第一話 旅を振り返って その一
令和三年二月末に完結した『小心騎士と竜の娘』の続編となります。
そちらから読んで頂ければ有り難いですが、結構な長編ですので、振り返りとなっている今回の話からお読み頂いても構いません。
【登場人物】
ディアン・オブシ
商人出身の騎士。貴族になりました。小心者。
ルビナ・パイロープ(竜名ガネット・サン・ディライト)
竜皇の娘。人の姿に変化し、ディアンに懐く。素直。
シルルバ・ギーン(竜名エーメルド・サン・ディライト)
竜皇の弟。人に化け、王国相談役を務める。ディアンの竜言語の師匠。性悪。
ラズリー・ラッピス
王国の侯爵家子息。ディアンの親友(自称)。悪戯好き。
アレク・サン・ディライト
竜皇国の現竜皇。人間を下等な生き物と見ていたが、ディアンの振る舞いに考えを改めつつある。ディアンに死後竜に転生する魔法をかけた。子煩悩。
これだけ覚えていただけましたら、どうぞのんびりお楽しみください。
私は騎士だ。
商人の家に生まれ、試験と訓練を経て騎士となった、ただの雇われ騎士だ。
それが冗談のような叙任式で子爵の位を与えられ、竜皇国の姫であるルビナを伴って、訓練生時代からの知り合いである、侯爵家子息ラズリーの別邸にいる。
悪い夢なら覚めてほしい。
私はもっと地味に静かに生きていたいのに!
「……何だこれは」
「何って、二人のお祝いのために大急ぎで用意させたんじゃないか! さぁ座って座って!」
輝くような飾り付けをされた食卓の上に、色とりどりの料理が並ぶ。
その盛り付けから配置に至るまで、丁寧なこだわりが感じられる。
「ディアン様! 凄いお料理ですね!」
「そうだな」
気後れする私をよそに、ルビナの目が輝いている。
無理も無い。王宮の晩餐会みたいだもんな。
もっとも私に配慮してか、ラズリーの元々の好みか、大きく距離を取って座る宮廷式ではなく、三つ席を並べる庶民的な配置ではあるが。
「さぁ乾杯しよう! 座って座って!」
言われるままに真ん中の席に座ると、ラズリーが左、ルビナが右に座った。
「失礼いたします。器をどうぞ」
「あぁ、ありがとう……」
給仕が後ろから酒を注いでくれた。
何の気なしに瓶を見ると……、おい!
「ラズリー、この酒……」
「あ、気づいた? 流石ディアン。折角のお祝いだから、親父の蒐集品からくすねて来たんだ」
私の表情で意図を察し、ラズリーは可愛い悪戯が見つかった子どものような顔をしている。
だがこの酒の値段は、悪戯で済まされるものじゃない!
侯爵が怒って弁償となったら、たとえラズリーと折半でも私は破産だ!
「ま、良いから乾杯しよう」
「いやしかし」
「もう開けちゃったから今更返せないしね」
うぐ、確かに酒は一度開けてしまえば風味を保つ事は出来ない。
このまま返したとしても、保存したり贈り物にする事は難しいだろう。
侯爵様、私は悪くありません。悪いのは貴方の息子です。
言えるかなぁ。言えないよなぁ。
「ではルビナ嬢の親善大使就任と、我が親友ディアンの大躍進を祝って! 乾杯!」
「……乾杯」
「乾杯、です」
私の心とは裏腹に、三つの器が甲高く澄んだ音を立てて触れ合った。
小心者には、高級酒は毒と同義。
読了ありがとうございます。




