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第六話 陰謀は音も無く 騒動は高飛車に その五

「なーるほどねぇ」


 私の説明を聞き終えたラズリーは、にやついた顔のまま、手を頭の後ろで組む。

 ラズリーは面倒事を楽しむ癖があるから、その笑顔が非常に怖い。

 今回の事はどれ位の面倒事なんだろう……。


「こう言った場合、貴族の間ではどの様に詫びるものなのだ」

「え、詫びるの?」


 意外そうな顔をするラズリー。

 え、詫びないの?


「今回の件は、国賓扱いであるルビナ嬢に対する失言を咎めた訳でしょ? しかもルビナ嬢への取り成しもして怒りを収めて、ディアンは感謝されても責められるいわれは無いよ」

「そう、なのか」


 成程、私対ナイトル侯爵家ではなく、竜皇国皇女対ナイトル侯爵家と考えれば、力関係は全く別物になるな。

 そう思うと少し気が楽になる。

 個人的に手紙か直接会って詫びれば、それ以上の追求は無さそうだ。


「むしろここから何を引っ張り出すかでしょ」

「……何をだ」

「ナイトル軍務大臣から、金なり権限なり必要なものを、さ」

「……それは脅迫では無いのか」

「人聞きが悪いなぁ。交渉だよ、交渉」


 言い方を変えただけだろう、それは!


「これはこちらが利を得る為だけじゃ無いよ。ナイトル大臣にも利があるんだ」

「……どう言う意味だ」

「貴族は罰を受ける事が滅多に無いけど、それは罰せられないと言う訳じゃない。表に出難いだけで失敗や罪は重なり、顕在化した時は爵位剥奪か極刑だ。だから取り返しが付く内に対処したいのさ」


 成程、借金が利息で膨れ上がる前に、小まめに返しておきたい、と言う事か。

 失敗による負債が、自分の地位や命で支払わなければならないところまで膨れ上がる前に。


「だからむしろ何かを要求してあげる方が優しさだね。何も要らない、と言う事は、交渉の余地無し、と言う最後通牒と同じだね」


 え、つまり私が怒りに任せて無礼を指摘した事で、何か貰わないといけなくて、要らないと言えば争いになるのか!?

 そんな事態、何が何でも回避しないと!


「……穏便に収めるにはどうしたら良い」

「穏便に? むしろ良い機会だから、強く出てごらんよ。貴族の交渉なんて譲った方が負けなんだから」

「しかし、万が一交渉が決裂したら、ナイトル家と事を構える事になるのだろう」

「ひゅう、すごい事言うね。もしかして結構怒ってる?」


 口笛を吹くラズリー。

 え、私は怒ってないぞ?


「失礼致します。オブシ様にお客様です」


 スフェンさんのおとないの声。

 私に客? 一体誰が?


「私にか。どなたがお見えになったのだ」

「軍務大臣、オーケン・ナイトル侯爵様と、ご息女キーヤ様でございます」


 え!? な、何で!?

 まさか娘の涙に激昂して殴り込み!?


「へぇ、意外。大臣が直接出向いてくるとは思わなかった」


 ラズリーの予想の外!?

 な、何が起きるんだ……!

 私だけなら殴られでも土下座でもするけど、ルビナやラズリーにまで迷惑をかける様な事になれば……!


「じゃ、入ってもらって」

「畏まりました」


 待てラズリー心の準備が!

 勢い良く扉が開く!

 飛び込んで来た二つの影に腰が浮く!

 と、影は流れる様な動きで床に頭を付ける!


「この度は娘が大変失礼を働き、申し訳ありませんでしたぁ!」

「申し訳ありませんでした!」


 何いきなり! 親子で土下座なんか止めて!


「お許しください! 私が娘に日頃より、侯爵家令嬢として誇りを持ち、人に侮られない様に、と教えていた事が誤って伝わっていた様でして、本当に申し訳無く思っております!」

「侮られてはいけないと、失礼な態度を取ってしまいました! 父から叱られ、ようやく己の過ちに気が付きました! 本当に申し訳ありません! どうか、どうか……!」


 待って待ってまず顔を上げて!


「どの様な償いも致します! ですからどうかお怒りをお鎮め頂きたく……!」

「何でも致します! どうか、お慈悲を……!」


 駄目だこりゃ。

 ラズリーは、と見れば必死に笑いを堪えている。

 予想外って、ここまで怯えてるとは思わなかったって事かよ。

 もう交渉も何も無い。とにかく帰ってもらおう。


「大丈夫です。皇女殿下もお気になさっていない様子でしたので、一度お帰りになって、また落ち着かれましたら改めてお話し致しましょう」

「そ、そんな……! それ程のお怒りとは……! いえ、無理も無い事でございますな……」

「ひぃ……」


 え、何でそんなに絶望されてるの?

 怒って無いってば。

 あ、ラズリーがようやく笑いの発作から解放された。

 小声で確認する。


「何故二人はこんなに怯えているのだ」

「ふー……。あのねディアン、ここで帰れって言われたら、弁明は聞かない、追って沙汰を待て的な意味にしかならないでしょ」


 あ。

 ルビナが怒ってなかったし、私は自分の言い過ぎの方が気になってたから思い当たらなかった!

 そうだよな! ここで話も聞かずに帰れって言ったら門前払いだよな!


「だ、大臣の席をお望みでしたらお譲り致します! どうか、家にはお慈悲を……!」

「元はと言えば私の浅はかさが招いた事……! この身で出来る事でしたら、どうぞ、ご随意に……!」


 謝罪がどんどん激化していく!

 早く食い止めないと、最後は命まで差し出しかねないぞ!

 でも何を求めれば良いんだ!?


「仕方がありませんね。如何でしょうオブシ子爵。皇女殿下とオブシ子爵への償いが済むまで、キーヤ様がこちらに住み、お二人の身の回りのお世話をすると言うのは」


 は!? 何言ってんのラズリー!

 侯爵家令嬢に侍女みたいな事をさせる気!?


「ラズリー様! ありがとうございます! この御恩は生涯忘れません!」

「オブシ様! 誠心誠意お仕え致します!」


 うわぁ。待ってましたとばかりに承諾する二人。

 泣きながら安堵する姿に、今更断る術なんて無かった……。

さぁ恋愛喜劇らしくなってまいりました!


読了ありがとうございます。

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