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ミケのオンラインリハビリテーション  作者: 白ネコ扇子
第4章・侵攻クエスト 剣戟の攻城戦
39/87

39・侵攻クエスト終了

「フンッ! 有象無象がゾロゾロ湧いて来おって」


 大矛を肩に担ぎ、口ではそう言いつつもデモニドは愉快そうに笑っていた。


「ギャラリーは多い方が燃えるだろ」


 そのデモニドの前に立ったのは銀色の鎧をまとった魔人族の男。見上げる程の巨体相手でも変わらず嘲る様な視線で見据えていた。


「ほう。まだまだ元気そうなのがおるではないか」


 白い顎髭を触りながら、目の前に現れた男を見下ろすデモニド。


「あれだけチグハグなソロ共がいりゃあ誰の差し金かくらい察しが付く。この拠点の重要性を理解してりゃ、恐らく自分が死んだ後にもデカい策も用意してるだろうと踏んだのさ。ビンゴだったって訳だ」


 それを聞いてデモニドは肩に担いだ大矛をわずかに浮かべ、ニヤリと口角を上げた。


「聞いた事があるぜ。バカみたいにでけぇ矛を使うジジイ1人が、領主だけじゃなく周りの敵兵もことごとく皆殺しにした……なんてホラ話をな。笑えるだろ? なぁ、闘将・デモニド」


「ガハハッ! ワシを知っとるのか! こそばゆい呼び名だが、悪くなかろう? ワシも聞いた覚えがあるぞ。近頃弱い者イジメで無敗とウソぶいているという小僧の噂をな。決闘狂などと呼ばれ、自分が強いと勘違いしているだけのたわけ者よ!」


 地響きの様な声で威圧しながら、デモニドは大矛の刃を後ろに引き下げ、両手で柄を握り構えた。


「ハッ。確かに俺の相手がザコばかりだったのは間違いねぇ。それはこれまでも、これからもだ。だがせめて……」


 目を剥いて口元を歪める男、ベリオン。


「テメェは期待外れじゃねえ事を願うぜ」


 2人の剣戟がぶつかり合った。


 この2人の闘いが、この戦場の決着を左右する。

 70レベル台で同じダークナイトのセーヴェンもいたが、既に満身創痍。大剣は切っ先が折れ、鎧も大破し片腕も無い。

 装備頼りで他にスキルの乏しいダークナイトではもう満足に力を発揮できなくなっていた。

 さらに、素のプレイヤースキルがものを言うのがダークナイトの特徴でもある。技量の低いセーヴェンでは恐らく相手にもならないだろう。


 そして、それ以外の私達の誰もがレベル差でデモニドに太刀打ちできる者は存在しなかった。

 故にレベル差、技巧、そして余力でギリギリデモニドと戦えるのは、ベリオンただひとりだった。もし、ベリオンが敗れたならば、私達はデモニド1人に皆殺しにされる事になるのだ。

 私達にできる事は、この一騎討ちを決して邪魔させない事だけだった。



 ノコギリ状の剣と山の様な大矛がぶつかり合う。

 2本の刃で巧みに大矛を受け流すベリオン。


「今のを受け流すとはやるではないか! 小僧!」


「ぬる過ぎてあくびが出らぁ!」


 そのまま二刀流で無数の斬撃をデモニドに刻んでいくベリオン。


 だがデモニドは全身を斬られながらも強引に突破し、再び大矛をベリオン目掛けて振り回している。

 強引なだけではない。鎧の関節部や兜の隙間などの弱所は的確に避けている。的確というより、野生の勘とも思えるその対応力がデモニドの強さを示していた。

 無双の破壊力と怒濤の連撃を繰り出すその姿は、まとった鎧の獣じみた外観もあって暴れ狂う怪獣そのものだった。


「どうした小僧! そんなものか!!」


 上段からの一撃を、ベリオンは交差させた剣で受け止めた。地鳴りの様な衝撃が周りにも伝わってくる。


「ククッ。悪くねぇ。待ってて正解だったぜ!」


 ベリオンは大矛と鍔迫り合いをしている双剣に魔法を込めると、大矛を捌いて一気に距離を詰めた。


「ガハハ! 面白い! こんな地の果てまで来た甲斐があったわ! おかげで退屈せずに済んだぞ!」


 ベリオンの魔法剣を大矛の柄で受けるデモニド。途端に2人を中心に爆炎が迸る。

 その熱量、その迫力、暴風の様な剣技と目に追えない攻防。周りでは敵味方入り乱れる混戦が繰り広げられているにも関わらず、この聖域に踏み入れようという者は誰ひとりいなかった。



