第三話 文字と言葉に宿る力 その一
前話までのあらすじ。
子爵となった小心者のディアン。気の緩みから酒に酔い、昔の夢に誘われてルビナの頭を撫でたり、あわや混浴の事態になりそうになったりしたが、小心者の本領でこれを回避。しかし国王の招聘を知り、小心者ゆえに震えるのであった。
それでは第三話「文字と言葉に宿る力」お楽しみください。
謁見の間。
大臣達と近衛兵が緊張の面持ちで立ち並ぶ。
ラズリーがその中で唯一、薄笑いを浮かべてこっちを見ていた。
覚えてろよ。同じ状況にあったら同じ目で見てやるからな。
……そんな機会、無いか。
「国王陛下の御成である!」
近衛兵の声に、謁見の間に緊張が走る。
私は強張りそうになる身体を無理矢理動かして、膝をつき国王陛下を待つ。
ルビナも教えた通りの女性用の礼を完璧に形作っている。
これで無礼を咎められる事は無い筈だが……。
「ま、待たせた! す、済まぬ! こ、これ程早く来るとは、お、思っていなかったのでな……!」
国王陛下、息切れしてるうううぅぅぅ!
物凄く急いで来たのが分かる!
良いのに! 私もルビナも全然待つのに!
私が慌てて来たのが悪かったのか!?
いや、私とルビナが夜通し愛を交わすだろうと思い込んで、謁見の段取りを適当にしていたラズリーにも非があると思う。
……ごめんなさい陛下。
「陛下、御目通りをお許し頂き、感謝致します」
「うむ……。昨夜はゆっくり休めたか」
「お気遣いありがとうございます」
「皇女殿下は、その、……如何でしたかな」
「はい。素晴らしいもてなしを受けました」
「そ、それは良かった! 良くやったぞラズリー! ディアン!」
……国王陛下の気の遣い方が凄まじい。
「何か望みが有れば仰ると良い! 可能な限り騎、子爵ディアンと侯爵家子息ラズリーが叶えよう」
「ありがとうございます」
無責任な事言わないで陛下あああぁぁぁ!
後今私の事騎士ディアンって言いかけましたよね?
戻してくださって良いんですよ?
「してディアンよ。旅の報告を聞きたいのだが」
「はい。私が竜皇国に特使として書簡を届けたのが七日前。その帰りに村に囚われていた皇女殿下を発見し、保護いたしました」
「と、囚われていた!? な、何故その様な事に!?」
「シルルバ相談役が、竜と人との対等な関係を築く一策として、その村を魔力を吸う結界に変えたのです」
「お、おぉ、そうか。シルルバ殿がな……」
人間のせいでないと知って、ちょっと安堵されてるな。
分かる。
「皇女殿下は何故その村に?」
「その村に近づいた竜が魔力を失い、尾を切られると言う事件が続いた為、その調査に」
「な、何と! 竜の尾を!? まさか……! そんな……」
絶望の色を浮かべる国王陛下。
大臣達も顔が真っ青だ。
脅かす積もりは無いんです!
事実そのまま伝えてるだけなんですけど!
「御安心ください。竜族はその事に対し、人間に悪感情を持ってはおりません」
「何故だ! 竜族は誇り高い種族! その様な恥辱を受けて何故……!」
あぁ、そう思いますよね。
精神性の高さが人間とは桁違いなんですよ。
「皇女殿下を国に帰した恩義で一時は怒りを収めたとしても、竜族から見れば人間は下等な種族! それに同族が傷付けられたと思えば、後に……!」
「いえ、陛下。それにつきましては」
「大丈夫です! ディアン様が竜皇として掟を変えましたので!」
「え」
あ。
「こ、皇女殿下……。ディアンが竜皇とは、どう言う事でしょうか……?」
「ディアン様は私や兄、その他の竜族を救う為、竜皇の位に就き、人間を下等と見なす掟を変えてくださいました! 兄も尾を切られた竜族も、ディアン様に深く感謝しております!」
あああぁぁぁルビナあああぁぁぁ!
そうだけど事実だけどそれは伏せておきたかった!
ほら! 国王陛下が化物を見る様な目で私を見てる!
「そ、そうか、いや、そうでしたか、ありがとうございます竜皇陛下……」
違あああぁぁぁう!
頭を下げないで国王陛下!
「陛下。私は竜皇ではありません。既に位を現竜皇にお返ししております」
「な、何故!?」
何故って、当たり前でしょう!?
陛下からしたら、人間の私が竜族の長でいれば脅威は減るだろうけどさぁ!
今からでも、とか言われても困る!
報告を終わらせよう!
「その後、竜皇陛下が皇女殿下を王国との親善大使にと仰せになり、シルルバ相談役の転移魔法で戻ったのでございます」
「そ、そうであったか……」
「この後皇女殿下に城内を案内したいのですがよろしいでしょうか」
「え、いや、それは、その……」
とにかくこの場から出させてください!
「その役目、私が引き受けましょう」
後ろの扉が開き、余計な事しかしない人の声が響いた。
余計な事しかしない人、一体何ルバ師匠なんだ……。
読了ありがとうございます。




