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ミケのオンラインリハビリテーション  作者: 白ネコ扇子
第6章・チェック
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62・ジノのお願い

大変長らくお待たせしました。

これからまた更新再開いたしますので、よろしくお願いします。

 トントン。カンカン。


 金槌とタガネが刻む小気味良い音色。

 その音が響く度に硬い金属が形を変えていく様子を見ているのは、何とも言えない驚きと楽しさがある。

 遮るもののない閉じられたこの部屋で、唯一奏でられる音楽に私はじっと耳を傾けていた。


「ミケちゃん。退屈じゃないかい?」


 金属を叩いている小さな影。鍛冶師のギネットさんだ。

 ここはギネットさんのお店。その奥にある工房だ。

 先日の神獣との戦いで破損した私の籠手を直してもらっている。


 今日ログインしてすぐに温泉街からアルテロンドに戻り、ギネットさんに仕事を頼んだのだ。

 ギネットさんもすぐに取りかかると言うので、せっかくだから見学させてもらう事にした。

 職人さんの技術を直接見れるなんてあまり無い経験だし、私自身こういう仕事を見るのは結構好きだと気づいた。


 それで、もう小一時間程こうしている。


「ギネットさんの仕事、とてもきれい。見てて楽しい」


 私の感想にギネットさんは目を細めて笑った。


「ふふっ。じゃあ、期待にお応えして最高の仕事をしてあげようじゃないか」


 他にする事も無いし、今日はずっとギネットさんの仕事を見てるのもいいかも知れない。


 ジノは温泉が気に入ったみたいだから、しばらくレドカンナに滞在するんじゃないだろうか。……もしかしたら帰って来ないかも知れない。

 シェルティはまだレドカンナにいるみたいだけど、破損した大鎌の修理があるから今日中には帰ってくると思う。

 「道具のお手入れは農家のたしなみですから」なんて言ってたし。

 アシンさん達レッドピースのみんなはもうしばらくレドカンナでレベル上げをした後、次の町エルトリアに進むそうだ。


 そして、ソディス。

 あれから早々にレドカンナを発ち、今日になっても方々を飛び回っているらしい。

 温泉でもずっと考え込んでいたようだったし、何かあったのだろうか。

 ついさっきも飛行船に乗って『鉱山都市・アイゼネルツ』に向かった所だ。

 私は飛行船にトラウマがあるので、同行は辞退した。


 あと、今日は侵攻クエスト開催日なんだけど。参加するのかどうなのか訊くのを忘れた。

 まぁ、まだしばらく時間はあるし、後で訊こう。


 ギネットさんが金槌を振るうごとに、籠手を構成する金属板が明るい朝焼け色の輝きを増していく。


 今回、修理ではなく新しく作り直してもらう事にしたんだ。

 破損した龍心の籠手を解体して素材に戻し、霊峰レドナで入手した「朱炎鉱」をベースに新造してもらっている。

 カンナの示唆した完全な製法ではないが、鉄や鋼より高い性能となるはずだ。


 熱した朱炎鉱を叩いて伸ばし、形を整えていく。

 ギネットさんはまるで機械の様に精密に細かなパーツを作り出していた。


 これはドワーフ族固有のスキルで、手足を空間に固定、わずかな震えすら止めて作業が行える様にできる。

 さらに、視界を顕微鏡の様に拡大する事も可能だ。

 それに合わせて、入力した数値によってミクロ単位での動作も可能とする故に、機械の様に精密な作業が行えるのだ。

 まさに生産職の為の種族と言っても過言ではない。


 さらに、ギネットさんは作業と同時にリアルタイムでその数値を調整し、より正確な答えを導き出しながら作り上げている。ドワーフ族の超人的なスキルとギネットさんの職人としての勘の融合があってこそ可能な技術である。

