表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/5

第2話 都会は怖えよ母ちゃん

 罠師という能職を得て1週間後ーーー




「お家帰りたい…。」




 おお、なんと情けないことか。

 太陽が7回出て沈み、星が7回回ったというのに

 僕はまだ安宿のベッドの中に居た。


(都会、冷たすぎるでしょう!?)


 田舎はみんな家族ってぐらい優しかったのに…!

 正直都会を甘くみていた

 いや、正確には認知度が低いジョブの扱い、というべきか。


『うーん、もうちょっと鍛えてから出直してね。』

『罠師?よく知らんがその筋肉じゃダメだな。』

『なんだかとっても地味ね…悪いけど他をあたって頂戴。』


 冒険者ギルドに傭兵団、魔術師ギルドにその他諸々。

 必死のアピール虚しくどこもかしこも門前払いに終わった。


 理由は僕の頼りない見た目から来る第一印象の悪さ。

 そして【罠師】という能職の認知度の低さだろう。


 剣士や魔術師といった保有者が多く、名前を聴いただけで何が出来るか分かるジョブは歓迎され易いようだ。

 雇い主からしたらどの仕事に割り振り、どう使うかイメージがしやすいからだろう。


 それに比べて全く聞いたことのない罠師という能職。

 目立った功績を挙げたことがある有名人がいれば話は違うのだろうが、不幸なことに歴史名を残したのは犯罪者だけ。


 そんな得体の知れない能職のヒョロっちい若造に対してプラスなイメージを持てという方が難しい。

 これでも畑仕事で鍛えたんだけど戦闘系能職の恩恵を受けた人とは比にならないみたいだ。



 …だめだ、思い出してるだけで虚しい気持ちになってきた。

 切なすぎて母さんが作ってくれた手料理が恋しい。


「はぁ、お腹空いた…。」


 …ぐぅ。

 弱る気持ちが空腹に拍車をかける

 心なしか腹の虫も元気がない。


 ここ1週間切り詰めていたから満腹感を味わっていない。

 ご飯と言うと毎日閉店間際のパン屋に駆け込みおこぼれに預かっているが、毎日カチカチのパンで顎が痛い。


 こんな惨めな思いをしてまで何をやっているんだろう。

 …そう思うとなんだかやる気が無くなってきた。


「んー…いかんいかん!」


 ベッドから飛び起き頬を叩く

 嫌な事が続くと人間弱気になり易い。

 そしてそんなどんよりした男に良い女性は寄ってこない。

 影があっても好かれるのは超絶イケメンかミステリアスなアラフィフぐらいだ。


 間違っても僕のような若造にはマイナスにしかならない。

 こういう時こそ切り替えていかきゃ。


「こういう時は、ご飯を食べにいこう!」


 人間腹が膨れれば元気が出る。

 元気があればなんでも出来る、はず。

 それぐらいシンプルに馬鹿に行こう。

 こう言う時こそ自分の機嫌は自分でとらなきゃ。


 沈む自分の尻を叩くように心の中で檄を飛ばす

 そして手早く荷物をまとめ、昼餉(ひるげ)を探しに宿を後にした。



 ◇



「何食べようかなぁ。」


 酒場や食堂が立ち並ぶ旧市街を歩く。

 金持ちや観光客向けのブティックが立ち並ぶ新市街と異なり、このあたりは安宿や大衆食堂、路上には屋台が所狭しと並ぶ庶民のエリアだ。


 所々店の屋根から伸びた煙突はモウモウと煙を吐き出し

 街中にはジャンクな油のいい匂いが立ち込めている。

 ここいらの料理はどれも大味だが旨いと聞く。


 現に店の前には観光客や冒険者達が行列を作り何を食べるか話し合っている。



(冒険者かぁ…。)



