『間話』桐斗の思い、マナナの決意
今回はディープな過去のエピソードを含めた内容です。
満天の星空の中桐斗は一人草原で寝転がり物思いに耽っていた。
大事な者を護る為とはいえ他人を殺してしまった罪悪感が拭えないでいたのだ。
殺してしまった者達にも守りたかった家族は居ただろう。
きっと彼らは他者を踏み躙ってでも護りたい者の為に戦う。
あるいは大事な者を奪われたからその復讐に燃え戦う。
明らかに桐斗の戦う理由や覚悟は今まで戦ったどの者達より弱いと感じた。
転生して浮かれ気味がまだ抜けない。
桐斗は前世で
義父と母の喧嘩が酷く家庭内暴力を受け選んだ道は
家族と疎遠になる遠距離での孤独な生活だった。
究極的に家族とは関わらないそんな選択だ。
親から無理やりやらされた勉強の末
中学受験で寮生活に入り、
中高6年地元を離れ
更には大学は東京に出たので12歳から以降実家にはほとんど居た記憶もない。
思いをぶつけて家族仲を改善したりもしなかった。
家族に絶望以外の感情は無いから無関心を貫いた。
そんな家庭環境のせいか恋人に求めるものは喧嘩のない綺麗な恋。
聞こえはいいが本心からぶつかり合いわかりあう事をしようとはしなかったせいか
ほとんどの恋は短期間で終わりを告げた。
そんな中こんな自分と一緒に居たくて同棲生活までして関わろうとしてきた元カノが居た。
それがマナだった。
桐斗の理想の恋人像は 優しく落ち着いていて大人で護ってくれそうな人である。
マナはそれの真逆にいた。
気分屋で自己中でワガママだった。
最初桐斗はマナに感じた印象はコイツ本当に日本人なのだろうか?
この子とは結婚はしないだろうなであった。
なんでこんなに桐斗の日常やペースを狂わせてるのにそれには一切の罪悪感もなくワガママや喧嘩ばかりふっかけてくるのだろうか?
お互いの価値観が違うのだから距離感を大事にしろよ!
堪忍袋が切れてよく喧嘩をした。
でも何故か別れずズルズル15年以上は付き合った。
桐斗自身自分に対して評価が低い。
こんな自分を見捨てず付き合ってくれてるのだから
逆に有難いものなのだとすら感じていた。
そう彼女の浮気を知るまでは。
一方的に距離を置きそのまま自然消滅。
これで良かったんだ!
どうせ私では彼女を幸せにはできない。
最後は嫌な思い出は残さず笑顔で別れる。
私の流儀だ!
今になって思う。彼女も孤独だったんだろう。
こんな表面ばかり繕いろくに本心を見せず価値観をぶつけない恋人。
本当に自分と向き合おうとしてるのだろうか?
多分不安だったのだろう。
今になって思う。私は浮気をされたのではない彼女に浮気をさせてしまったのではないかと。
何故今更こんな事を思い出すのか桐斗自身もわからなかった。
きっとセンチメンタルな気分だったのだろう。
桐斗自身自分は極度の平和主義で人を傷つけるのが苦手である事はわかっている。
しかし今の桐斗は何千ものうさぎ達を守護するもの。
うさぎ達の為に弱気にはなってはいけない。
今までの合戦は想いの強さで敵に優ったのではなく、ただ桐斗の力が物理的に強かっただけだ。
これからもうさぎ達を護る為
他人の正義を踏み躙る戦いをするだろう。
死んでいった者達に顔向けできない心情で戦ってはいけない。
私は本当の意味で強い覚悟を決めると誓った。
同じ頃マナナも物思いにふけていた。
当初ラパンの森を護る者を人選するにあたり選びたかったのは桐斗でなくマナの方だった。
マナは自分に似て強く皆を先導して護りぬく覚悟を決められる人物だと思っていたからだ。
しかしマナの様子を見に行った時マナの側にいた男性は桐斗ではなく別の人であり、
動物も飼っていなかった。
マナと桐斗の交際期間も調べたがマナは仕事に夢中で世話を殆どせずに実際世話をしてくれてたのは桐斗の方だった。
更にはマナは浮気癖も酷く、
他者より自分の幸福を勝ちとりにいくそんな性格でもあった。
そのためうさぎ達との協議の末マナでなく桐斗を選んだ。
桐斗なら確実にうさぎの為に身を粉にして頑張ってくれるはずだからだ。
確かに桐斗はうさぎ達の為に必死に頑張ってくれているが、
戦争とは相容れない意志と意志のぶつかり合い。互いの正義と正義のぶつかり合いだ。
それは生半可な意思では到底やっていけない。
戦争をする覚悟や敵を踏み躙る性格を桐斗には決定的に欠けている。
今は桐斗の魔法が強大で善戦しているが互角の闘いになった時に果たして桐斗が切り札の状況下で勝てるのか?
ここは私が頑張って引っ張っていくしかない。
私達うさぎは桐斗の家族なのだから。
桐斗の足りない部分は私が埋めて攻勢は私が率先して行おう。
マナナもまた覚悟を決めた。
ところでふと思ったのだが何故前世で桐斗はマナと付き合ったんだろう。
桐斗とアンナを見ているとふと思う。
桐斗とアンナは理想の相性だ。
桐斗とマナは価値観隔たりが激しく相性も悪すぎだ。
「人間の恋は摩訶不思議だね」
桐斗とマナが何故付き合ったのか
それはお互い家庭環境が悪かったからだ。
桐斗は連れ子でDVが激しかったのに対して
マナの父母は仲が悪くいつ離婚をしてもおかしく無かった。
それをマナは自分が大人になるまでは待って欲しいと父母の離婚を止めていた。
しかし父母の別居は止められなかった。
マナも桐斗と同じく家庭に居場所がなかった。
愛情も居場所も恋人へとお互いが求めた。
だからこそ相性が悪くても二人は付き合い続けたのだろう。




