第六話 陰謀は音も無く 騒動は高飛車に その四
「な、何を仰ってますの!? あ、愛!?」
「はい」
動揺するナイトル嬢。
無理もない。私も同じ気持ちだ。
「あ、愛って、貴女、その、オブシ子爵と一緒に暮らして、その、愛、愛し合っているのではないの……?」
「え?」
顔真っ赤にして何を聞いているんだ!
不味い! ルビナが愛の先の行為について興味を持ってしまう!
それだけじゃない! 私がルビナとそう言う関係でないと知られたら、貴族の政略結婚が激化する!
「皇女殿下。ナイトル様はお困りの様子。別の質問をされると良いでしょう」
「ですが今、私とオブシ子爵が愛し合っていると仰られたので、その意味だけでも伺いたいです」
駄目えええぇぇぇ! それが一番駄目えええぇぇぇ!
「……あっは! あははははは!」
何だ!? ナイトル嬢が急に笑い出したぞ!?
「なぁんだ。貴女、オブシ子爵に愛されてる訳では無いのね」
「えっ……!」
「お父様から、竜と共に居て恐れる様子も無いのは男女の契りがあるからに違いない、と聞かされていましたけど、あれは誤りでしたのね」
軍務大臣様、何を娘に吹き込んでいるんですか!
誤りは誤りだけど、恐れないのはルビナ自身を知る様になったからだし、きっと他の人も知れば見方が変わると思うんだけど……。
「考えてみれば当然ですわね。たとえ美しい姿をしていても、所詮は変化。所詮は偽物」
「あ……」
「竜などと言う恐ろしい存在に、愛など抱く訳がございませんもの!」
「……」
「愛と言うものは、人と人の間に生まれるもの! 竜と人との間に愛など」
「黙れ」
「……は?」
顔面蒼白になったルビナの手を握り、真っ直ぐナイトルを睨み付ける。
一拍遅れて、ナイトルは顔を真っ赤にして喚き出す。
「な、何ですの!? こ、侯爵家令嬢の私に向かって、だ、黙れですって!? し、子爵風情が! ぶ、無礼者!」
「無礼はどちらだ。異国の文化を学ぼうと真摯に傾ける耳に、嘲りを流し込むのが我が国の礼儀だとでも言うのか」
「う、で、でも……」
「竜に愛が無いなどと誰が決めた。魂ある者が己以外に心をかけるのがそんなに不思議か」
「いえ、その……」
「自分が竜を受け入れられないからと、他者も同じであろうなどと傲岸不遜にも程がある。むしろ愛と聞いて性愛しか思い付かない己の卑賤さを恥じるべきだ」
「う……」
「竜族の高潔な魂への侮辱を、皇女殿下にこれ以上お聞かせするのは忍びない。失礼する」
「あ、あの、私は、そんなつもりじゃ……」
謝罪を口にする気が無いなら聞く気も無い。
ルビナの手を取って部屋を出て、自室へと戻る。
「……ディアン様……」
ルビナの声で我に返る。
いかん、ついかっとなってしまった。
繋いでいた手を解く。
「……済まない。強引に引っ張ってしまった。痛みは無いか」
「大丈夫です」
「……不快な思いをさせた。代わりにはならないが、同じ人間として詫びさせて欲しい」
「そんな必要ありません……」
解いたばかりの手をきゅっと握られた。
「ディアン様が私の為に仰ってくださった事、嬉しかったです……」
良かった。これで人間と竜の愛が有るか無いかで泣いたり不安になったりしたら、最悪愛してると囁く羽目になるところだった。
ルビナの笑顔に胸を撫で下ろしていたら、扉が叩かれた。
「ディアン。良いかい?」
「ラズリーか。あぁ、構わない」
しかしラズリーは入って来ようとはせず、扉を薄く開けたまま手招きをしている。
ルビナは別の方が良い話か。
「ルビナ、ラズリーと少し話がある。本を読んで待っていてくれ」
「はい」
廊下に出るとラズリーは、少し硬い表情をしていた。
何かあったのだろうか。
「どうした」
「今ナイトル嬢が泣きながら帰って行ったんだけど、君何かした?」
何かあったどころじゃなあああぁぁぁい!
怒りに任せて言い過ぎたあああぁぁぁ!
しかしまさか帰るとは!
どうしよう! 問題になるよな!
「……済まないラズリー。知恵を貸してくれ」
「うん、じゃあ何があったか聞かせてくれる?」
……廊下で済む話じゃ無いよな。
「では応接室を借りて良いか」
「勿論」
応接室に向かう足取りは、自然と重いものになった。
はぁ、土下座で済めば良いなぁ……。
なーかしたなーかした! だーいじんに言ってやろー!
読了ありがとうございます。




