時、見舞いに来た父との話の中で、親善大使の役目を頂けるようお願いしました」
「えっ、ちょ、転生?」
「そうらしい」
「どうなるの? 翼生えたりするの?」
「知らん」
「見てみたいなぁ」
それ私が一回死ぬ事になるからな? 絶対嫌だよ?
「翌朝、兄とも再会し、父に挨拶をして王都に参りました。朝ご飯のふわふわ卵、美味しかったです」
「成程、それで今朝謁見の間で親書の真偽を疑われたから、竜の姿で証明した、と」
「はい」
「そしてめでたく二人は親善大使として認められ、ついでにディアンは子爵の位を与えられる事になった、と」
後半はめでたくはないけどな。
あぁ今からでも爵位はお返ししたい!
無理だろうけど。
「ありがとう! 良く分かったよ! ではそろそろ主菜を出させようかな。おーい! 準備を!」
ラズリーが扉の外に呼びかけると給仕達が部屋に戻って来て、手際良く動き出す。
目の前の空いた皿が片付けられ、新たな小刀と肉叉が並べられていった。
これは……、成程。ルビナも喜ぶだろう。
死を覚悟してばかりの十六話から二十話、そして現在へ……。
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