第一話 旅を振り返って その五
ルビナは少し辛そうに、しかしはっきりと話し始めた。
「……兄が尾を切られた事が許せず竜皇国を飛び出した私は、力を失い人間の村に囚われました。竜の誇りを失った私をディアン様は励まし、翌日お持ちの馬と引き換えに私を解放してくださいました。恩返しをとお願いしたところ、旅のお供をと言って貰えたので、人の姿に身を変えました」
段々と明るくなるルビナの声。
辛かった記憶を乗り越えつつあるんだな。
……私にはまだ無理だ。
「道中、村では飼い葉を食べていた私に、麦餅に燻製肉を挟んだものを頂き、川で湯壺を作って頂き身を清めました」
「湯壺か。懐かしいなぁ。訓練生時代にやらされたねぇ。必死に作ったのに上官達しか入れなくてさ、腹立ったよなぁ」
「そうだったな」
懐かしさに少し緩んだ頬を、ラズリーの小声が叩く。
「で、見たの?」
だからお前は悪友だと言うんだ!
「湯壺に入っている姿は見ていない」
「えぇ、本当に? 信じられない……! 君本当に男?」
疑いの目を向けて来るラズリー。
誰も彼も男は自分と同じと思うな!
嘘は吐いてない。事故はあったけど。
「町に着いたら服と野営の道具を買い与えて頂き、美味しい厚切り肉を頂きました。その後ディアン様は麦が不足している町の方の為に芋餅を作られました。私が初めてディアン様のお役に立てた時です」
「へぇ、どんな風に?」
「私との話の中で対策を思い付いたと言ってもらいました。それと、芋餅作りもお手伝いしました」
金策の為に自分の皮剥ぐって言い出すから大変だった。
苦肉の策だったが、何とか乗り切れて良かった。
「そうなんだ。その後は?」
「その後森の中で野営の準備をして来た時、不安に襲われた私を優しく抱きしめてくださり、夜も横で眠る事を許して貰いました」
「ほう!」
「君の思っている様な事は何も無いぞ。ただ隣で眠っただけだ」
喜ぶラズリーに釘を刺しておく。
無い腹を探られるのは御免だ。
「そうなの?」
「はい。お陰様でとても良く眠れました」
「あらら……」
ラズリーは呆れた目で私を見て来る。
本当に何も無いんだから仕方がないだろう。
ラズリーの立場だったら私もそんな目になるだろうけど。
「翌朝、近所の農家の人に絡まれ、私が怒りに任せて罰しようとしたのを止めて頂き、その方々へも温情をかけていました。街に着いてからは、私の空腹を慮って、お仕事を切り詰めて昼食をご一緒させてくださいました」
「ははっ、ディアンらしい」
絡まれた事か?
罰さず見過ごした事か?
一緒の食事の為に仕事を切り詰めた事か?
何にしても騎士らしくはないのは自覚しているよ!
一見正統派ラブコメに見える一話から五話。
読了ありがとうございます。