第八話 想いと向き合って その二
訳が分からない。
ルビナが身体の熱さを訴え、師匠に診てもらったら、私が父親!?
身に覚えが無い!
いや、ルビナが子を宿したなら、私以外の可能性の方がもっと無いけど!
「……何かの間違いでは無いのですか」
「この魔力の充実、体内温度の上昇、我が姪は間違い無く抱卵期に入ったよ」
抱卵期……? 何だか聞いた事がある響きだけど……?
「あの時聞いておけば、こんなに慌てなくても済んだのにね」
あの時……、そうか! 書庫の前で言っていた、竜が子を成す時期の話!
つまり、まだルビナは子を宿した訳じゃ無い!
……作らせる気は満々って感じだけど……。
「しかし、抱卵期とは苦しむものなのですか」
「人間の女性にも似た様な時期があるのだろう?」
あぁ、月のもの……。
経験は勿論無いけど、人によっては寝込んだりするらしいからなぁ。
「今回の場合、子を成すのに必要な魔力よりも大分多く溜まっているので、それが苦しさを感じさせているのだ」
あぁ、色々食べたり飲んだりしていたし、魔力を使う事は全然しなかったからなぁ……。
「では魔法を使わせて魔力を消費させれば、苦しみを取り除けるのですね」
「それは難しい。この状態で魔法を使うと、高確率で暴走するからね」
え、と言う事は……?
「では対処法は……」
「簡単だよ。契りたまえ」
簡単じゃなあああぁぁぁい!
待って待ってそう言うのは、こう、色々順序があって、段階を経て至るものだと思うんですけど!
竜の貞操感ってどうなってるの!?
いや師匠がおかしいだけか!?
うん、その可能性は高い。
「私の権限でこの部屋は封鎖しよう」
「い、いや……」
「家に戻りたいかい? しかしこの状態の我が姪を動かすのはあまりお勧めしないね」
「そ、そうでは無く……!」
「では武運を。軍務大臣のご令嬢、こちらへ」
「は、はい……」
反論する暇も与えられず、私はルビナと二人きりにされた。
……何を考えているんだ師匠……!
師匠が居なくなって、湧き上がる怒り。
当のルビナの意思を無視して、契れだと……!?
そんな事、死んでもするものか!
「ルビナ……」
「……んぅ……」
ルビナに対する愛おしさは、確かにある。
だけど、いや、だからこそ、身体だけ繋がる事は許せない。
何としても打開してみせる!
「ルビナ、必ず助けるからな……」
私は起こさない様に気を付けながら、ルビナの頭を膝から下ろす。
師匠、貴方は大事な事を見逃している。
私に教えた事の一つ。
ルビナが村に囚われた理由。
竜の魔力を奪う儀式舞踊の事を!
「……よし」
吐く程に物凄くきつかった記憶を振り払い、一つ一つの動作に力を込める!
腕を伸ばし、回し、膝を曲げ、身体を回転させ、細かく足踏みを刻む。
……側から見たら、寝ている女性の横で踊る変な男だろう。
気を紛らわせようとそんな自嘲めいた事を考えるが、段々とそんな余裕は無くなってきた……!
「……はぁ! ……はぁ!」
息が、上がる!
苦しい!
手を下ろしたい!
座り込んで水を飲みたい!
でも!
「……ん……、ふぅ……」
苦しそうな吐息のルビナ。
その姿に、自分の中に力が蘇る。
これを一滴残らず絞り出す!
「……がっはっ! はあ! はあ! はあ……!」
お、終わった! 膝が震える! 腕が上がらない!
自分の中が空っぽになったのを感じる……!
こ、これなら……!
「る、ルビナ……」
身体を引きずる様にして、ルビナの頭に触れる。
おお、何か温かく重い液体の様なものが、自分の中に流れ込んで来るのを感じる。
これが竜の魔力か……。
「……ぁぅ……」
ルビナが頭を擦り付けてくる。
攣りそうになる腕を動かすと、成程、ただ置いているよりも流れ込んで来るものが多くなるな。
「……はぁ……」
まるで猫の様に手に頬を擦り付けるルビナ。
新たに流れ込む魔力。あれ、これもしかして……?
「……う……!」
ルビナの肩に触れ、腕に触れ、私の恐れは現実になる。
……一箇所から吸い出せる魔力は限られてる。
つまり、ルビナの身体にくまなく触れないといけない……!
……師匠、もしかしてここまで読んでいたのか……!?
「……ぅぁ……」
だがもう後戻りは出来ない。
私は意を決して手を伸ばす!
……まずは安全な背中から……。
言葉通り「手当」だから、いやらしい事は何も無い。良いね?
読了ありがとうございます。




