40・リザルト
「あぁ~。負けちゃったよ」
「勝ったぁー!」
「お疲れ~」
生き残った敵からは結果を残念がる声。味方からはまばらに歓喜の声が上がっていた。
先程までの殺伐とした状況から一転、すっかり気の抜けた雰囲気に変わっていた。
方々で上がった声からも既にやる気は無い。敵味方双方が仕事終わりのサラリーマンみたいに挨拶を交わしていた。
「ま、次頑張ろうぜ。帰って寝よ」
「あー勝ったぞ! 結果を見たら打ち上げ行こう! え? 疲れたからもう寝る?」
仲間同士で会話したり、倒れていった仲間にメッセージを送ったりと、忙しそうだ。
そんな中、誰かが私の肩を叩いた。
「お疲れ。どうだった? 初めての侵攻クエストは」
ルクスだ。あまり疲れを見せない、陽気ないつもの笑顔だ。未だ座ったままの私に手を差し伸べてきた。
色々ありすぎて一言じゃ言えないな。
戦いにワクワクしたり、ピンチにハラハラしたり。あと、ちょっと怒ったり。
周りを見てこのアッサリした感じに面食らうと同時に、少し感心もした。多分あれも悪役を演じていただけなんだろう。ごく一部は本心から悪者をやってた様な気もするけど。私はまだそこまで割り切れてないかな。
まぁ、久しぶりにすごく充実した時間を過ごせたと思う。
「うん。楽しかった」
私はルクスの手を握って立ち上がった。
もう脚も回復し終え、MPとスタミナ値もほぼ満タンまで戻っていた。
「そろそろクエストの結果が発表されるから」
そう言いながらルクスは満月の浮かぶ夜空を見上げた。
よくわからないけど、私もそれに倣って空を見上げる。
すると、私達の頭上に空を覆い尽くす程の大きなウインドウが表示された。小さな鐘を打った様な心地よいファンファーレと共に文字が浮かび上がった。
『リグハイン砦攻防戦
勝者・神聖王国陣営
最終領主・ベリオン(神聖王国陣営)
生存数・神聖王国陣営10/123人:魔王軍陣営13/101人』
見上げた空に大まかな勝敗の結果が表示されている。
ふと、ルクスが手元でウインドウを操作し、私にも促してきた。簡単に操作を教えてもらいながら、目的の内容を表示させる。
そこにはより詳しいクエストの詳細や達成項目がズラリと並んでいた。
『勝利ボーナス』
勝利した陣営全員に支払われ、特に大きい報酬のひとつでもある。
途中で倒れてしまっても、戦いが勝利に終われば報酬が手に入るのは知ってる。領土を獲得するのが最大目標であるが、半分は勝利ボーナスの為と言っていい程額が大きい。
なので自分を犠牲にしてでも十分なメリットがあるのだ。
ちなみに報酬は通常のクエストと同様経験値とお金だ。
高難度のクエストをクリアすると中にはレアなアイテムがもらえるものもあるみたいだ。
『生存ボーナス』
侵攻クエスト終了まで1度も死亡せず生存していると達成。
勝利ボーナスの他にもらえる追加報酬みたいなものだ。
敗北した陣営の生き残りにも報酬は入るが、勝利ボーナスに比べれば微々たる額だ。
『討伐数ボーナス』
一定人数倒すごとにクエストの達成難度が上がり、報酬が大きくなっていく。
最高難度の100人斬りでレアアイテムがもらえるようだ。
ちなみに私はあまり活躍してない。一応最低難度の報酬はもらえた。
これも低難度では勝利ボーナスに比べたら微々たるものだが、高難度になれば勝利ボーナスにも引けを取らない額になる。
『回復支援ボーナス』
支援魔法をかけた回数や回復させたHPの総量などで算出される。
こちらも活躍しただけ難度と報酬が上がっていく仕様だ。
私もそこそこがんばってたつもりだったんだけど、半分くらい前線で戦ってたのもあって結果は控えめだった。
『簒奪ボーナス』
領主を倒すと入る報酬だ。
額も勝利ボーナスに次いで大きい。途中で倒れていったゴルディークやデモニドにも入っているだろう。
『領主就任ボーナス』
最終的に領主として生き残った者に与えられる報酬だ。
額は最も大きく、更に勝利、簒奪の報酬も合わせてもらえる為に得られる報酬は桁違いの破格となる。得られるのはただ1人だ。
