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序章 過ち

特定の宗教・国家を侮辱する意思は全くありません。

西暦22**年、人類は「民主主義」という概念に対し、決定的に相反する行動を起こした。それは二十一世紀前半、

合衆国がその世界戦略のなかで時に手段として使ってきた「世界各国の民主化」という思想、

それがいわゆる非民主主義諸国に次々と採用されるようになったのが原因だった。


きっかけは当時発足したばかりであった中東の国々を中心とする「イスラム諸国連盟(以下諸国連盟 と表記)」が

加盟国の民主主義化を宣言したことであった。20世紀中盤から合衆国の世界戦略の中で、

常にその戦略対象とされてきた中東諸国は、21世紀に入りますます露骨となった合衆国の内政干渉に対し、

民主主義を採用することで対抗しようとしたのである。これがきっかけとなり、

世界中のいわゆる「非民主化国家」が次々と民主主義に転向する、いわゆる「改宗」とよばれる現象が起きた。


ところが、始めは手段に過ぎなかった「民主化」が「目的」とされる現象が起こった。

「諸国連盟」において指導者の地位にあったものが、積極的な民主化を図ったのだ。

彼は、実際の民主化無しには合衆国の干渉は避けられず、

又民主主義こそが長年の戦争で疲れ果てた中東諸国の国民を本当に幸福にするものと信じて、

本当の民主化に乗り出したのである。事実、その時の合衆国政府は建前としての民主主義を採用する非民主主義国家に対し、

日に日に圧力を強めていく状態にあった。

軍部が強い決定権を持つようになっていた合衆国では、外国に対し強硬的な政治姿勢を打ち出していた。


しかし諸国連盟には幸運なことに、時の合衆国大統領ウィルスンは戦略としてではなく、

意味あるものとして民主主義の実現を図っていた。彼は彼を支持する議会や国民共に、

軍部をけん制しながら公然と諸国連盟の指導者アーディーンを支援し始めたのである。

ウィルスンは自分のボディーガードを割いてアーディーンの身を原理主義者等のテロから守り、

また有償ではあったが合衆国からの中東諸国に対する援助を倍額に増やした。

このボディガードを減らしたことがウィルスン暗殺の原因とも云われる。

公私両面でアーディーンを支え続けたウィルスンの暗殺の報を受けたアーディーンは、

泣きながらキリスト教の礼をもって彼の墓を訪れたという。


二人が命を懸けて創り上げた民主主義の芽は時間をかけながら着実に諸国連盟中に広がっていった。

アーディーンが「実際に機能する」ものとして動かそうとした議会制度、

宗教規則を尊重した近代法体系は半世紀の時間をかけ正式採用されるものとなったのである。


そして、「南からの旋風」と呼ばれる現象が起こった。民主主義を採用した諸国連盟国家が、

逆に先進する民主主義国家に民主主義の理念の徹底を求めたのだ。

民主主義の根本でもある個人の自由・平等の適応を求める声に押され、

また応える形で世界中に民主主義の理念が普及していったのである。ウィルスンとアーディーンの改革から50年。

22世紀は本質的な意味での「人類共存の時代」として歴史に燦然と輝くはずであった。


だが、それからおよそ100年後の西暦22**年、ある歴史学者のグループが一つの発見をしたことで、

「人類共存の時代」は急速にその輝きを失い始めた。彼らは人間の進化の過程における発明・発見の歴史を研究していたのだが、

産業革命以降急速に発展しだした人類の発明発見の歴史は22世紀以降、急速にそのスピードを落としていた。

世界中に大きな衝撃を与えたこの発見であるが、ほどなくしてより大きな「恐怖」に上書きされることになった。

医学者達の発見した「出生率の低下」という事実。

発明・発見の歴史同様に、産業革命降年々伸び続けていた出生率はやはり22世紀を境として急激な減少に転じていたのである。


この事は、人類一人一人に本能的な恐怖を呼び覚ました。生き物として生まれれば、逃れることのできない本能的な恐怖である。

それはそうだろう。このままいけば人類という種族そのものが滅んでしまうのだから。

各国はただちに協力体制に入り、あらゆる分野の学者を動員することでこの問題の原因を探し求めた。

各国の学者たちははあらゆる分野で交流し、数か月後には世界中にこの問題の原因を発表したが、

その結果は恐るべきものであった。学者たちが発表した原因は、


・「民主主義」の理念の浸透により人類間の相互格差がなくなった結果、人類から生存に必要な闘争本能が失われ、

 切磋琢磨することがなくなり、それが発見・発明の停滞に繋がっている

・平和で安全な現在の社会は人類の生存の欲求を刺激することがなくなり、

 無意識のうちに人類は人類という種族を生き残らせる活動(生殖行為)の必要を感じなくなった


というものであった。しかし、各国政府は出生率の低下にも、技術進歩の停滞にも、何ら有効な策を打つことができなかった。

出生率に対しては、民主主義の根本である人権という概念から考えれば望まれぬ子どもを産む子の人権が軽んじられる可能性に繋がるし、

技術停滞に関して言えば科学者には発明や発見を強制する方法など思いつかなかったからである。


万策尽きた各国政府は、最終的な解決手段として各々の国の宗教勢力に問題の解決を委ねることにした。

150年前、世界の民主主義の普及の口火を切ったのは諸国連盟という宗教組織。

時に民主主義の自由や平等といった概念と対立する信仰という思いを見事に民主主義と両立させている宗教組織こそ、

民主主義の危機を乗り越える力を持っていると考えたのである。


しかし、それは大きな間違いであった。150年前、ウィルスンを暗殺しアーディーンの命を執拗に狙った人々。

宗教原理主義者やレイシスト(人種差別主義者)、ナショナリストといった民主主義世界の確立と共に姿を消した人々は、

民主主義が衰退するのをじっと待っていた。地下に潜った彼らは時に連携し、時に統合しながらじっと復活の時を待っていたのである。

彼らはあらゆる国で暗躍し、その国の現状解決策に決定的な影響を及ぼした。この時代、各国が採用した政策が似通っているのは

その何よりの証拠と言えるだろう。多少の違いはあれど幾つもの国で採用された政策。後の世にはその代表とされた合衆国版の政策、

「Creation Of the Artificial Heroes」の頭文字を取って「COAH」政策と呼ばれた。


自由・平等などの思想と共に民主主義の根本をなす「多数決の原則」。この思想を「人類の存亡の危機における指導者欠如による特例」

としていとも簡単に否定した「COAH」政策は現状の危機を乗り越えるための特例として「少数でも明確な指導力を持つ人間の育成」

が不可欠だと謳う。政策の対象は「柔軟な思考フレームを持つ子供を採用」し「幅広い見解を持たせる」こと、

また「祖先に指導力を持つ人間を採用」することで「対象の自尊心及び指導者としての意識を高める」というこの政策こそ

その後の人類史を決定づけたのである。












・1ページに3、4時間かかりました。もっと書くの早くしないと・・・。

・読んでくれた方どうもありがとう。

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