続・帰還者達のお仕事風景
なんか続き書いてみちゃった。
異世界へ飛んだ迷子を捜すべく、今日も今日とて対異世界調査室のメンバーは世界を飛んで東奔西走。
その内の一つだが、それは異世界から召喚された可能性が有ると言う、とある女子中学生の探索だ。
そして、その飛んだ先の割り出しは直ぐに済み、神とも呼ばれたりする管理者に連絡を取り、世界を渡る準備をする。
当然ではあるが、世界及び星の管理者同士のやり取りは入念に行われており、要約すると「ワレ、何人のとこの子さらっとんじゃい!」「あぁん? 知らねぇよ! お前の所の管理が悪いんだろーが!」などと言う会話がなされた後、「今回は内の子飼いが探しに行くから邪魔するんじゃねーぞ?」「余計な事さえしなきゃ、受け入れも許可してやんよ」と、まぁ、お互い舐められない様にしつつも妥協点を探してから、調査室の転移が開始される。
当然だが、そんなやり取りをする以上は少しロスタイムが出来るのも当然で……調査室のメンバーが異世界へと渡る頃には、転移した先に居ないと言うのも当然で、彼等は転移後に転移者の捜索が最初の仕事だ。
だが、今回の転移事件において、彼等の目にしたモノは実に奇抜だと言えるものだろう。
「レッテル嬢! 貴様との婚約は破棄する!!」
転移者の居場所知ったメンバーが、その場所へと移動し最初に聞いた言葉がそれだ。
よよよ……と、そう叫ぶ青年にシナを作りもたれ掛る女の子。恐らくそれが今回のターゲット。
だが、今この状況は調査室のメンバーからすれば、まるで演劇でも見ているかのような……なんとも、茶番じみた展開が繰り広げられている。
「聖女嫉妬し虐めを煽動した罪は許されるものではないぞ!」
「あら、私はその様な事一切して居りませぬよ? 根拠がお有りで?」
「根拠だと……そんなもの、聖女ミアが言うのだからそれが根拠だ!!」
これが映画ならば、背景に光なり波なりが入りドパァァァァン! と効果音が入っていただろう。しかし、現実にはそんなモノが入る訳が無い。
ただ、其れぐらいこの青年の発言には勢いが有ると言う訳だ。
そして、その青年の言葉に賛同しているのか、周囲に居る青年たちもまた首を縦に振っている。
「あら、それは根拠とはなりえませんわよ? 一体、どんな教育を受けているのかしら……」
「貴様……この俺に向かって無礼だぞ! 元・婚約者とは言え貴様は罪人! もっと遜る態度を見せるべきでは無いのか!」
「はぁ……だから、やっても居ない罪を申されましても……」
燃え上がる青年に対して、実に冷たいとさえいえる雰囲気の令嬢。実に対極的である。
そんな、口撃をしても響かない令嬢に苛立ちを覚えたのか、聖女ミアと呼ばれた少女もまた、青年に続き口を開いた。
「あ、貴女は私に何時も言ったじゃないですか! 殿下に近づくな! 近づけば次は無いと! そう言って……階段から……う……」
傍から見る調査室のメンバーからすれば、ミアの其れは嘘泣きで演技とばればれだ。
だが、近くに居る青年たちにとっては全く違うようで……。
「おぉ、ミア……なんと痛々しい……コレだけ悲しんでいるのだぞ! さっさと罪を認めるが良い!」
ミアは、青年たちが見えない位置で、舌を出している!
