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ミケのオンラインリハビリテーション  作者: 白ネコ扇子
序章・入院生活と旅立ち
7/87

7・お見舞い

 体が重い。ろくに力の入らない体は、もしかしたらこのまま重力に押し潰されて粉々に砕け散ってしまうのでは。と、本気で考えてしまう。

 鉛の様な体の唯一動く左目で、ただボーっと天井を眺めていた。

 白い部屋に響く規則的な電子音が、退屈さを際立たせていた。


 あれから羞恥心の捌け口としてずっとブッシュコボルトに八つ当たりしていた。

 ようやく気が済んだ頃、私はレベル4に上がっていた。

 日もすっかり落ちて月明かりが照らす中、下着姿にコートだけでモンスターを絞め殺していた姿は誰にも見せられない。


 今日はお客さんが来るという。今朝方母から連絡があり、私はただただ待つだけの時間を過ごしていた。

 この病院ってベッドに電話が付いてるんだね。こちらが可能なアクションに応じて操作できる。さすがに私は着信オンリーだけどさ。



 ヒマだーーーーーーーーッ!!



 なのでゲームできない。早く体動かしたーい。


 ……お。足音が近付いてくる。この歩幅は子供? 長い入院生活で、この病室にやってくる人間の気配を詳細に察知する能力が鍛えられた。

 近付いてきた足音が止まり、私は病室の扉に目をやった。


「おーっす。シェリル姉。元気ー?」


 デジャヴかな? 元気に見えるなら眼科に寄ってくればいいと思う。

 やって来たのはよく知っている近所の子供だった。

 ザキ・リンスクル。今は確か小学5年生で、赤ちゃんの頃から知っている。家族ぐるみで交流があり、今でもたまに遊んでやってる。

 黒のハーフパンツとくすんだモスグリーンのTシャツで、その上にグレーのパーカーを羽織っている。それを少し着崩した、ちょっとヤンチャで元気な男の子だ。

 確か、今はクラブに所属して野球がんばってるんだって聞いた。


「おばさんから頼まれてた物、持ってきたよー。お、果物あんじゃん。もらっていい? いただきまーす」


 お客さんってお前か。

 今朝やっとアゴの固定具が外され、ようやく口で食事ができる様になったんだ。私のバナナを返せ。


「……ザキ。……こん……にちは。いらっしゃい」


 そんな事はおくびにも出さず、笑顔で歓迎する私エライ。まだ口が上手く回らず言葉がたどたどしい。


 実は意識が戻ったのもごく最近の事だったりする。何週間も眠り続け、その間ずっと集中治療室で死体の様に安置されていたそうだ。

 当初、肋骨がメチャクチャに折れて自発呼吸が全くできなかった。おかげで意識が戻った時は最悪だった。喉から直接肺に呼吸用のチューブを入れられていたんだけど、これがもの凄く苦しい。本来意識のない相手に使う物らしいから仕方ないんだけど。先生「ずっと反応がないから、かえって治療しやすかったよ」って笑ってた。笑うな。

 で、なんとか今は普通の個室に移動できた程度には回復したよ。まだ酸素マスクは手放せないけど、アゴの固定具も外れこれでだいぶ呼吸がしやすくなった。


「うい。シェリル姉、起こそうか?」


「……うん。おねがい」


 昔からよく気が利く子だ。話がしやすい様にザキはベッドのリクライニングを操作して、わずかに背を起こしてくれた。横になったまま会話するというのはなんとなく抵抗があるから。治ってきたとは言え、まだ折れた肋骨が完全ではないのでほんのわずかだけど。その角度を絶妙に察知してくれるから嬉しい。


「シェリル姉がこんなになるなんて初めて見た。噂じゃ世界を救う為に隕石を素手で跳ね返したって聞いたよ?」


 みんなの中で私がヤバイ。リシアといいザキといい、私に何を求めているんだろう。


「あれ? VRギアじゃん。シェリル姉もVRゲームするの? へぇ~」


 さすが子供。ゲームについては目ざとい。ベッド脇に置いてあるヘッドギアを見付けて嬉しそうに言う。というかVRギアっていうんだ。それ。


「ん……」


「で、何のゲームやってるのさ? シェリル姉の事だから対戦格闘? それともスポーツ系? ……まさか恋愛シミュレーション……」


 おい。モテないのは確かだけど、断じて違う。


「エ……クステンド……オンライン。」


「マジで!? オレもやってる! クラスの友達と!」


 ザキは目をまん丸にして食いついてきた。ベッドに身を乗り出すな。メッチャ痛い。

 だけどその反応がなんとも子供らしくて可愛らしい。やはり大きくなってもまだ子供だな。

 小さい頃から弟みたいに接してきたおかげか、昔から変わらないザキをお姉さんとして温かく見守りたい。そんな気持ちにさせてくれる。


「……いっしょに、やる?」


「それはヤダ」


 なんだとこのガキ。

 即拒否された。お姉さんちょっと泣きそう。


「う~ん。身内と一緒の所を友達に見られるのはちょっとなぁ……」


 なるほど。近所のお姉さん同伴じゃ友達に格好付かないもんね。

 学校の授業参観で気恥ずかしくなるのと同じ気持ちか。子供らしく微笑ましい理由だ。ならわかってあげようじゃないか。


「……覚え……てろ」


「シェリル姉が治るまでには忘れてるよ」


 お互いに笑いあう。

 そうしてしばらくゲーム談義に花を咲かせた。ザキは初心者の私に色々と教えてくれた。

 でも、自分のキャラクターネームや友達の名前もしっかり隠し通していた。寂しさも感じながら見事だと褒めてあげたい。



 しばらく会話を楽しんだ後、ザキは帰っていった。リンゴを手に。返せ。

 アッシュブロンドの髪で、クリっとした目を去り際にウインクさせていった。可愛いヤツめ。


 さ~て、ゲームの時間だ。

 次の投稿は10月3日 午後8時の予定です。


 これにて序章終了です。読み返してみると、戦闘シーンが1ヶ所しかないせいかのんびりしてしまった様に感じますね……。

 次章からは戦闘シーン多めでお送りいたします。


 次回、第8話『 魔法と身体テストとオオカミと』


 殴り合います。

 お楽しみに!

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