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ミケのオンラインリハビリテーション  作者: 白ネコ扇子
第5章・シナリオクエスト 新たな仲間と温泉郷の獣
48/87

47・ソディスの目的

「ギネット。我輩だ。ソディスだ」


 私達がいるのは王都中央区にある一軒の武器防具屋だ。


 侵攻クエストの時に立ち寄ったポータルのあった広場と十字に交わる大通りは、王宮を中心に中央区をぐるりと一周している。

 この通りは道沿いに並ぶ建物をプレイヤーが店舗として買って、自ら経営する事ができる。どんなお店にするか、店舗の外観や内装のデザインも自由だ。

 そして、生産職が自分で作った製品を並べる事ができる、一番の晴れ舞台でもある。


 それで、ソディスはその中にあった一軒の扉を叩いたのだった。


「なんだ。ソディスかい。扉を閉めて帰っておくれ」


「せっかく来た客につれない事を言う」


 店内から聞こえてきたのは女の人の高い声だ。

 店主の姿は見えないが、その声からはとても迷惑そうな色が窺えた。


「まったく。ほら、そんなとこに突っ立ってないでさっさと入んな。あんたが表に立ってたら他の客が逃げちまうだろ」


 店主の声はため息混じりにソディスを招き入れた。

 私とシェルティもソディスに続いて店内に入った。


「……!」


 店内に足を踏み入れると、目に飛び込んできたのは壁に所狭しと飾られた剣に槍、斧と弓など鈍い輝きを放つ武器の数々だった。

 石の床に茶色いレンガの壁と、硬質で堅牢な造りの店内。

 床に設置された木の樽にも雑多な剣がたくさん立ててある。

 こちらは特価品みたいだ。やや質は劣るみたいだけど、それでも長く使う相棒として不足は無い出来の物ばかりである。

 また、別の壁には棚が据え付けられ、籠手や具足などの防具が並べられている。


 どれも皆手間をかけて素材の金属から鍛えられ、高い技術で仕上げられているのが見て取れた。

 こういうの、結構好きだ。


「こんばんは~。お邪魔します。ギネットさん」


 シェルティが店主のいるカウンターに声をかけた。

 だが、さっきから声はすれども姿は見えず。


 すると、カウンターの奥から小さな影が頭を出した。

 ずいぶんとたくましいしゃべり方をしているけど、その姿はちょっと意外だった。


「シェルティちゃん。いらっしゃい。どうさね? あたしのこしらえた得物の使い心地は? このレベルの素材を使った物としちゃ会心の出来だったんだがね」


 少し甲高い声の主は、ひょっこりと顔を出したその小さな影。

 そこにいたのは金髪を頭の両脇で短く結んだ、浅黒い肌の小さな女の子だった。


 その体は……私より小さい。種族がドワーフ族で、身長が妖精族同様制限されている為だ。

 服装は首元までしっかり包む厚手の黒いシャツを着込み、その上に焦げ茶色の革のエプロンをしている。

 手にも分厚い革手袋はめており、体のラインを完全に埋め尽くした作業着姿。


 そんな小さな女の子が鋭く目を細め、手にしたキセルを咥えて煙を燻らせていたのだった。


「はい! おかげさまで前より戦いがとっても楽になりました!」


 シェルティは目と小精霊をキラキラさせながら、ご自慢の武器を持ったつもりで腕を大きく振って見せた。

 肩に留まっていたハービィが急に振り回されたものだから、ちょっとビックリしていた。


「そう言ってもらえると嬉しいよ」


 店主はシェルティの様子を見てニッコリ笑った。

 しかし、その背後に立つソディスにちょっぴり眉をひそめた。


「ところで、お前さんまだこんなのとつるんでんのかい? まだ若いんだから、こいつの借金なんて踏み倒してトンズラしたって誰も咎めやしないよ」


「あはは……。まぁ、確かにソディスさんって変な人ですけど、まだまだ1人でやってく自信ないのでもうしばらくお世話になろうと思います」


 店主の言葉にシェルティは指先で頬をかいた。

 だけど、きっぱりとそう言った。


「それに助けてもらった分お役に立てる様になりたいですし、色々勉強させてもらってるので。あっ、借金はチャラになりましたけど、いいですよね?」


 そうして少し照れくさそうに笑い、シェルティは後ろの長身を見上げた。


 ソディスはそれを一瞥すると、わずかに微笑んだ。


「ふっ。酔狂な」


「自分で言いますか」


 シェルティの借金はここの代金だったんだ。

 確かに相場より高いが、見た感じ出来映えや性能からすれば値段はむしろ良心的だ。

 ソディスが借金を笠に着て、何も知らないシェルティを手込めにしようとしてる訳じゃなさそうだ。安心した。