「ヒュ~! すげぇ……!」


「ルクス。よそ見しない」


 それでも飛んできた矢を回避しながら、ルクスはお返しにと矢を射ち返す。その矢は吸い込まれる様に弓を構えた敵の眉間に突き刺さった。

 倒れたその仲間を踏み越えて敵が押し寄せてくる。


「スピリット。フォース。ビルド」


 剣に持ち替えて敵の斧を斬りつけ、力任せに弾き飛ばすルクス。

 私はその支援に専念している。膝のダメージが完治していない為だ。回復量が少ない龍人族はこういう時後手に回ってしまう。

 それとスタミナ値も半分を切り、動きが鈍くなってきていたのもある。なので今は地面に座って回復を待っている状態だ。


 態勢を崩した敵をルクスは返す刃で斬り伏せた。

 その威力に勢い余って地面に叩きつけられる敵。筋力特化のウェポンアタッカーであるルクス相手に、格下の敵は紙切れの様に吹き飛んでいく。


「おっしゃー!」


 肩に一撃を受けながらも、ルクスは敵を倒した。


「ヒール」


「サンキュ!」


 すぐさま回復魔法をかけてダメージを癒す。なんとか私の弱い魔法でも対応できる範囲内に収まっているのはルクスの技量だ。

 敵を上手く引き付け、フェイントを組み込みながら攻撃を入れていく。距離を取る敵にも隙を見ては弓で牽制していた。

 数で押す敵に被弾を最小限に抑え、その上で私に通さない様に的確に動いている。私を庇う為にあえて被弾する事もあるが、たった1人でルクスは互角以上に渡り合っていた。


「ライトニングボルト」


 私はそれを魔法で補い、敵を邪魔する。


「今のは危なかったぁ~。助かったぜ。ミケ 」


 振り返ったルクスに私は視線で応えた。


 攻撃を受けて転がる敵。それでもすぐに回復して蘇ってくる。

 こちらは既にアイテムもMPもほぼ枯渇している状態だ。


 複数の敵から全身に魔法の爆撃を浴びせられながら、それでも前に出て大剣を振るうセーヴェン。

 既にMPも尽き、手にした杖で応戦しているルケリア。

 他の味方ももう余力は無い。1人、また1人と脱落し、光と消えていく。

 それでも、レベルが高いメンバーが多いおかげでギリギリ拮抗している状態だ。戦いながら、全員が中心の2人の戦いを見守っていた。


 侵攻クエスト終了まで、残り5分を切った。



「どっせあああッ!!」


 デモニドの繰り出した力任せの打ち下ろしに弾き飛ばされ、しかしベリオンは直前に地面を蹴って衝撃を殺した。

 それでもその凄まじい威力に大きく後ろへ吹き飛ばされる。


「ラセレイト」


 着地した瞬間、ベリオンは剣を引き下げ、魔法剣を行使した。剣の射程を伸ばし、その軌道上の全てを両断する遠距離攻撃。

 そしてデモニドがそれを認識した瞬間、既に剣は振るわれていた。


「かゆいな!」


 それをものともせず、デモニドは腹部に斬撃を受けながら前進した。そのまま距離を詰め、斜め下から大矛を斬り上げようとしたその時。


 何かがデモニドの兜を打った。


「む?」


 激しい金属音が兜の中に響き渡り、耳をつんざく。

 何かの飛来物。再度飛んできたそれを、デモニドは反射的に打ち返した。そしてその正体を看破した。


「ビュートブリンガーか!」


 未だ大矛の射程外にいるベリオン。それより遥かに短い長剣であるはずが、その形状は大きく変化していた。

 カギ爪状の刃ひとつひとつが分離し、それぞれが細いワイヤーで繋がれた鞭の様に蠢いている。

 その射程は大矛を遥かに上回っていた。

 ベリオンが腕を振るい、2本の刃の鞭は再び大きな軌道を描きながらデモニドに襲いかかった。

 それを防ごうとした大矛をすり抜け、デモニドの周囲を取り囲む様に刃が空中を旋回する。

 その様はまるで獲物に食らいつこうとする2匹の巨大なムカデの様だった。


「ハンドレッドナイヴズ」


