第二話 張り詰めたものは綻んで その四
……泣いている声。
誰にも気付かれない様に、押し殺して泣く声。
ルビナ……?
……違う。子ども、か……?
「……ぇぐ、……ぅぐ……」
暗闇に浮かび上がる、膝を抱えた子どもの姿。
あぁ、これは夢だ。
救う事の出来ない、後悔の夢だ。
「……だれか、だれかぁ……」
あの時、この頭が撫でられたら、何かが変わっただろうか。
あの時、努力が認められたら、救いがあったのだろうか。
何もかもが今更だ。
それでも私は手を伸ばす。
「……? だれ?」
夢でしかない。
今更こんな事で何かが変わる訳でもない。
それでも私はその頭に手を置く。
努力は無駄じゃない。
永遠に思える闇にも光は射すのだ、と伝えたい。
「わ……」
くしゃりと髪の感触が手に触れる。
柔らかい。
艶やかで滑らかだ。
くすぐったそうに頭が揺れる。
夢にしては、随分と、感覚が……。
「……んむ?」
……目が覚める。まだ外は暗い。
昔の夢を見るなんて久し振りだな。
しかもあんなに鮮明に。
酒のせいだろうか。王国に戻って来れたからだろうか。
まだこの手に撫でた感覚が残っている様な……。
「んん……」
実際に撫でてたあああぁぁぁ!
左手を握られているから、まるで抱きすくめるかの様な格好で、ルビナの頭に私の右手が伸びている!
あまりくっつかない様にと言っておきながら、これでは示しが付かない!
「ふへへぇ……」
良かった! にこにこしているけどまだ起きてない!
起こさない様にゆっくりと体勢を元に戻す。
「おとうさまぁ……」
ルビナが寝言を呟く。
頭を撫でられた事で、竜皇様の事を思い出したのだろうか。
「でぃあんさまを……、もいちど……、りゅうこうの……、くらいに……」
何て物騒な夢見てるんだルビナ!
あの時は人間に捕らえられたルビナや、尻尾を人間に切られた竜への処罰を何とか無くすために止むを得ずやっただけで、もう二度とやりたくないよ!
「ふふ……、りゅうこうの……、でぃあんさま……、すてきぃ……」
もう就任してるの!? 早過ぎる!
それに竜皇になったからって、私がいきなり素敵になる訳が無いと思うんだけど……。
まぁ夢だからなぁ……。
……あぁ、今日の子爵叙任式も夢だったらなぁ……。
「……!」
意識が覚醒して来たからか、尿意を催す。
手を解いて便所に行かないと……。
「!?」
繋いだ手がきゅっと握られる!
お、起きたのか!?
「……くぅ……、くぅ……」
……寝息だ。物騒な夢は終わった様だな。
起こさない様にそっと解いて便所に向かう。
「ふぅ……」
用を足し、手を洗って部屋に戻る。
「……すぅ……、すぅ……」
ルビナはまだ眠っているな。
このまま離れて眠るとしよう。
……いずれルビナの事を夢に見る夜が来るのだろうか。
願わくば、後悔の無い夢であって欲しいな……。
え!! ディアンを再び竜皇に!?
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