第八話 想いと向き合って その一
前話までのあらすじ。
皇女と竜の誇りを守る為、侯爵家令嬢を叱り飛ばしてしまった小心者の貴族ディアン。
詫びに来た侯爵家令嬢キーヤを側に置く事になって、より自らの立場が危うくなったディアンは、自分の過去の恋愛話を持ち出したり、執事の話に乗っかりたりと様々な手を講じるが、全て悪あがきの一言で収まってしまうのであった。
それでは第八話『想いに向き合って』お楽しみください。
国王陛下との謁見を終え、控えの間でゆっくり息を吐く。
何度やっても慣れない……。
今は親善大使の仕事だから五日に一回だけど、毎日になったら心が保たないだろうなぁ。
それとも毎日の方が慣れるんだろうか。
早く爵位を返納して、身の丈に合った身分に戻りたい……。
「……キーヤさん、まだでしょうか……?」
「あぁ、軍務大臣との話が長引いている様だ」
……余計な事吹き込まれてなきゃ良いけど。
ってルビナが催促? 珍しいな。
……顔が赤い?
「ルビナ、どうした。具合が悪いのか」
「……何だか、身体が、熱くて……」
額に手を当てる。
……普段触れてないから違いが分からない!
手を握ってみる。
……普段から温かいから違いが分からない!
手近にあった鈴を鳴らす。
扉の側で待機していたであろう侍女が入って来た。
「何かご用でしょうか」
「済まない。シルルバ相談役を呼んで来てもらえないか」
「し、シルルバ相談役でございますか!?」
悲鳴に近い声を上げる侍女。
……無理かなぁ。王城内で国王陛下に次ぐ権力者だもんなぁ。
そうしたらルビナの様子を見ていてもらって、私が呼んでくる方が早いか……。
「すぐに呼んで参ります! あぁ……! シルルバ様に直接声をかけられる機が巡って来るなんて……!」
喜びを隠そうともせず、出て行く侍女。
……まぁ見た目は美麗だし、権力も魅力の一つか……。
玉の輿狙いなら絶対に止めた方が良いと思うけど。
「ディアン様……?」
「今師匠を呼んだ。きっと師匠なら竜の病にも詳しいだろう。少し耐えてくれ」
「叔父様が……。はい……」
そう答えるとくたりと力が抜け、ルビナの身体が背もたれに沈む。
「大丈夫か。横になるか」
「……はい」
返事と共に、私の方に倒れ込んで来る!
えっと、あの、ひ、膝に頭が乗って……!
「はぁ……、はぁ……」
えぇい! 戸惑っている場合か!
少しでも苦痛が和らぐ様に、膝の上に乗ったルビナの頭を撫でる。
「ふぅ……、ぅ……」
膝にかかるルビナの頭が重さを増す。
力が抜けた様だ。呼吸も心なしか軽くなっている。
……竜の病、治るのだろうか。
身体の強い竜の病だ。王国の薬では効かないだろう。
そうなれば師匠に竜皇国に連れて行ってもらって、療養をする事になる。
それで治れば良いが、もし重い病だったら……。
「ディアンさん、ルビナさん、お待たせしました!」
「キーヤか。そのまま入って来てくれ」
「? ……分かりました」
キーヤが扉を開けて、入って来るなり、
「えっ!? ディアンさん!? それは一体……」
顔を赤くして取り乱した。
違う! 膝枕を見せつける為に入って来いと言ったんじゃない!
「ルビナが身体が熱いと言っていたので横にならせている」
「あ、そ、そうでしたのね」
「今師匠……、シルルバ相談役を呼んでいる。もし感染性のある病気だった場合、キーヤにも対応が必要だ。ここで待っていてくれ」
「わ、分かりました!」
緊張の面持ちで、対面の長椅子に座るキーヤ。
ルビナに目を落とすと、いつの間にか荒かった呼吸は寝息に変わっていた。
とりあえずは安心か。
師匠を待つ間に、情報を集めておこう。
「何かルビナの様子がおかしい事はあったか」
「いえ、昨夜も今朝も変わりなく……。むしろディアンさんが部屋に戻って来てくれた事で、より元気になっていたと思います」
う、昨晩はご心配をおかけしました。
風呂から戻ったキーヤに謝罪をしたら、笑顔で受け入れてくれたのは本当に有り難かった。
「……改めて、昨日は済まなかった」
「い、いえ、そんな……!」
「それと、ありがとう。私の為に心を配ってくれた事、感謝している」
「……あ、ありがとう、ございます……!」
キーヤが弾ける様な笑みを浮かべる。
当初の勘違い高飛車など見る影も無い。
本当に私なんかの側に居るのが勿体無く思える。
ルビナが離れたら私の価値は激減する訳だし、早いところナイトル侯爵家に帰さないとな。
「そうだ。お父上との話はどうだった」
「お義父上……!?」
しまった言い方を間違えた!
「……軍務大臣殿からは、何かあったか」
「あ、えっと、これまでで一番褒められたかも知れません。それと、ディアンさんとルビナさんに、よくよくお礼を申し上げるように、と……」
良かった。キーヤに対する評価は良い方向に進んでいる様だ。
このままルビナと良い関係が続けば……。
「失礼致します。シルルバ相談役をお連れ致しました」
楽観的になりかけた頭が、扉を叩く音で現実に引き戻される。
「やぁ我が弟子。私を呼びつけるとは余程の事だね。我が姪に何かあったかな」
「……ルビナが、身体が熱い、そう言って、今は眠っています」
「ふむ、どれ……」
傍目にはただ見ているだけの様だけど、おそらく竜の魔法を駆使しているのだろう。
どうか大病ではありません様に……!
「成程、思っていたより早かったね」
「師匠、ルビナの病気は一体何なのですか」
「安心したまえ。これは病気では無いよ」
病気では無い、としたら一体……?
「おめでとう。我が弟子も父親となる時が来た様だね」
……は……?
はあああぁぁぁ!?
鸛「ワシらとちゃうで」 甘藍畑「せやせや」
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