 ソディスをして金属の扱いで右に出る者はいないと言わしめた技術は、まさに神業とすら感じさせるものだった。


 そうして出来上がったパーツを手早く組み上げていく。

 手首の部分も鱗状に装甲板が重ねられ、稼働する作りとなっている。防御力を保ちながら稼働範囲の確保も問題無い。

 布製の衣服と違い、金属などの硬質な素材で出来た装備品は稼働範囲に制限が生じる。

 その制限をまるで感じさせないのはギネットさんならではの製法のおかげだった。



 生産職であるクレアトゥールは周知の通り装備品の製作ができる。

 その方法は、素材を集めてどの部位の装備、または武器やアクセサリーを作るのか指定して『製造スキル』を起動する事で自動的に装備品が完成する。


 その際、製造者の熟練度によっては失敗、素材がゴミへと変わってしまう事もある。


 熟練度は使用する素材の種類ごとに設定してある【素材熟練度】。

 さらに完成品となるアイテムの種類ごとにもまた別に【製造熟練度】が存在している。


 【素材熟練度】は鉄や宝石などの鉱物、スギやカシといった異なる種類の木材、ポーションの材料になる薬草の種類などなど、無数の素材に充てられている熟練度。

 その素材を扱った際の成功率がこれに依存しており、またその素材を扱う事で上昇していく。


 【製造熟練度】は 剣の熟練度なら剣。兜なら兜など、対応した装備品を作る事で上昇していく熟練度だ。

 製造の成功率に関係している他、完成品の性能の優劣に大きく関わってくる。


 つまり、熟練度を上げれば、簡単により良い装備を作る事ができる様になるのだ。


 しかし、その方法の他にもう1つ、装備品を作る方法がある。


 素材を集め、作りたい装備を指定せずに『製造スキル』を起動。

 その後、自ら手作業で素材を加工、組み上げていく方法。


 それが『オーダーメイド』だ。


 【素材熟練度】がたとえゼロだったとしても、決して自動的に素材がゴミに変わってしまう事はない。

 しかし、その素材に合った手法を自ら手探りで調べていかなくてはならない。

 しかも、正解から外れれば当然素材をダメにしてしまう事になる。


 装備を自分の手で作り上げていく為、作り手次第でスキルによる自動生成以上の性能に仕上げる事も可能。【製造熟練度】に出来が左右される事もない。

 また、独自のギミックを仕込む事もできる。


 しかし、やはり自動生成以上の性能に仕上げるにはかなりの修練が必要となる。

 それも極限まで上げた製造熟練度を超える完成度となれば尚更だ。

 たとえ知識として製法を知っていたとしても、神がかった精度と根気が無ければ作り上げる事は不可能である。

 

