表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/73

第十話 傍らに安息、平穏は遥か彼方 その六

「いやー、ディアンもようやく覚悟を決めたかぁ」

「……」

「おめでとうございます。ディアン様、ルビナ様」

「はい! ありがとうございます!」

「……」


 あああ顔の熱が引かないいいぃぃぃ。

 いくらルビナが思い詰めていたからって、口づけはやり過ぎた!

 ……後悔は無い。

 無いけど……、無いけど……! もおおおぉぉぉ!


「……ディアンさん」


 キーヤの沈んだ声に、現実に引き戻される。

 見上げたキーヤの顔には、不安と覚悟がにじんでいた。


「あの、私も、ディアンさんの事、好きです! 大好きです!」

「キーヤ……」

「ディアンさんとルビナさんが心の深いところで繋がっているのは分かっています! 一番にはなれない事も……! ……ですから、私を側室にしてください!」

「……」


 真剣な想い。

 これを無礼を許した恩返しとか、ナイトル侯爵家との関係修復への感謝から来る勘違い等と思いはしない。

 キーヤは一人の女性として、ディアン・オブシと言う人間を愛してくれているのだ。

 だから私も真剣に答えよう。


「……ありがとう。嬉しい」

「……!」

「だが私はルビナを愛している。キーヤを側室に迎えたとしても、私は何につけてもルビナを優先し、キーヤに辛い思いや寂しい思いをさせるだろう」

「……」

「ディアン様……!」

「自分を真剣に想ってくれている相手にそんな不義理をする事は出来ない。だから……」

「では!」


 キーヤは涙声で私の言葉を遮った。

 しかし涙は零れていない。

 必死に耐えながら私を真っ直ぐ見つめていた。


「友人としてなら、お側に、居ても、よろしい、でしょうか!」

「……勿論だ。……ありがとう」

「ルビナ、さんも……!」

「はい! よろしくお願い致します!」

「……ありがとう、ございます!」


 それだけ言うと、キーヤは小走りに部屋を出て行った。


「……君が両手に花を楽しめるとは思ってなかったけど、ここまでしっかり振るとも思っていなかったよ」

「ラズリー……」

「後はルビナ嬢と存分に愛を語らいたまえ。邪魔者は去るよ」

「……ありがとう、ラズリー」


 そんな事を言いながら、泣いているであろうキーヤを慰めに行くのだ。

 傷付いた人に、ラズリーは優しい。

 私が死を願う程傷付いたあの時、何度も諦めずに手を差し伸べてくれた事を私は忘れない。

 ラズリーの為に出来る事があれば、私は持てる力の全てで彼を助けよう。


「ディアン様、ルビナ様、ご朝食はいかが致しますか?」

「着替えたらすぐに向かいます。ルビナ、それで良いか?」

「はい!」

「承りました。ではお支度が出来ましたらお越しください」


 スフェンさんが一礼して部屋を出ると、ルビナと二人きりになる。

 ……何となく気まずい……。


「……ルビナ」

「はい!」


 嬉しそうな返事。どきっとする。

 困った。何を話そう。


「……その、さっきは済まなかった。許しも得ず勝手に口づけをして……」

「いえ! 私、嬉しかったです! ディアン様が、私に触れられる事がお嫌じゃなくて、嫌われていなくて、ずっとお側に居られるって知って、それだけで……!」

「そうか、それは良かった」


 本当に良かった。

 好意はあっても口づけまでして良いかは別問題だからな。


「……ですが突然だったのと、嬉しさでよく分からなかったので、もう一度口づけしてもらえませんか?」


 う、うわあああぁぁぁ……!

 た、確かにいきなりだったからそうだろうけど、二人きりで改めてとなると、恥ずかしさが……!


「わ、分かった」

「ありがとうございます!」


 ま、待て、落ち着こう。

 確認をしておく事もあるはずだ。


「え、えっと、先程は私が勢いに任せてしてしまったが、基本的に人前でする事では無い。それは良いな?」

「はい!」

「それと、結婚……、夫婦になる誓いにも使われるが、その時は周囲の人に夫婦になった事を知らせる意味で、行う場合もある」

「はい!」

「それと、あと……」


 ……もう伝える事が無い……。


「で、では」

「はい!」

「……えっと、目を閉じて……」

「はい」


 素直に目を閉じたルビナに顔を寄せる。

 間近で見ると改めて美しく、可愛らしいと思う。

 愛おしさが込み上げてくる。

 あぁ、好きだルビナ。愛してる。


「ん……」


 重なった唇の感触は柔らかく甘く、今まで味わった事のない幸福感に包まれる。


「……はぁ……」


 唇を離すと、ルビナの口から吐息が漏れた。


「……ただ唇が触れるというだけで、ディアン様との繋がりを強く感じます……」

「そ、そうか」


 うっとりするルビナに、愛おしさが更に高まる。


「……口づけとは、とても、とても幸せなものなのですね……」

「……私も初めて知った」

「ディアン様と同じ幸せを感じられて、嬉しいです……!」


 そんな目でじっと見つめられると、口づけのその先を望んでしまいそうになる。

 いかんいかん。

 そう言うのは成竜の儀を終えてからだ。


「では着替えて朝食に行こう」

「はい!」


 手早く着替えると、私はルビナの手を取って部屋を出た。

 幸せを逃さない様に、噛み締める様に……。

ここに教会と、嫉妬の拳を叩き込む壁を建てよう。


読了ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