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第七話 近付いて、離れて その七

「ディアン、起きてる?」


 ラズリーの声!

 ルビナでなくて良かったけど、こんな時間に来たのは何故だ?


「……何の用だ」

「寝酒でもどうかと思ってね」


 ……どうしよう、この状況。

 キーヤはまだ真っ赤な顔のまま、もじもじしている。

 こんなの見られたらまた何を言われるか……。

 しかし二人きりになったら、さっきの話の続きになるのは明白だ。

 それに追い返したら追い返したで、明日以降痛くない腹を探られる羽目になる。


「……今、キーヤが居る」

「え、お邪魔だった?」

「いや、少し話をしていただけだ。……キーヤ、構わないか」

「……はい」


 消え入りそうな返事。ごめんキーヤ。


「お邪魔しまーす。ごめんねキーヤ嬢」

「い、いえ……」

「一緒に飲むかい?」

「い、いえ、失礼します……!」


 部屋を小走りに出て行くキーヤ。

 キーヤには悪いけど、ほっとした……。


「悪い事しちゃったかな?」


 言いながらもラズリーは大して気にした様子も無く、自分の持って来た二つの器に酒を注いでいく。


「じゃあ乾杯!」

「……乾杯」


 明日は登城があるし、キーヤにあんな扱いをしてしまうし、酔う気にはなれない。

 ラズリーの手前、口だけは付ける。

 ……ん? ラズリーが手ずから持って来た割には、味が凡庸だな。


「あー、やっぱりあんまり美味しくないね」


 顔をしかめるラズリー。

 やっぱり? 分かっていて持って来たのか?


「……何故これを選んだのだ」

「だって飲むつもり無かったから」


 は?


「そこの寝台にぶち撒ける用だったの」


 こぉの似た者主従があああぁぁぁ!

 酒の神に謝れえええぇぇぇ!


「キーヤ嬢が居るならって説得に切り替えようとしたけど、逃げられちゃったね」

「……説得、だと」

「そ。部屋、戻る気は無い?」

「無い」


 何故首を縦に振ると思っているのか。

 そんな説得に乗る位なら、あの変な空気になった時点で撤回してるよ!


「君の心の傷を癒やすのに良い環境だと思うのに」

「キーヤにも言ったが、自分の傷の為に二人を利用する気は無い」

「利用、ねぇ……」


 ラズリーの目が鋭さを宿す。


「ルビナ嬢は君と出会った事で救われた。キーヤ嬢も君のたしなめで過ちを正せた。言わば恩人だ。その礼を受ける事が、そんなに悪い事かな?」

「む……」

「恩を売るだけ売って、お返しは受けない、それが相手にとってどれ程の負担になるか、考えた上での行動だと言うなら、僕もこれ以上言わないけど」

「う……」


 ……ぐうの音も出ない……。

 恩返し、確かにルビナはずっと気にしていた。

 それを返せない事が、私への依存を深めてる要因の一つかも知れない。

 ……だからと言って、同じ寝台で寝るのは……。


「君に対して返し切れない恩があると感じているルビナ嬢なら、側に居る事が君の助けになると思った時は喜んだんじゃないかな? それが突然拒絶されたら、それは相当な衝撃だっただろうね」


 脳裏に浮かぶルビナの泣き顔!

 読心魔法を使い、私が竜を恐れている事を知ったあの涙!


「あ、ディアン」


 気が付けば私は部屋を飛び出していた。

 済まないルビナ。

 私はどうしようもなく臆病で、思慮が足りず、いつも心ならず君を傷付ける。

 それが嫌で、早く離そうとした事が余計に傷付けてしまうのなら、もういっそ……!


「あ、ディアン様」


 って全然普通うううぅぅぅ!

 部屋の前で出会ったルビナは、お風呂上がりで普通に上機嫌じゃないかあああぁぁぁ!


「どうかされましたか?」

「あ、いや、その……」


 危なかったぁ!

 今ならまだ引き返せる!

 何でもない、おやすみ、そう言って立ち去れば良いんだ。

 部屋に戻ったらラズリーからはからかわれるだろうけど、そんな事知った事か!

 寝台に酒を撒かれているかも知れないけど、そこでだって眠れるさ!

 だから……!


「……ルビナ。先程の私の提案をどう思った」

「……部屋を別に、と言うお話ですよね……」

「あぁ」

「……ディアン様と離れて眠るのは、寂しいなと思いました……」


 それが予想していた泣き顔だったら、私は迷わずルビナの為に、一緒に寝よう、と言っただろう。

 しかし、


「でもディアン様が仰るなら、きっと大切な事なのだろうと思いました。ですから、寂しいですけど頑張ります!」


 そこには強い笑顔があった。

 竜は嘘を吐かない。心からそう思っているのだろう。

 だから私はこう答える事が出来た。


「済まない。ルビナが成長するには私と離れた方が良いと思ったのだが、ルビナにそんな心配は無さそうだ。私が心の傷に慣れる為に、やはり今夜も一緒に寝かせてくれないだろうか」


 情けない。

 みっともない。

 格好良くありたい。

 失望されたくない。

 いつもならそんな感情が止めてくれた弱さが、口を突いて出た。


「よろしいのですか!?」


 ……すっごい反応。目が輝いて見える。


「済まない。あんな事を言っておきながら、この有様ではな」

「いえ! そんな事はありません! ディアン様のお役に立てる事が何よりも嬉しいです!」


 ……ルビナの満面の笑みを見て、私は少しだけ、ほんの少しだけ、今までずっとのしかかっていた心の重みから離れられた様な気がしていた……。


「キーヤさんも喜ぶと思います!」

「……そうかな」


 ……すぐぶり返したけど……。

あらあらうふふ。


読了ありがとうございます。

これにて第七話完了となります。


当初はディアンの過去に触れて真面目な話になっていたのですが、どうしても筆が進まず、少し笑いを乗せようとしたらまぁ動く動く。

ディアンは根っからのいじられっ子って事ですね。


次話こそ予定していたディアンの過去になるはずですが、あまり期待せずお待ちください。


次話は『想いと向き合って』となります。

こちらも全七回予定です。

よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今回はディアン様とラズリーさんの友情というか、腐れ縁と当人達は言いそうですが、ラズリーさんが茶目っ気を出してはいるもののディアン様を心配しているのが伝わってくるお話でした。 掃除桶とお酒、…
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