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第七話 近付いて、離れて その二

「ここが、お二人の部屋……」


 キーヤが緊張の面持ちで、きょろきょろと部屋を見回す。

 ……昔の私を見る様だ。

 私も騎士に成り立ての頃は、どこに呼ばれても落ち着かず、あちこち見回したものだ。

 そう言うのをみっともないと笑って嗜めてくれたのは……。


「キーヤ、こっちに来てくれ」

「ひゃいっ!」


 ……凄い反応……。

 私が座っている寝台におずおずと座るが、人二人分位の距離を空けられている。

 多分この後されるであろう事に怯えてるんだろうなぁ。

 キーヤは元々政略結婚を目的の一つとして、私の元に送り込まれて来た。

 更に今は非礼の詫びと言う、本っ当に余計な要素も加わっている。

 この状況で手を出さないと、キーヤの女の誇りを傷付けるだけでなく、謝罪の拒否と受け取られかねない。


「ルビナ、私とキーヤの間に座ってくれ」

「はい!」


 つまり、キーヤの魅力や謝罪の気持ちの外に断る理由を示さないといけない。

 ……身の恥を晒す事になるが、考え様によっては今後政略結婚を食い止める布石になるかも知れない。

 そう考えよう。


「ルビナ。私がルビナに必要以上にくっつかれると困ると言う話をした事があったな」

「はい」

「それは私の過去に原因がある」

「過去、ですか?」

「あぁ」


 ルビナもキーヤも私が何の話をしようとしているのか分からないのだろう。

 きょとんとした目のまま、私を見つめている。


「私はかつて一人の女性を愛した」


 胃の辺りが、素手で傷に触れた時の様にずきりと痛む。

 だがこの程度、所詮表面の痛みだ。耐えられる。


「しかし私はその女性を永遠に失った」

「!」

「永遠に、失う……?」


 ルビナにはこの婉曲な言い回しはぴんと来ていない様だが、キーヤは明らかに表情が変わった。

 このまま丸め込む!


「……その女性の事が、まだ忘れられないのだ。だから女性に触れたり深く関わろうとすると、その辛さが蘇る……」

「そ、そうだったのですね! 今まですみませんでした!」

「いやルビナ、私も女々しく恥ずかしいと思い、今まで黙っていたのだ。知らせなかった事で責める謂れは無い」


 申し訳無さそうな顔をするルビナの頭を撫でる。


「……あの、では今夜は何も……?」

「あぁ。寝る部屋はここでも自室でも構わないが、どちらで寝ても同じなら、一人で静かに寝るのも悪くないと思うぞ」

「……」


 安心した様な、肩透かしを食った様な複雑な表情のキーヤ。

 これなら過去の女に引き摺られている、女々しい男である私が悪い、と言う事になる。

 キーヤの誇りを傷付ける事も無く、謝罪を拒否した事にもならず、関係を持つ必要も無い。

 それと引き換えなら、身の恥も心の痛みも高い代償では無い。


「……ディアン様」

「どうしたルビナ」

「そのお辛い気持ちを軽くする為に、私に出来る事は何かありませんか?」


 えっ。


「ディアン様が幸せである為には、その辛さが無くなった方が良いですよね? 私にそのお手伝いをさせてください!」


 しまった! ルビナならそう言う事は想定して然るべきだった!

 何と答えよう! えーっと、えーっと……!


「ルビナさん!」


 勢い込むキーヤ!

 無闇に傷に触れるものじゃ無いとか言って、ルビナを止めてくれるのか!?


「失った恋の傷を癒すには、新しい恋が必要だと聞きます!」


 何言ってんのキーヤ!

 確かにそんな話を聞いた事はあるけど!


「ディアンさんが傷付いていて、女の人に触れる事も辛くなってしまうなら、私達が側に居て慣れさせて差し上げれば、新しい恋に向かえるかも知れません!」

「お側に居れば……!」


 あれあれあれ?

 何だか話の方向がおかしくなってきてはいませんか?


「ではディアン様、お辛くなったら言ってください。少しずつ慣らして参りましょう」

「え、いや、その……」


 手を握ってくるルビナ。


「私も協力致します! 天に還られたその方も、ディアンさんの幸せを願ってると思います!」

「あ、まぁ、うん……」


 立ち上がって反対側に回り、手を握ってくるキーヤ。


「もし新たな恋をしても良いと思えたら、その時は……!」


 その時とは何ですかキーヤさん!

 しまった! ぼかして語ったせいで、女々しさよりも悲劇の要素が強くなってしまったのか!

 別に死別じゃないんだけど!

 でも今更平気な感じを出しても、尚の事気を遣われる!

 最初からもっとありきたりで情けない感じで話していれば……!


「……とりあえず、手を握るだけに留めてくれ」

「はい!」

「分かりました!」


 ……一応今夜は虎口を凌げた。

 もっと逃れられない何かに捕まった様な気もするが、それ以上は明日考えよう……。

戦力の逐次投入は悪手、歴史がそれを証明している。


読了ありがとうございます。

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