 しかも、途中段階で装備品の性能を知る術は無く、上手くいっているのか、失敗したのかは完成するまでわからない。

 実際、コツコツ熟練度を上げた方が時間はかかるが、手軽で堅実である。


「ふい~っ。よし、できた。名づけて『朱心の籠手』さ!」


 つまり、これは上級者向けの手法だ。

 それでもこの「形も種類も全く違う無数の鍵穴を同時に解錠していく」様な難易度をものともせず、これだけのものを完成させてきたギネットさんの技術は凄いのだ。とても。



「おや? 1人とは珍しいじゃないか」


 私が完成した「朱心の籠手」に手を通してその出来を確めていた時だった。


「…………」


 工房の扉が開かれると、そこに1人の少年が立っていた。


「ジノ?」


「こんにちは、ギネットさん。ミケを借りてくよ」


 そこにいたのはジノだった。

 温泉を大層気に入ってた様子だったので、このお早い帰りは少し意外。

 あいさつもそこそこ、何やら私をご指名のようだ。


 だが、なんだか様子がおかしい。

 妙に深刻な顔をしている。


「わかった」


 私はギネットさんと顔を見合わせると、席を立った。

 ギネットさんも首を傾げていたが、そっと目で私を促した。


「ギネットさん。籠手、ありがとう」


 私が頭を下げると、ギネットさんはキセルを咥えながら軽く手を振って返してくれた。


 それから、私はジノに駆け寄ると連れ立って店を後にした。




 歩きながら料理やスキルなどの他愛ない会話をしながら、ジノに促されるまま私達はアルテロンドの外に出た。

 緑色の草花が風に揺れるここはレツト平原。

 珍しく周りに人気が無く、歩いているのは私とジノだけ。

 いつもだったら好きな料理の話もどこか上の空のジノ。


「な、なあミケ」


 しばらくして、ジノが口ごもりながら切り出した。


「ボクに……戦い方を教えてほしいん……だ」


 伏せた顔を赤らめ、ジノは消え入りそうなか細い声でそう言った。


 いったいどういう風の吹き回しだろうか。

 それは自ら体を動かすのが億劫だったジノからは、また意外過ぎる申し出だった。


「べ、別に、いつも体を張ってるお前達を少しは労ってやろうと思っただけなんだからな! ま、まぁ、ボクくらいになれば前衛だってこなせるだろうし、たまにはお前達にも後衛に退がる機会を与えようと思ってね。だからって後衛が楽だなんて思うなよ!」


 つまり、自分の為にシェルティや私が目の前で傷ついているのを見て、ジノなりに思う所があったみたいだ。

 そんな場面に直面しても、何もできなかった自分が悔しかったのかも知れない。

 普段自分の事しか考えてない様に振る舞ってはいるものの、ジノは私達仲間の事を大切に思っている。


「わかった。ジノ。ジノの気持ちに応える」


 私はジノの両肩を掴んで頷いた。

 やってみせようじゃないか。あのジノが私達の為に体を張ろうというのだ。私も出来うる限り力になろう。


「う、うん」


 ちょっと気圧されてか、ジノは顔が引きつっていた。




「『引き撃ち』をやってみよう」


 さて、では早速特訓を始めよう。

 レツト平原に移動した私達は互いに向かい合って構えた。 


「何それ? ボクのわかる言葉で教えてよね。ミケ」


「先生……と呼びなさい」


 ふてぶてしい態度のジノ。

 しかし、今の私は厳しい鬼教官。礼節は大切だ。


「ミ」


「先生」


 私がひと睨みすると、ジノはしおらしく黙った。


「……ケ先生」


「ん」


 なんだかちょっぴり楽しくなってきたのは内緒だ。


 引き撃ちとはその名の通り「後退しながら射撃を行う」事である。


 ジノが使う武器は扇。

 振り回すだけで風による遠距離攻撃が可能な扇だからこそ使える戦術だ。

 敵が近距離攻撃しか使わない場合ならば、距離を取って一方的に攻撃を加える事もできる。

 相手の遠距離攻撃に対しても被弾を避けつつ応戦可能だ。


 特にジノは付与魔法で妨害ができるので、よりその効果は高くなるだろう。

 有効かつ、とても簡単な戦術なのだ。


 あまり前衛向きの職業やステータスではないとはいえ、ジノは戦闘中でも割と冷静に全体を見る目がある。

 上手くやれば敵を撹乱、足止めをして戦闘自体の流れを操る事ができる様になれるかも知れない。


「バックステップしながら撃つ。それだけ」


「わかっ……わかりました。先生」


「じゃあ私、追いかける役。ジノは私を的にしてやってみて」


 そうして、ジノと私の地獄の特訓が幕を開けた。

 次回投稿は8日午後8時予定です。


 ご無沙汰しております。遅くなりましたが、第6章開幕です。

 仕事やら引っ越しやら手続きやらそれらに関する法律の勉強やら家事、料理の練習やら、あと絵、その他諸々の何やらで更新が遅くなりましたが、何とか投稿できる出来には仕上がったと思います。

 まだ全話書き上がってはいないので、完成した話までを順次投稿。かつ、先の話も書き進めて投稿できる様にしていきます。


 ここからさらに燃える戦いが繰り広げられていきますので、楽しみに待っていて下さい。


 次回第63話『銀の弾丸』


 お楽しみに!

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