第一話 旅を振り返って その六
「その後公衆浴場で身を清め、宿では夕食で初めてお酒を頂き、同じ寝台で休みました」
「へぇ、いよいよ?」
「だから何も無い」
私の言葉に俯くルビナ。
「……何も無い事はなかったんです」
「そこ詳しく!」
身を乗り出すなラズリー!
「私が不安からディアン様の心を魔法で読んでしまいました……。そしてディアン様が私や竜族を恐れている事を知ってしまいました。でもそんな私をディアン様は許し、私が自分の意思を見つけるまで側にいてくださると言ってくださいました」
「心を、読む……? 竜にはそんな力が……」
怯えた目をするラズリー。それはそうか。
だがルビナに対してあまり恐怖心を持たれたくはない。
「大丈夫だラズリー。身体にある程度触れないと出来ないようだし、そもそもルビナはみだりに心を読んだりはしない」
「はい。ご安心ください」
「そうなんだ。安心したよ。僕の心の中は女性には見せられないものばかりだからね」
だよな。綺麗な女性を見るや声をかけ、夜を共にしようとする心を読ませるわけにはいかない。
逢引のために身代わりをさせられたあの夜の事、忘れてないからな。
「翌日は街を回り、噴水に願いをかけたり、紅玉の首飾りを買って頂いたりしました。高価な品だったにも関わらず、私の支えになるなら、と買って頂きました」
「へぇ、倹約家のディアンがねぇ……」
ルビナ、値引かれたくだりを省略しないで。
いや、値引かなくても買う覚悟だったけど。
「その後はふわふわの揚げ魚と金色のお菓子を頂き、迷子の子のお母さんを一緒に探してくださいました。その後に食べた氷菓子の美味しさは忘れられません」
「優しいねぇ」
「はい! ディアン様はとてもお優しいです!」
「あぁ、うん……」
ルビナを褒めたつもりが私に転嫁されて、ラズリーは戸惑う。
「その日の夜は挽肉焼きをお酒と楽しむ美味しさを教えて頂き、無理にお酒を勧める街の騎士団長から私を守ってくださいました」
「あれ? 今の騎士団長って、確か伯爵家の人間だったよね? どこで会ったの?」
「街の酒場に立ち寄っては、立場を良い事に無体を働いていたのだ」
「まぁ貴族にとって、王都から離れた場所に行かされるのを左遷と取るのもいるから憂さ晴らしかな」
「恐らくそうだろう。情け無い話だ」
群れで生きる動物には、下位のものに鬱屈をぶつけ、それが更に下位に伝播する物がいるそうだ。
竜の精神性を知った今は、そういう人としてすらどうかと思う人間の話には溜息が漏れる。
かと言って今すぐ竜になる気はさらさら無いけど。
竜の凄さと恐ろしさが分かり始める六話から十話。
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