第十話 傍らに安息、平穏は遥か彼方 その七
「でかしたぞ子爵ディアン!」
「……お褒めに預かり光栄の至り」
謁見の間に、国王陛下の上機嫌な声が響く。
大きな悩み事が解決した、そんな爽快な笑顔。
……確かに私の行動が解決に繋がったけど、ルビナと恋仲になった事がここまで賞賛されると、照れを通り越して恐怖を感じる。
「お主と皇女殿下が親密となった事で、我が国と竜皇国との関係はより盤石のものとなった! そなた達の未来を心より祝福しよう!」
「恐れ入ります」
「竜皇国親善大使として、お言葉有り難く思います」
私とルビナの言葉に、陛下はうんうんと頷く。
「そこでディアンの働きに対する褒美と、二人への祝いを用意させてもらった」
「勿体無いお言葉でございます」
「心より感謝申し上げます」
何だろう。欲しくないなぁ。
少しでも情報が欲しくて、大臣の方々の顔色を見回す。
財務大臣は、笑顔。お金に関する事じゃ無いのか。
軍務大臣は、笑顔。領土の割譲とかでも無い様だ。
他の大臣も一様に笑顔……。不気味だ。
平民上がりの成り上がり貴族である私が、これ以上国王陛下から目をかけられるのは不愉快に思う筈なのに……。
「まずディアン。お主を伯爵位に任ずる」
は?
「そして王国直轄領の一部を割譲し、オブシ伯爵領とする」
はあああぁぁぁ!?
「ディアン様が、領主に……!」
「……へ、陛下……、身に余る光栄、心より感謝申し上げます。しかし、いささか過分な褒美かと存じます」
「いや、そんな事は無い。国を守るお主の行いにはこれでも足りぬ位だ」
そんな事ありませんって!
竜族は別に人間に敵対心を持っている訳じゃ無いし!
私が何もしなくったって、別に戦いになる訳が……。
……守った、ではなく、守る……?
「……あの、国王陛下、その領地と言うのは……」
「竜皇国との緩衝地帯だ」
やっぱりかあああぁぁぁ!
そりゃ大臣様方も一様に笑顔だよ!
竜皇国に近いからと言う理由で、ほとんど人の住んでいない空白地。
止む無く直轄領にした曰く付きの土地。
確かに私とルビナなら竜皇国が近い事は問題にはならないけど、何も無いところからの領地経営……?
こんなの褒美じゃないよ! 罰だよ!
無理に決まってる! 何としても断る!
「貴族として経験の浅い私には、一からの領地経営は荷が重うございます。どうか他の」
「何、安心せよ。シルルバ相談役が竜皇国に話を通すとの事だ」
「え」
「叔父様が?」
師匠が何!? 何の話を通したの!?
「相談役の話では、お主に力を貸したいと言う竜族が居るそうだ。必要な建物と田畑、水源や道の整備位はすぐ出来るだろう、と言っておったぞ」
へ? 私に力を貸したい竜なんて……。
あ! 皇子様を初めとする尾を切られた竜達!
そういやそんな約束されたなぁ……。
不味い! 竜の魔力なら村位あっという間に出来てしまう!
「し、しかし建物や田畑がありましても、そこに住む者や働く者が居なければ……」
「それも心配無い。騎士や兵士の中にはお主を慕い、仕えたいと言う者が少なくないのだ。平民から貴族に出世した、希望の星と言われている様だの」
裏門の門番もそんな事言ってたなぁ!
た、確かにそう言えなくもないけど……!
「門番からも聞いておる。名乗らぬ貴族に諭され、心を入れ替えた、と言う娼館の主に心当たりを問われ、おそらくお主であろうと話をした、と」
あの八つ当たりに巻き込んだ人達か!
どんどん話が私の手の届かない方向に進んでいく!
「城下でも話題になっておる様で、お主が領土を得たとなれば、移り住む者も多く居よう。これで万事解決だのう!」
「ディアン様を頼みにする方がそんなに……! 嬉しい……!」
土地、建物、田畑、人。
領地に最低限必要なものが揃っちゃった……。
そしてルビナのこの目の輝き……。
「……謹んで、お受け、致します……」
私は声の震えを抑えながら、頭を下げるしかなかった……。
おめでとう! ししゃく は りょうしゅ に しんかした!
読了ありがとうございます。
次回『小心貴族と竜の姫』最終回となります!
よろしくお願いいたします。




