第三章 お見合い
マリア=テレジア登場はもう少し待って下さい
僕がマリ・テレサ・レス・ハノーファーと出会ったのは17歳になって直ぐのことだった。
当時、オーストリア王は病に倒れ、余命いくばくとも知れない状況であった。
王の子供は娘のマリ皇女しかいなかった事もあって、彼は皇女を溺愛していたが、
彼が娘の成人まで生きられる可能性はほぼ皆無と考えられていた。
そこで彼はせめて娘の晴れ姿だけでも見たいと思ったのだ。
王が娘の婿探しをしているという情報はただちに周辺諸国に伝えられ、
その日のうちに周辺諸国からお見合いの申し込みが殺到したのである。
もちろん我がドイツ王家も例外ではなかった。
オーストリア皇女を僕と結婚させ、そして彼女を僕に対する人質とすることに価値を見出した父は
ただちにお見合いの申し込みをし、結果皇女と僕のお見合いは2週間後に決まったのだった。
「っかしファルもついてないよな」
部屋に帰ると兄のカイトとチェスをしていたカッテが開口一番そういった。
「何がだよ」
「そりゃ勿論オーストリア皇女とのお見合いさ」
「何でだよ」
「だってお前、女の子と付き合った経験ないだろ。知っている女性といえばウチのかあちゃん(カイトとカッテのお母さんの事)
か母后陛下(僕の母の事)かウィルヘルミナ皇女殿下(僕の姉の事だ)、あと女官連中だけだし。皆お前に優しい人ばっかりじゃん。
マリちゃんはかなり気が強いらしいし。チキンのファルとは合わねえよ」
・・・こいつは最近調子に乗っている。
「会ってみなきゃ分かんないだろ。それとファルは恥ずかしいから止めろよ」
「ほう、会ってみなきゃね・・・」
そういうとカッテは僕を見て凄いスピードで語りだした。
「オーストリアのマリ=テレサ皇女殿下といったら生れながらの政治家にして外交家。
オーストリアの希望の星と言われる期待のホープだぞ。皇女なら誰でも受けると言われる礼儀作法や皇女としてのたしなみに加え、
通常は皇子が受けるものである帝王教育までうけている強者。
しかもその帝王教育の成果が周辺諸国のどの皇子より出てると云われるお方。
座っていればフランス人形に例えられ、立っていれば古の聖女と間違われるほどのその美貌。
そんな方がドイツのヘタレ皇子と合うわけがございましょうか!?」
こいつ絶対後悔させちゃる。そんなことをを考えながら僕はゆっくり拳を握る。
「・・・その周辺諸国の皇子に、僕も含まれるのか?」
しかし、空気を読むのが上手いカッテは既に逃げ出してしまっていた。
やれやれと溜息をつきながら座り込むとカイトが話かけてきた。
カイトは僕より一つ年上でいつも落ち着いている。
きっと僕が悩んでいることに気づいているのだろう。
・・・ひょっとして、カッテも気づいていたから元気にしようとしてくれたのか?
読んでくれてありがとう