 シェルティなりにちゃんと自分で考えてソディスに付いて行くと決めたようだ。

 本当にたくましくなったと思う。


 ただ、私の頭に「忠犬」の二文字が浮かんで消えないんだけど、どうしよう。


「……ま、それならそれでいいさ。ところで、今日はもう1人の連れが見えないようだけど? それに、そちらの可愛い子は初めて見る顔だね」


 ギネットと呼ばれた店主はキセルを口に含むと、煙を吐きながらソディスに視線を向けた。


「あやつは気まぐれだからな。今はログインしていないようだ。今日は新たに紹介したい者がいてな。こちら、ミケだ」


 ソディスが私に手を差し出し前へ促した。


「ミケも紹介しよう。この『ギネット武器防具店』の店主にして、鍛冶師のギネットだ。我輩の知る中では金属の扱いでギネットの右に出る者はいない」


 私はソディスに促されるままカウンターの前に立った。


「……ソディス。あんたまたこんな女の子騙して……今度は何しようってんだい?」


 カウンターから飛ぶ非難の声。

 ソディスはそれに対し、笑みを浮かべて返した。……否定する気はないようだ。


 そうしてギネットさんはこちらを向くと、その幼く見える顔をくしゃっと笑顔に変えた。


「あたしはギネット。ここで武器や防具を作ってる者だ。よろしくね、ミケちゃん。もしこの男に何かされたらすぐあたしに言うんだよ。ここにある武器、どれでも安く譲ってあげるからね」


「ミケです。その時はよろしく、ギネットさん」


 私も頭を下げたタイミングでソディスが切り出した。


「さて、挨拶も済んだ事だ。早速で悪いがギネット。今日はオーダーメイドを頼みたい」


 それを聞いてギネットさんはキセルを咥え目を細めた。


「……ふう。今日は何をご所望なんだい?」


「作ってもらいたいのはこのミケの防具だ」


「私の……?」


 不意を突かれた私の頭に疑問符が浮かんだ。

 やるのはドラゴンハートの修理じゃなかったっけ。

 私は目をぱちくりさせ、ソディスを見上げた。


「ミケ。これはあくまで提案だ。君のドラゴンハートを新しく防具として生まれ変わらせようと思うのだが、どうだ?」


 確かに手甲もベリオンに破壊されたままだったし、そろそろ新調しようと思っていた。それも考慮しての提案なのだろう。


 でも、何故そこまでしてくれるのか。

 今日1日のソディスの行動。その理由は何なのか。

 そろそろはっきりさせねばならない。


「今日、ずっとソディスは私を助けてくれた。どうしてそこまで?」


 私の質問に、ソディスは何でもないかの様にいつもの澄まし顔で答えた。


「言わばこれは先行投資だ。我輩も生産職、商人に名を連ねる者である。利益を得る為に投資をするのは当然の事。そう。そして今、その投資に値する欲しいものがある。わかるかね?」


「……?」


 わからん。

 私の持ってるアイテムで最も高価なのはその壊れたドラゴンハートだ。他は安物の服くらいしか無い。

 はっきり言ってソディスが欲しがる様な物は持ってないと思う。

 ……いや、3つ程新しく手に入った物があった。

 けど、私もまだよく確認してないし……。



「ミケ。我輩の仲間にならないか?」



 私はポカンと口を開いたまま、それを聞いていた。


 ソディスの放った言葉。

 私にとって、それは予想外過ぎる提案だった。


 これまで一時的な同行者として冒険を共にする事はあっても、正式なパーティメンバーとして加入する事は無かった。

 それは私が幼龍ミスティックマスターという弱いキャラクターを作ってしまったせいだ。

 ステータス上の攻撃力や耐久力が低くて戦闘時の効率が落ちてしまうのと、スキル構成が中途半端で任せられる役割が無いから敬遠されてきたのだ。

 平気な振りをしてきたけど、正直結構寂しかった。


 だから、こうして正式な仲間に誘われるのは初めてだった。

 私はこの胸にあふれてくる気持ちと、また予期せぬ展開にしばらく放心したまま固まっていた。


 いや、よくよく考えてみればこれは嬉しい申し出じゃないか。言ってきたのがソディスっていうのだけがちょっと心配だけど。ちょっと口元が緩みかけた。


「今日1日行動を共にして多少なりとミケを知る事ができた。どんな人柄なのか。何を信念としているのか」


 ソディスはおもむろに私に詰め寄った。

 その迷いの無い視線はまっすぐ私の瞳を覗き込んでいた。

 ちょっとドキッとした。


「ミケ。君は魅力的だ」


「!?」


 え。


「戦闘の技量だけではない、我輩を見捨てても良い状況は何度もあったはずだ。だが、その度に自らの身を呈して窮地から救い出してくれたな。さらに敵にすら礼を尽くすその心意気。ミケのその誠実さに我輩は惚れた」


