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忘れん坊のリス 〜動物達の木の実探し〜

作者: いつみゆう



 これはとある冬の森のお話です。

 今年も寒さの厳しい冬がやってきました。

 山は雪で真っ白になり、そのうえ厳しい吹雪は森の木々の間をすり抜けて、更に雪深くなっていきます。

 その吹雪の中、きつねとたぬきが食べ物を探しているさなか、一匹のリスを見つけ、その様子に呆れていました。


「あれ、リスのやつは何をやっているんだろう」

「本当だ。こんな寒いのに、雪と地面をほっくり返してご苦労なこった」


 二匹の先には一匹のリスが吹雪の中、かじかむ小さな手を雪の中に突っ込んでは穴を掘り、突っ込んでは穴を掘り、その度に困った顔を浮かべてました。


「ない。確か木の実をしまったのはこの辺だったはず。あれ……ここにもない。はあ、お腹すいたなぁ」


 きつねとたぬきは困っているリスを見て笑いました。


「たぬきさん、どうやらリスのやつ、冬の備えの為に地面の下にしまっておいた木の実をどこに埋めたか忘れているようだよ」

「自分で用意しておいた食べ物にありつけないとは、これまたなんとまぬけなやつだ。そうだ、聞いてくれよ。これがけっさくなんだ。あいつのご先祖様も、冬に自分がしまっておいた木の実の大半を見つける事が出来ていないんだとよ」

「それは本当かい?そりゃあけっさくだ。なんとまぬけな生き物だ」


 二匹は声を大きくして笑いました。笑い転げて冬毛に乗った雪が全て落ちてしまうほど。

 その時でした。体の大きなイノシシが二匹の後ろから低い声で話しかけてきました。


「こんな厳しい冬の日に、何がそんなにおかしいのかね?」


 体の大きなイノシシに二匹は驚き、飛び上がりました。


「わっ。イノシシさん、驚かさないでくださいよ。あれを見てください。リスのやつ、自分でしまった木の実を探してるんです」

「その上見つけられないんです。呆れたやつだと思いませんか?」


 きつねとたぬきはしっぽを丸めながらも笑いながらイノシシに言いました。

 しかし、イノシシはリスの事を笑いませんでした。


「だったら、私は手伝わなければならないな。私はリスさんに息子のうり坊を探して頂いた恩があるのだ。それを今返さなくては。では失礼する。通してくれたまえ」


 きつねとたぬきが道をあけると、イノシシはリスの元に行って大きな鼻と牙を使って辺りをほじくり返し始めました。

 暫くするとまた一匹、きつねとたぬきの元にやってきました。

 それは温泉上がりの顔が真っ赤な猿で、上機嫌な様子でした。


「……あれま、いつものお二人さん。何やってんだい?」

「猿さんじゃないですか。リスのやつが……」

「おっ、木の実探しかい。そういえばオイラ、秋に温泉入ってたら"つまみ"にどうぞってリスさんに木の実のおすそわけをもらってんだ。冬の備えで忙しい時期だったってのにまったく。こりゃあ放っておけねえ。おーい、オイラも混ぜてくれ」


 猿は雪の上を上機嫌にぴょんぴょん跳ねながらリスの元に行き、真っ赤な顔を地面に近付けて木の実の匂いを探しました。


 きつねとたぬきの辺りが暗くなりました。二匹が恐る恐る見上げると、そこには大きな月の輪熊が立っていました。


「……あのう、ここはどこら辺かなあ。オラ、また迷っちまって」

「く、熊さんじゃないですか。また迷っていたんですね。お体は大丈夫ですか?」

「人里で猟師に撃たれた傷は治ったけども、あの日の夢を見てびっくりしちまって、冬籠もりから目覚めちまったんだあ。人里に迷い込むのはもうこりごりだあ。ん、あれはリスさんでねぇか」

「そうです。リスのやつは……」

「木の実探しかあ。であれば、助けなきゃなんねえな。冬籠もり前の大食いの時、食うのに夢中で山から出ちまうすんでの所でリスさんに声をかけてもらったんだ。あれがなきゃあ、またオラは人里で猟師に撃たれちまうところだったんだあ。リスさん、オラも今いくどお」


 イノシシ、猿、熊。

 結局集まったのはそれだけではありませんでした。キジ、鹿、イタチ、ネズミ……。

 多くの動物達が集まり、辺りはリスのお世話になった動物達でいっぱいになりました。

 取り残されたきつねとたぬきは考えます。自分達はどうだったのか。


「……たぬきさん。そういえば、僕はリスのやつに人間が置いていった弁当の食べ残しの、油あげの巾着を貰っていた」

「そういえば俺も、リスのやつに熟した柿の実を木から落として貰っていた」

「僕達も恩を返さなきゃいけないのではないかな」

「でも、この雪じゃあ見つかりっこないよ。あいつらを見てみろ。どれだけ探しても見つからねえ」

「でも、やるだけやってみようか」

「そうだな。よし、みんなの所へいこう」


 たぬきときつねが動物達の元に向かったその時です。


『な、なんだ?急に暖かくなってきたぞ?』


 あれだけの吹雪が急に止み、空は晴れて、真冬だというのにあたたかな春のような陽射しが動物達に差し、辺りに積もっていた雪がまたたくまに溶けて、土の地面がむき出しになりました。

 リスのお世話になっていたのは動物達だけではなく、大自然も同じなのです。リスのご先祖様が見付ける事が出来なかった木の実の一部はそのまま成長して木になり、そして森になります。

 リスは大自然にも恩を返して頂けたのです。

 そして、むき出しになった地面から、木の実が顔を出していました。リスはそれを見て大喜び。急いで木の実を掘り出すと、手伝ってくれた動物達にお礼を言いました。


「やった!やっと見つけた!みんな探してくれてありがとう!」


 動物達は一斉にお世話になったお礼を言います。


『こちらこそ、いつもありがとう』


 ですが、リスはみんなの感謝の言葉を聞いて、なぜか不思議そうな顔をしていました。

 不思議に思ったきつねが尋ねます。


「……そんな顔をしてどうしたんだい?」


 リスはこう返しました。


「……そういえばみんな、どうして僕を手伝ってくれたの?」


 たぬきは不思議に思い、リスに返します。


「お前はみんなにいいことをしてきたんだ。だからこういう形で恩を返してもらえたのさ」


 するとリスはまた不思議な事を言います。


「だから、それが分からないんだ」


 きつねはまた尋ねます。


「何が分からないんだい?」


 リスは笑って言いました。


「僕は、いつ、みんなにいいことをしたんだっけ」


 忘れん坊の優しいリスさん。

 この森の動物達は来年の冬もきっと、リスの木の実探しを手伝っている事でしょう。


 いかがでしたか。


 頭が悪くても、不器用でも、日々周りに善行を積み重ねれば困ったとき皆に助けて貰えるし、それが無意識の行動であるならば、神様も味方についてくれるかもしれないというお話でした。


 たまにいますよね、こういう人。助けてあげたくなっちゃいます(笑)。 

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― 新着の感想 ―
[一言] 人助けは見返りを求めずにやるのが本人も気持ち良いですよね。 自己満足万歳。 そうしたら、忘れた頃にお返しがきて、かなり嬉しく感じて万歳!
[一言] 情けは人の為ならず。 てらいなく誰かを助けることができるひとは、きっとこうやって自分も周りから助けてもらうことができるのでしょうね。 たくさんの動物たちだけでなく、まさかの森にまで協力して…
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