 列の中の若い冒険者パーティを見て胸がチクリと痛む。

 皆しっかりとした装備に身を包み、左手には冒険者の印である腕輪をはめている。


 元はと言えば僕も冒険者を夢見て王都にやってきたのだ

 この1週間の内に冒険者ギルドにいかなかったわけがない。

 むしろ一番最初に行ったのが冒険者ギルドだった



 だが、結果は惨敗

 登録時に受ける能力試験の結果が微妙だったのもある。

 でもそれ以上に大きな問題があった。


 なんと僕の罠は()()()()()()作動してしまう事が判ったのだ。


 僕自身は意識しない限り罠に巻き込まれないし、罠探知(ディテクト)のスキルでどこに罠があるのか解る。

 だけど味方は罠がどこに仕掛けてあるのか分からない。

 そんな環境下で魔物と戦わなければならない。


 僕本人の戦闘能力が高くないのに集団行動に不向き

 何とも切ない現実を突き付けられ打ちひしがれた。


「まぁ、しょうがないよねコレは。」


 僕がパーティーを組む相手がそんな奴なら嫌だ。

【敵に斬りかかろうとしたら味方の罠にハマる】

 そんな事を起こしうる奴に命は預けられない。


 今後能職のレベルが上がればそう言ったことがなくなるのかもしれないが今は無理だ。

 何か違う形で人の役に立つようにならなければ。


『ぐぅ。』


 などと思考を巡らせていると腹の虫が泣いた。

 そうだ、僕は腹が減っているんだった。

 腹が満たされればこのモヤモヤも少しはれるはずだ。



「さて、何処にしようか『キャァァ!!』



 能天気に店先の黒板に書かれたメニューを眺めていると人波の中から金切り声が上がった。



 ◇



「な、何だぁ!?」


 穏やかでない空気に驚き頭を上げる。

 道ゆく人々も異変に気づき足を止めている。


 声の方向に視線をやるとまた短い悲鳴が続いた


「どけぇ!」


 粗野な声が響き渡くと同時に人波が割れる。

 現れたのはいかにもガラの悪そうな三白眼の男

 その手には竜の鉤爪のようなナイフが握られている。


「ひったくりよ!誰か捕まえて!」


 男の背後では気品あふれる女性が乱れ髪で叫んでいた。

 突き飛ばされたのかドレスが裂け珠のような肌をした足があらわになっている。


「チッ!うるせぇアマだ。」


 男は視線が集まった状況に苛立ちながらも走り出した。

 手にした短刀を振り回しながら人混みをかき分けてくる。


(これがひったくり…やっぱり都会は物騒だぁ…!)


 緊迫した状況に田舎者感丸出しの感想しか出てこない。

 故郷の村じゃカボチャ泥棒が年一回出れば珍しい方だったから尚のことだ。


 初めて遭遇した犯罪の現場に固まっていると

 ーーー1つのことに気づいた。



(あれ…?)



 辺りを見回すと周りの群衆は道の脇に避難している

 そして僕の周りには誰もいない。


(これ…マズいのでは?)


 どっと嫌な汗が滲み出る。

 なんと道のど真ん中に取り残されたのは僕1人。

 顔を上げると猛進してくる三白眼の男と目が合う。


(あ、ヤバい。)


 余裕の無い僕の顔を見て男の口元が三日月のように歪む

 この時になってようやっと自分が当事者だと理解した。

 しかし、それは遅すぎた理解だった。


 突然の事態に震え動かない身体。

 そして突っ込んでくる短刀を持った男。

 その姿は見る見るうちに大きくなり僕に迫る。


(ヤバいヤバいヤバい!)


 脳が危機的状況を察知してか世界がゆっくりと流れる。


 異変に気付き何か叫ぶ群衆

 未来を予知して顔を伏せる淑女

 そして目の前の獲物を前に下卑た笑みを浮かべる男の顔

 張り上げられた煌く白刃


 視界に映る情報が死で頭を埋め尽くそうとする。

 目前に迫る死の気配にこわばる身体


 しかしそんな状況下でも僕の頭は活路を必死に探していた。

 その結果、無意識に口から音が漏れ出た。





「クリ…エイト…!」





 途切れ途切れ捻り出した言の葉

 それはここ1週間何度となく口にしたスキルの名


 その響きと共に僕の視界から男が消え

 ()()()()()()()()()()


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