その姿を調査室のメンバーは目視し……思わずため息を吐いてしまった。何せ、こんな少女が要救助対象な訳だから。しかし、どれだけ性格が悪くても救助対象だ。彼等はそんな輩でも助けなければならない。そりゃ、ため息も吐きたくなると言うモノだ。
「そもそも君主制だとか貴族制なんて間違ってるんです! 民主主義が正しいんです!」
「流石聖女! 民の事考えていらっしゃる!」
「それに比べて……レッテル嬢と来たら……」
おいおい良いのか? 此処は王国なのだろう? そんな場所で政治体制批判とか。しかも、この国の教育レベルで民主主義とか……国に亡べと言っているような物だぞ。周辺国家との兼ね合いもあるだろうし、そもそもモンスターなんてもんが居る時点で民主主義は厳しいだろう。と、調査室のメンバー達は彼等の行動を見て頭を抱えてしまった。
何故頭を抱えたかと言えば、これは要救助者が殺されかねない言動だからだ。……この少女、一体いつの時代の勉強を受けているのだろうか。これは、一度戻ったら国に調査依頼をせねばならないかもしれない。そう考える調査室のメンバー達。
「……実に馬鹿馬鹿しい発言ね。この者達は衆愚政治を推奨しているのかしら?」
おっと? この令嬢。なぜ衆愚政治などと言う言葉を知っているんだ? そう違和感を持った調査室のメンバー達。
彼らはその違和感が無意志になるアラートと判断し、直ぐに管理者へと連絡を入れ……反応を待つ。
そして、帰って来た内容が、令嬢は転移者では無いが転生者と言う……まぁ、なんとも設定盛沢山な状況という事が発覚。
さて、どうしたものか? と考える調査室メンバー達。
しかし、このままでは悪戯に時間が過ぎ、この寸劇を嗅ぎつけたお偉いさん達がやってきて……最悪、要救助者が目の前で殺されてしまう可能性も出てくる。
そんな訳で……。
「はーいはいはい、ちょっとストップ」
「な、なに奴!」「し、侵入者だ!!」「貴様ら戦闘準備だ!」「聖女を守れ!」
声を掛けて乱入するメンバーの一人。だが、その者に対して青年たちの動きは速く、聖女と呼ばれたミアを囲むように陣形を組んだ。
「なに奴と聞かれたら答えましょう。はい、私はWT45P06天の川銀河・オリオンの腕・太陽系第三惑星地球・日本対異世界調査室所属で今回の救助チームのリーダーを務めさせてもらっている小早川と言う者だ」
「は……え? だぶりゅ……?」「おりをん?」「てきゅう?」
「日本!?」「対異世界調査室!?」
調査室のメンバーで、今回のリーダーを務める小早川が挨拶をする。
すると、まったく訳が分からないと言った雰囲気の彼らと、日本や調査室と言うワードに反応するミアとレッテル譲。
「所属については細かく覚えてもらう必要は無いが、一応自己紹介と言う事で。さて、今回こちらに私たちの世界から〝拉致〟された少女が居るとの事で我々が派遣された訳だが……中々に面白い事になっているようだな」
「な! 拉致とは失礼な! 我々は女神のお告げに基づき、聖女を呼んだだけだぞ!」
「いやいや、こちらの世界から見れば立派な拉致行為だよ。親御さんも大層心配なされている」
「え……ママ達が? でも、せっかくハーレムエンドを迎えたのに……」
小早川の言に、まったく考えていなかったのか両親が心配していると言われ、ミアは事の重大さに漸く気が付いたようだ。
しかし、ここは彼女にとってある意味理想の世界。今彼女の心の中では二つの世界がシーソーゲームをしている。
「ちなみにその女神とやらだが、こちらからの質問には「私そんなお告げ出して無い」と回答を貰ったぞ? さて、どういう事だろうな」
小早川が言う女神の回答に一同顔を青くした。さもありなん、小早川の言が正しいのであれば、お告げを伝えてきた教会が嘘を吐いたのか、それとも女神が彼らを切り捨てたかと言う事になる。
それゆえ、彼らは顔を青くしながらも小早川の言葉を受け入れる訳にはいかず、虚勢を張りながら返答するしかなかった。
「そ、そのような事を女神が申される訳が無い! 貴様! その様な嘘を平然と!」
「いやいや、嘘では無いのだがな。まぁ、受け入れられる訳が無いか」
彼らとて、世界を平然と渡る事が出来た小早川達の言う事を、嘘だとは思っていない。
それはそうだ。世界を渡ろうと思えば、それぞれの世界の管理者から許可を得ないと色々と問題がある。
と言うか、問題があるからこそ、このように〝拉致〟されたり〝迷い込んだ者〟の対処は、いち早くするようにしている。