 その取り囲むムカデの足一本一本が、一斉に中心にいるデモニドに向けて魔法の刃を乱射した。

 全方位から射出される無数の散弾がデモニドを穿った。撃ち漏らした刃が地面を弾き、雨音の様に一斉に響き渡る。

 刃のひとつでも軽い威力ではない。それが全身を切り裂き、抉り取っていく。

 並の相手ならば食べ終えたリンゴの芯の様に全身を削り殺されていたはずだ。


「くっ! 目眩ましか!」


 デモニドは大矛を薙ぎ払うと刃の雨を全て弾き飛ばしてその巨体を現した。

 鎧に少々の引っ掻き傷が認められるものの、ダメージはほとんど無い。


 しかし、デモニドは一瞬だが視界を奪われていた。


 その首筋にノコギリ状の刃がぶつかり、一気に駆け抜けた。


「そこかぁッ!」


 刃は首を守る鎧に防がれ、激しく火花を散らすに終わった。

 反対にデモニドはニヤリと笑みを浮かべ、刃の向こうにいるはずのベリオンに向けて大矛を振りかぶった。

 渾身の一撃。

 この戦いに決着を付けるべく放った一振り。デモニドは一足早く歓喜に表情を歪めた。


 その時だった。


「がぁあッ!?」


 ガラスの割れる様な音と共に、大矛を握る指が長剣に戻された刃に突き抜かれていた。

 目に飛び込んできた信じ難い事実に、別の意味で表情が歪む。


 ベリオンが刃を捻り、振り抜く。

 バラバラと辺りに指が散らばり、主を失った大矛が鈍い音を立てながら夜空へ飛んでいった。


「ぐぉお……! やりおる……ッ!」


 デモニドが指を失った手を庇ったその瞬間。

 銀色の具足がデモニドの肩に飛び乗ってきた。

 蹴りつける様に着地した足の、その先をデモニドは見上げた。


 それが、決着の合図となった。


 刹那、兜の顔の隙間に刃が滑り込んだ。

 刃はデモニドの顔面を貫き、首を通じて胴体の奥深くまで貫通した。

 そうなる間際、デモニドは自らを見下ろす視線と交差していた。先程までは見下ろしていたはずの瞳。


「ぎ、ぎざま……!」


 デモニドは顔に生える刃を掴み、回らない呂律を必死に動かす。腕力で強引に引き抜こうとした。

 だが、見下ろす視線は酷薄な笑みにさらに歪んだ。


「ブルーエッジ」


 ベリオンが唱えた魔法により、剣から青い炎が迸った。

 バーナーの様に一直線に突き進む激しい炎は、防御力の低い体内からデモニドを溶断していく。

 鎧の隙間という隙間から青白く輝く炎が吹き出る。そのダメージで、指の無い手が空中をギクシャクと引っ掻いていた。


「期待外れじゃなかったぜ。だが、俺の相手にゃ10年早かったな。ジジイ」


 ベリオンがさらにもう1振りの剣を顔面に振り下ろすと、迸る炎がよりその激しさを強めた。

 炎がデモニドの全身を包み、地面をも焼き尽くしていく。デモニドは炎で焼けただれた腕を伸ばし、敵の剣を握る手に爪を立てようとした。

 だが、それを見下ろす相手は酷薄な笑みを浮かべ、その刃を捻った。


「うがあぁあああああああ……ッ!!」


 耳を穿つ様な咆哮を最後に、デモニドは光の粒となって弾け飛んだ。



『デモニドが倒され、ベリオンに領主権が移行しました』



 そのアナウンスが流れると同時に、侵攻クエスト終了を告げる鐘の音が響き渡った。

 次回投稿は15日午後8時予定です。


 『キングダム』を読みながら「うわー! スゲー! やべー!(語彙力)」って思いながら鎧を妄想してました。

 怪獣やん、あれ。


 最近、ユーチューブで「【物理エンジン】キングダム、王騎の巨大矛の威力を検証」という動画を観たんですが、王騎は


「長さ4メートル、質量30キログラムの矛をマッハ3で振り、420トンの衝撃を与える事ができる」


んだそうな。

 すごいですね。


 次回、第40話『リザルト』


 お楽しみに!

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