 慣れない言葉に私の小さな胸が大きく跳ねた。

 なのに全身は固まった様に動けない。

 なんだこれ。わからない。こんな感覚初めてだ。


 ソディスがさらに一歩、私に踏み込んだ。


「ミケを一目見た時から決めていた。必ず我輩の側に置きたいと。今ここでミケを手放したら、きっと一生後悔するだろう。今日1日で君は我輩にとってそれだけの存在になってしまったのだ。ミケ」


 急に高鳴った鼓動をどうしていいかわからず慌てる私と、構わず距離を詰めてくるソディス。

 いつの間にか後退りしている私の足。


「待っ、ソディ――」


 そして、ついに背中が壁へとぶつかった。私の行く手を遮る硬く無情な感触。

 躊躇無く私達を隔てる壁を破壊してくるソディスに、何故か抵抗できない自分がわからなかった。

 私の顔のすぐ横に押し当てられたソディスの手。

 もう、私は逃げられない。


 私の目をまっすぐ見つめたまま、ゆっくりと静かに顔を寄せるソディスの銀色の瞳。

 互いの息がかかる距離。

 もうすぐ触れそうな場所に、まるで絵画の中から現れたかの様な綺麗な顔がある。

 こういう時、顔の良いヤツはズルいと思った。



「ミケ、君が欲しい」



「ごめんなさい」



 シェルティ「振った!」じゃない。

 いや、ちょっと待って。一旦落ち着こう。気持ちは嬉しいけど……じゃなくて、もう一度最初から整理したい。頭ごちゃごちゃだ。


「わはぁ~……。私の時はこんなに激しい勧誘じゃなかったですよ」


「はぁ……。これで中身がアレじゃなかったら、あたしもコロッといってたかもねぇ」


 シェルティはなんでそんなに楽しそうなんだ。両手で顔を隠しつつ、指の隙間からこちらをバッチリ見てるし。

 ギネットさんも目を細めながら笑ってる。


「そうか。対価がまだまだ足りなかったか。我輩とした事が君の価値を見誤るとは、すまない。ではこのモザイクマスクと後方バッチリヘッドも付けよう」


「ちが……」


 違う。そうじゃない。落ち着いて話をさせてほしい。あとそれいらない。


 別に顔が熱くなってなんかいない。この胸の高鳴りは私の平常心だし。

 男の人にこんなに迫られた事なんてなかったけど、全然平気だから。人生で初めてモテてるのかも、とかちっとも期待してないから。

 そうだ、これ仲間の勧誘だったよね。


 と、私がひとり頭の中で言い訳をしていたら、ソディスは壁に着いた手を放して私から離れた。


「えー? もうおしまいですか? つまんないです」


「……チッ。ヘタレかい」


 シェルティが口を尖らせ文句を言う。

 ギネットさんも思いっきり舌打ちしながら煙を吐いてるし。

 何が不満だお前ら。


「まぁ、対価については後で相談するとして。ミケを誘ったのは君の戦闘技術を我輩の目的の為に貸して欲しいからなのだ」


「も、目的……?」


 ソディスはソディスでこっちの気も知らないであっけらかんとしてる。


 でも、その「目的」という言葉に私はなんとなく興味を引かれた。

 おかげで少し冷静になれた。

 私の乙女心が置き去りなのがちょっと気に入らないけど、まぁいい。


「このエクステンドオンラインの世界が1つのAIによって製作されている、という噂は聞いた事があるかね?」


 私はソディスの話に耳を傾けた。

 最近聞いた覚えがある。

 そうだ。ザキと話していた時に少し話題に出たんだ。入力した設定によって自動的に世界観が作られているという話だった。


 私は「少し」とだけ答えた。


 ソディスは続けた。


「この世界における神とも言える存在。既存の常識を超える、創造するAI。このエクステンドオンラインはその次世代型AIの試験場なのだと我輩は推測している」


「確か、開発者が設定を入力するだけで勝手にフィールドやイベントが作られてるって噂ですよね? それがソディスさんの目的とどう関係してるんですか?」


 シェルティが肩のハービィを撫でながら首を傾げた。


「そうだな。その前に我輩がこのゲーム『エクステンドオンライン』を始めるに至ったきっかけを話しておこう」


 ソディスは腕を組みながら目を閉じ、やがて薄く開いた。

 そして、たどった記憶を紡ぎながら話し始めた。


「数年前、ある作家がこの世を去った。その遺作となった最後の作品。その物語は人族や魔人族、他様々な種族が相争い領土を奪い合うというものだった。天地創造から始まり、やがて人と魔の対立。そして、魔王を討つべく立ち上がったひとりの少女が現れる所で終わっている」