その事から逆算してみれば解る話なのだが……実際には教会の言う〝女神のお告げ〟など無かったという訳だ。
寧ろ、女神とやらがそれを推奨したのであれば、それは管理者として大問題児であり、ばれたら最後……その管理者は宇宙の牢獄〝黒牢〟行きとなる。リスクが大きすぎるのだ。
「そういう訳で、我々の世界と此方の世界の上層部である管理者同士の話し合いは済んでいてね。そこの女子を連れて帰るだけなのだよ」
「まて! 聖女を連れて行くのは許可出来ん!」
「いやいや……許可も何も必要無い。こちとら仕事でね? それを邪魔するとなれば、最終手段に出なければならないのだが?」
ニコニコと笑みを見せながら、実に物騒なことを言う小早川。そして、その言葉に合わせて溢れ出る濃厚な殺気は、この場に対処出来る者など居ないと理解できるほどのモノ。
青年たちは顔を青くして、がくがく震え、膝を床につきつつ耐えるしかなかった。
そして、それは聖女と呼ばれたミアも同じで……。
「さてお嬢さん。君には拒否の権利は無い。寧ろ、君を連れて帰らなければ、この世界も私たちの地球も実に危険な事になりかねないのでね」
「で、でも、まだエンディングが……」
「それや知った事じゃないなぁ。それとも何か? 最悪、二つの世界を中心にいくつかの世界が滅ぶ可能性があるが……それを望むのかな?」
「え……それって……」
「ま、細かい事は説明しないよ。ただ君は、我々と共にお家に帰ればいい」
世界が崩壊すると聞き、ミアは恐怖に支配された。SANチェック状態だ。
まぁ、それも当然だろう。誰が、自分の行動で世界が滅びるかもしれないと言われて正気でいられるのか。
ただ、そこに待ったをかける女性が居た。そう、レッテル譲だ。
「少々お時間を、宜しければ少しお願いしたいことが御座います」
「はて? 一体どのような事でしょうかお嬢さん」
「世界移動が危険だと言うのは解りました。ですが、それを踏まえて……私が地球に行く事は叶いませんか?」
「ほう……理由は解るが、それは色々と問題発言だぞ?」
「えぇ、解っておりますわ。ですが……ワタクシは……クーラーが、カレーが、ラーメンが、パソコンが、スマホが恋しいのです!」
レッテル譲の口から出るワード。それに目を丸くしたのは聖女ミア。
そして、何が何だか理解出来ないまま、先ほどの殺気のダメージから足腰をガクブルさせている青年達。
小早川達調査室のメンバーはと言えば……。
「あぁ……彼女、この世界に無いものを求めてたのか」「いやいや、良いところのお嬢様だろ?」「でも、発言にカレーやラーメンなんて物があるぞ? もしかしてこっちの食文化って……」
と、何やらレッテル譲に対して色々と考察を始めていた。
「食についてはですね……毒殺の可能性を回避するために、いつもいつも、冷めたご飯なのです。しかも、味付けは少しでも異変が分かるように塩のみ! 私は恋しいのです! 味噌ラーメンが! 醤油ラーメンが! カレーライスにカレーうどんが!!」
力いっぱい握り拳を作りながら、演説でもするかのように声を出すレッテル譲。
これには調査室のメンバーも涙を流さずにいられない。それはそうだ、冷めたご飯……それで美味しいと言えるのは、コンビニ弁当を作る企業が頑張ったからであり、普通は全く美味しくない。
そんな、冷めても美味しく作る世界と、死なないためにと毒見の時間で冷めてしまう上に、味の変化が分かるようにと塩のみの薄味。そんな生活を比べてしまえば当然前者が勝つ訳で。
「お願いします! 私を……私を連れて行ってください!」
五体投地する勢いでお願いをするレッテル譲。
しかし、世界間移動が危険であるという事は説明済み。さて、どうしたものかと小早川が考えていると、この世界の女神と言われている管理者から、世界に居る全ての人に聞こえる様に〝本物のお告げ〟が出された。
『あーあー聞こえる? 聞こえるよね。うん、其処のミアちゃんだっけ? 私が言った聖女じゃないから。寧ろ、召喚しろなんてお告げだしてないから。あ、後レッテル譲ね。うん、彼女連れて行って良いよ。面倒な手続きは済ませたからさ。まぁ、今回の迷惑料と言う事で! そもそも、魂はそっちの世界の子みたいだしね!』
……実に軽いお告げである。そして、このお告げを聞いた教会の聖職者達はと言えば……頭を抱えて地面を転がっていた。
彼らが狂ったと言う訳ではない。これは管理者からの天罰だ。言うなれば「貴様ら私の手を煩わせやがって! おしおきだべ!」的な感じだろう。