それと、報酬が得られるのは最も長い時間戦闘を行った地域のものだけとなるので、2ヵ所の地域を渡って来たデモニドは元いた地域かこのリグハイン砦どちらか長く戦闘した場所の方に帰属する。
ただし、全く戦闘に参加していなかった場合は、たとえ領土内に居ても勝利ボーナスなどの報酬は得られない。
デモニドが「無駄足にならずに済んだ」と言ったのは、ヴェイングロウが生存していた場合、戦う事なく侵攻クエストが終了していた可能性があっただろうからだ。
他にも瞬間ダメージ量、総攻撃回数、総与ダメージ量、総被ダメージ量など色々な項目があったけど、達成したものは最低難度のものばかりだった。
ウインドウをスクロールしてまだまだ続く項目を追っていると、ある項目に目が止まった。
「ミケ。お前、あれ……」
その項目を見ようとしたら、突然ルクスが私の肩を掴んで揺さぶった。頭がグワングワン揺れるからやめろ。
ルクスは上空を指差していた。そして急かす様に私にそれを見せようとしている。というか、なんかビックリしてる。
「ランキング……?」
ルクスの指先の向こうに視線を向けると、上空のウインドウの内容が先程と切り替わっていた。
どうやら達成したクエストの結果を全参加者でランキングしているようだ。
「瞬間ダメージ量ランキング」でホズレット。「総与ダメージ量」でゴルディーク。「総被ダメージ量」でセーヴェン。「回復支援」でルケリアがそれぞれランクインしているのが目に入った。
オマケに「最速脱落ランキング」なんてものもある。
これは最初に丘で奇襲をかけてきた敵だろうか。なんの成果も上げられず、陣営も敗北したとあれば他に達成クエストは無いだろうと思われる。
その救済だろう。微々たるものだが、報酬がもらえるらしい。
その中で、ふと目に飛び込んできたランキングがあった。
『ジャイアントキリングランキング』
1位・ミケ(LV16)→ルルド(LV68)
2位・ベリオン(LV48)→ヘルゲート(LV65)
3位・ベリオン(LV48)→デモニド(LV63)
「……私だ」
その結果に、私は憮然と余裕の表情で佇んでいた。
……いや、ホントは動揺して固まってただけだ。え? マジ!?
ルルドってアレだよね。あのダークルーラーの。
そういえば炎の中に投げ込んだのは私だけどさ。アンデッドの放った魔法での自滅に近いと思うんだけど、私がやった事になってるんだ。
52レベル差……。
周りがザワついてそのランキング1位のミケを探して辺りを見回しているようだ。
やがて装備品を見てか、周囲の視線が刺さる様に私に向いてくる。こっち見んな。
手元のウインドウに視線を移す。
ジャイアントキリングボーナスは50レベル差以上で最高難度の報酬だって。私最高難度取った。
「……ジャイアントキリングで最高難度クリアしたのって、多分ミケが初めてだと思う」
ルクスは頬を指先で掻きながら、苦笑いを浮かべてこっちを見ていた。
50レベル差なんて普通まず絶対に勝てないのだそう。まぁ、ステータスで見れば象とアリの戦いだしね。
ギリギリ戦いになりそうなのは10~20レベル差までと考えられているらしい。
ちなみにそのルルドはアンデッドによる殺戮劇で、「討伐数ランキング」堂々の第1位となっていた。
ランキングに入った事でさらに報酬が追加されていた。
あと、クエストの最高難度の報酬はアイテムのようだ。何なのかは後で見ておこう。
一通りクエストの結果に目を通し終えた頃。
嬉しそうに私の背中をバシバシ叩いていたルクスだったが、やがてそれに飽きたのかウインドウを閉じてどこかへ歩き始めた。
つられてその背中を目で追う。
「ちょっと行ってくるよ」
ふと気になってじっと眺めていた私に、ルクスはニッと笑って手を振って応えてくれた。
その仕草が少し気になったが、私はそれを見送った。
ちょっとやる事があったので手元のウインドウに目を落とした。どうしてもすぐに調べておきたい操作があったからだ。
そうしてウインドウに指が触れようとして、「領主就任ボーナス」の項目が目に止まった。
そんな時、突然上がった声に私は顔を上げた。
「決闘狂! オレと勝負しろ!」
次回投稿は22日午後8時予定です。
次回、今章ラストバトル。
第41話『決闘狂』