 シェルティがハービィを撫でる手を止めた。


「それって、シナリオクエストに出てくる少女みたいですね。でも、そこで終わりなんですか? 魔王を倒してハッピーエンドじゃないんですか?」


 シェルティは髪の毛にじゃれるハービィを抱き上げ、胸の前でその背中に顔をうずめた。腕の中でくすぐったそうに悶えるハービィ。


「その時点で作者が亡くなってしまったのでな」


 ソディスがわずかに声を落とした。

 でも、シェルティの言った感想。それは私も同感だと思った。


「似てる……?」


 私の呟きにソディスは静かに頷いた。


「そう。これがエクステンドオンラインとその物語を結び付けた最初の点であり、我輩がこの世界に降り立ったきっかけであった」


 偶然にしては出来すぎてる様な気もする。

 でも、それだけじゃまだ確証はない。


「我輩も確証が欲しくてな。皆はエクステンドオンラインの世界。今、我々が立っているこの世界の名前を聞いた事はあるかね?」


 私は首を振って否定した。

 シェルティも同様に首を振っていた。

 公式設定にも特に名称は載ってないそうだ。


「我輩はこの世界を長く調べていた。そして、アルテロンドの大図書館でようやく1冊の書物にその名を見つけた」


 そこでソディスは宙に指を走らせ、ウインドウを開いた。そして、それをこちらに向けて見せた。

 そこに表示されていたのは、開かれた本の1ページを写したスクリーンショット。


 ソディスはそこに書かれている一節に指先を添えた。


「今でこそその名は失われているが、太古の昔、神話の時代この世界は『ミシェーリナ・ロア』という名で呼ばれていたそうだ」


「え」


 その名前に私は聞き覚えがあった。

 いや、本来だったらそう名乗っていたかも知れないその名前。


 ミシェーリナ。


 私の喉から声が漏れたのは、それが意外な所から出てきた為だった。


「その名は同一作者による絵本の登場人物でもあり、何故かその名前がこの世界の名前として存在している。そして、先の物語の舞台となっている世界の名前も同じく『ミシェーリナ・ロア』なのだ」


 かすかにソディスが私の方に視線を向けた様な気がした。


「話を戻そう。この世界を創っているAIの製作には科学、思想、スポーツから芸術など、あらゆる分野の専門家が集められ、その知識が注がれている」


 ソディスは胸の前まで腕を持ち上げると、力強く拳を握り締めた。


「そして、エクステンドオンラインが世界を拡大させる為に必要な設定。世界観、歴史、そして人物。……物語と同じだとは思わないかね」


 そこまで話して、ソディスは口元に笑みを浮かべた。


「その物語の作者は――」


「ジャクリーヌ・ムーア」


 その名前を私は呟いていた。


 ジャクリーヌ・ムーア。

 ソディスが愛読している本の作者であり、その全ての著書を揃えているという話を今日ソディスの口から聞いたばかりだ。

 そして、私のキャラクター名のモチーフになった絵本の作者でもある。


 それら全てに共通してある「ミシェーリナ」という名前から導き出される結論。


「晩年、ジャクリーヌ・ムーアはこのエクステンドオンラインの制作に関わっていた。そして、死して今尚この世界で物語を綴り続けている。彼女があの物語にどの様な結末を遺したのか、我輩はそれを知りたい」


