第一話 旅を振り返って その二
酒の値段に気後れしながらも、乾杯をした以上飲まない訳にもいかない。
覚悟を決めて器に口を付ける。
「!」
「わぁ!」
「流石親父の蒐集品だ。美味いね」
美味いどころの話じゃない!
香りは鼻に飛び込んでくるような鮮烈さがあるのに澄んでいて嫌味が全く無い。
味も蜂蜜かと思う程の甘さなのに、後から来る酸味が口の中を綺麗に余韻だけにしていく。
こんな酒がこの世にあったなんて!
「ディアン様、美味しいですね!」
「あぁ。私もここまでの酒を飲んだのは初めてだ」
しかし酒が美味ければ美味い程、のしかかる重圧。
とりあえずあまり飲み過ぎないようにしないと。
「ルビナ、折角の美味な酒だ。ゆっくり、少しずつ味わう事にしよう」
「分かりました!」
前のように水みたいに飲もうものなら、侯爵様に殺されかねない。
「さぁ、料理も食べて食べて。我が家の料理人に腕を振るわせたんだ」
「……いただきます」
「いただきます!」
ルビナの目が料理に移る。
酒についての話は一旦置いておこう。
「!」
「おい、しい……!」
最初に野菜の盛り合わせを口にする。
野菜の新鮮さもさる事ながら、かけた調味油が素晴らしい。可能なら後で作り方を教えてもらおう。
前菜の蒸した鶏肉にかけたこのかけ汁、これを麦餅に付けたら幾らでも食べられそうだな。
「ディアン様、美味しいですね!」
「そうだな」
揚げ芋や炙り腸詰など庶民的な料理があるのも嬉しい。
貴族の高尚な料理よりも庶民のものを好むラズリーに合わせたのだろう。
しかし市井で食べるそれとは一線を画す美味さ。
料理人の腕の素晴らしさが感じられる。
「あぁ、美味しい……! ディアン様に教わった通り、お酒と合わせるとお料理がもっと美味しくなりますね……!」
うっとりした目で料理と酒を口に運ぶルビナ。
……仕方がない。酒の弁償は覚悟しよう。
「ラズリー。この借りは必ず返す」
「はい駄目ー」
私の小声にラズリーが指を交差させる。
……何だ一体?
破産を恐れながらも支払う覚悟は、漢気か無謀か。
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