何せ、彼らが勝手な行動をしなければ、地球の管理者からクレームを入れられる事も無ければ、自分の領域にお客さん(小早川達)を入れなくても済んだ。
そして、迷惑料を払う必要も無かった訳だ。
因みに、何故レッテル譲が迷惑料になるのかと言えば、それは魂の所属が彼らにとっては大切だから。
抱える魂が多ければ多いほど、管理者としてのランクが上がる。
そして、そのランクが上がれば、管理者世界ででかい顔が出来るし、出世も狙える。
ゆえに、魂一つと思うなかれ、その一つはものすごく重要なのだ。
そして、今回渡す魂は一つでは無く……当然レッテル譲に着いていく者達もいる訳で。
彼女と彼女の家族に付き人とその家族。数十名の移住となる。
それゆえに、ここの管理者にとっては本当に頭が痛い話だ。
質のいい魂を増やすのは……かなり大変で、折角手に入れた良質の魂を渡さねばならないのだから。
「……女神様ありがとうございます! やった! これで地球に行けるわ!」
満面の笑みを見せるレッテル譲。それに反して、何やら絶望と言った顔をしている青年とミア。
「ちょ、ちょっとそいつが行くなら私が残っても……」
「ダメだ。その手続きは為されていないし、許可もされない」
「ずるいずるいずるーい!」
「ずるいも何も、これは管理者世界でのやり取りだからな。我々にはどうしようもない話だ」
「うふふ……小早川さんでしたわね。案内のほう宜しくお願いします」
まったく逆の反応を見せる二人だが、小早川の脳内には全く別の思考が巡らされていた。
何せ、数十名の世界間移住だ。戸籍とかどうしよう! と悩むのは当然であり、また、戸籍などの問題までは管理者達に言ったところで、「それは人間の世界で決められてる法でしょう? がんばってね!」と言われるのが落ち。
「とりあえず、連れて行ったとして、まずは……帰還者達が作った町に連れていくか」
「隊長。そこの町長だったら俺の知り合いなんで、話つけましょうか?」
「お、まじか! なら頼んだ」
隊員の一人頼むとは言え、国にも説明が必要である問題からは避けられない。
そう考えると、ため息が出るのを止める事が出来ない小早川だが、満面の笑みを見せるレッテル譲を見れば、やるしかないかと思考をスイッチするしかない。
しかし、これは異世界問題において限りなく楽な方だと言える。精神的には厳しいものが最後にやって来たとは言えだ。
仕事の中には、すでに救助者が死んでいたり、とんだ先の世界における管理者と殴り合いになったり、国一つと戦争なんてパターンもある。
それゆえに、今回は一人でも対処出来た内容だったが、複数人で事に当たるのは当然であり……また、そういった時の疲労度は今回の比では無い。
「あー、これ、帰ったら違う任務も任されるかもな」
「そうですね。物資の消費も無かったですし……精神的には最後のアレで考えることがいっぱいでダメージを受けてますけど、それを考慮しては貰えませんよね」
「身体的にもダメージ無いからなぁ。事件が起きてないことを願うしかないな」
その様な話をしながら、小早川達調査室のメンバーは帰還の準備をする。
やんややんやと煩い者が数名居るが、そんな事はお構い無しだ。
何せ、この世界の管理者が小早川達に味方しているのだから、煩い者の言葉に耳を傾ける必要などない。
と言う事で、乙女ゲーっぽい世界に転移した(召喚拉致された)女子中学生を助け出すミッション。
因みに救助された女子中学生は……逆ハーエンド寸前で、強制帰国と言う特殊エンドなんて落ち。うん、どうしようもないね。
そして、悪役令嬢役だったレッテルさんはと言うと、まぁ作中にあるように転生者。
なので、乙女ゲーとは違い、悪役してませんでした。むしろ、クーラーやらパソコンやらスマホが無いので、いろいろと飢えてました。
そして、そんな彼女の家族や付き人達はと言うと……彼女が転生者だという事を知っていたりします。なので、地球の事も聞いており……今の生活捨てて、そんな便利なものが有るなら行ってみたい! となんか軽いノリの人達。(どこかに領地を持っている訳でなく、法衣貴族なのである意味良かった?)
まぁ、その後は得に何事もある訳もなく、レッテルさんは家族達と帰還者達の町でのほほんライフ。
聖女様(笑)は、いろいろとベッドの上でのたうち回る日々。(羞恥で)
因みに異世界の方はと言うと、女神(管理者)に正しく選ばれた現地の人達が頑張りました。聖女の取り巻きだった青年達は……まぁ、いろいろとお察しな未来。教会もかなりの人が姿を消す結果。色々と浄化されたようです。