 当然、意図的な盗作という線も考えたそうだが、作り込まれた設定の細部、作家特有のクセなどからしてそれは無いとソディスは断言した。


「故に我輩の目的。それは『シナリオクエスト』最初の攻略者になる事だ」


 ソディスは握り締めた拳を下ろした。

 そうして、打って変わって静かに黙った。


 ソディスはいつもと変わらない澄まし顔だった。

 だけど、今日1日ソディスと一緒にいてわかった事がある。


 時折見せる饒舌に話す時のソディスの顔だ。

 まるで大切な宝物を自慢する子供の様な、いつもの澄ました顔に隠された時折覗かせる少し無邪気な表情。

 それはソディスが本気で楽しそうな時の顔だった。


 いつも冗談みたいな事ばかり言っているソディスだけど、その言葉に込めた熱が本物だと、私にはわかっていた。


「改めて聞かせて欲しい。ミケ、我らの仲間にならないか?」


 私はソディスの真正面に立った。


 これはゲームだ。ゲーム、すなわち娯楽だ。

 ならば最も優先すべきなのは「楽しい」かどうかだと思う。

 それに、そんなソディスの楽しそうな顔を見ていたら、私も乗りたくなってしまった。


 答えは決まった。


「こちらこそ、力にならせてほしい。ソディス」


 私は右手を差し出した。

 その手を、ソディスは固く握り返して応えた。


「ようこそ、我がクラン『ヘテロエクス』へ。ミケ」


 ソディスはその澄ました顔に、満足そうに笑みを浮かべていた。


「やたぁ~!! ミケさんとまた一緒に遊べるぅ~!!」


 横から激突するみたいにシェルティが抱き付いてきた。


「キュウ」


 手から放り出されたハービィが空中を羽ばたきながら不満そうに鳴き声を上げた。

 余程嬉しいのか、また私を包み込む様に抱きしめてぐりぐりと頬擦りするシェルティ。とりあえず好きにさせてあげよう。


「ようし。話がまとまったみたいだし、そろそろ何を作るか決めようじゃないか」


 ずっと私達のやり取りを見守っていたギネットさんだったが、その小さな体を精一杯カウンターから乗り出してきた。

 そうだ。私の防具を作るって話だったっけ。


 私はアイテムボックスから壊れたドラゴンハートを取り出して、机の上にそっと置いた。

 その赤くきらめく破片をギネットさんは手に取った。


「ドラゴンハートか。懐かしいねぇ……。素材にすれば長く使える優良アイテムさ。この派手な壊れ方は獣身覚醒のフィードバックかい」


 ギネットさんが破片を持ち上げ、観察しながら呟いた。


「そういえば、ソディスも昔ドラゴンハートをぶっ壊してあたしの所に持ち込んだんだったね。それも自分で壊して。必ず1つ手に入るとは言え、一点物のレアアイテムを素材として実験なんかに使うなんてね。まともじゃないよ」


「そんな事もあったな。それ以来の付き合いになるのか」


 ギネットさんは破片を調べながら当時を思い出したのか、ため息を吐きつつ苦笑していた。

 ソディスも少し笑みを浮かべていた。


「じゃあ、それから2人はずっと一緒に?」


 シェルティにされるがまま私がそう訊ねると、ギネットさんはぷっと吹き出しながら腹を抱えた。


「あっはっはっ! まさか。冗談じゃないよ。こいつと組むのだけはまっぴらゴメンだね。あたしゃ誰にでも平等に商売してるだけさ。こんな悪辣外道な嫌われ者でも金払いだけはいいからね」


 笑いながら涙を拭くギネットさん。


「まぁ、前々からシナリオクエストにご執心なのはホントうんざりする程聞かされてきたからね」


 ギネットさんが視線を向けると、ソディスは薄く笑みを浮かべて返した。

 ギネットさんは楽しそうに大きく煙を吹いた。


「ずっと口ばかりのロクデナシだと思ってたけど、嫌われ者でボッチ気取ってきたあんたがジノの坊やを初め、シェルティちゃん、ミケちゃんと仲間に恵まれ始めたって事は……いよいよなんだろ? あたしゃ正直ほとんど無理だと思ってるけど、腐れ縁のよしみだ。ま、応援してるよ」


「そう言ってもらえると心強い」


「ほとんど悪口ですよ」


 胸を張るソディスに、私を後ろから抱え込んだままシェルティが呟いた。

 私は何も言わなかった。


「さて、せっかくの門出とミケちゃんの歓迎祝いだ。鍛治師ギネット、景気付けにうんと腕を奮おうじゃないのさ。ミケちゃん、シェルティちゃん。こんなロクデナシだけど、どうかよろしく頼むよ」


 悪態を吐きながらも、ギネットさんはその幼く見える顔でニッコリ笑っていた。

 私とシェルティは悪口だらけにも関わらず満足そうな当人を見ながら、強く頷いて応えた。

 次回投稿は27日午後8時予定です。


 はぁ~……。顔が良くなりてぇよぅ……。

 次で新キャララッシュは一旦おしまい。

 また愉快な仲間が増えますよ。


 次回第48話『もう1人の仲間』


 お楽しみに!

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