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ミケのオンラインリハビリテーション  作者: 白ネコ扇子
第4章・侵攻クエスト 剣戟の攻城戦
33/87

33・ダークルーラー

 私達は二の曲輪にたどり着いた。


 こちらの味方は散り散りになって戦っているようだ。少数精鋭とはいえ、ゴルディークのパーティ3人とべリオンが10人程の敵に囲まれながら抵抗していた。


「ウオオオオオオッ!!」


 ゴルディークが剣を振り上げ、目の前の大剣使いの男に斬りかかった。

 男はそれを受け止めると、力任せに大剣を薙ぎ払い押し返した。


「やっぱり、いくらソードブレイカーでもレベル60じゃ力不足か」


『ソードブレイカー』

 ウェポンアタッカーの上位職。

 物理攻撃に強いウェポンアタッカーから、必殺技により特化した職業だ。

 攻撃力のさらなる向上や必殺技を強化するスキルを揃えている。


 口ではそう言いつつも、まだ余裕を含んだ様子を見せていた。


「力任せな攻撃では俺は降せんぞ。だが、こちらも押しきれん。大したものだ」


「それはありがとさん。だけど、このままじゃじり貧なんでね。もう少し削らせてもらうぜ!」


 敵ソードブレイカーの体から赤い闘気が迸った。


「獣身覚醒ッ!!」


 髪が逆立ち、顔を灰色の体毛が覆い始める。獣の耳が伸び、口が前方に突き出ていく。その口元からは鋭い牙が覗いた。

 現れたのはおとぎ話に出てくる様な狼男。

 一回り大きくなった体と獣の顔でソードブレイカーは言葉を発した。


「じゃあ、胸を借りるぜ。重腕のゴルディーク!」



「アイツ、今レベル60って言ったよな」


 離れた場所で様子を見ていた私達。

 スフィアルが口を開いた。


 ゴルディーク達の向こう。下を望む切岸の端にダークルーラーはいた。

 ひとり、足下の様子に笑いながら。笑い声に合わせて髑髏の口がケラケラと上下していた。


「……おい、ウソだろ。この地形。まさかとは思うが、嫌な予感がする……!」


 ダークルーラーはひとしきり楽しんだ後、両手を広げ足下に巨大な黒い魔法陣を展開した。

 遠く離れた私達の居る場所をも飲み込むくらいの大きさ。次々と幾何学模様が足下を通り過ぎていく。

 そして、いくつかの小さな魔法陣が宙に浮き上がりダークルーラーを中心に衛星の様に公転を始める。

 やがてそれが一直線に整列した直後、ダークルーラーは魔法を唱えた。


「リベリオンアンデッド!」


 瞬間、この巨大な魔法陣は拡散し、大地を覆い尽くした。やがて地面に溶け込む様に消えていく。


「野郎……本当に遊んでやがった……ッ!!」


 スフィアルが歯を食いしばりながら声を震わせた。


「どういう……」


 私が尋ねようとしたら、突然目の前にいくつかの影が起き上がった。

 その場には誰も居なかったはず。

 だけど、確かにプレイヤーの姿をしている。


「ぬんっ!!」


 それが動き出す前にベイブが大剣で叩き伏せた。


「反魂の魔法だ……!」


 起き上がった影は死人だった。

 この戦闘で倒れていったプレイヤー達が起き上がり、その場に立ち塞がってきたのだ。


 今ダークルーラーが行使した魔法は、この戦闘で死んだプレイヤーをアンデッドとして蘇らせる魔法。

 蘇ったといっても、本当のプレイヤーではない。プレイヤーと同じ姿をしたモンスターだ。行動は単純なモンスター同様。

 だが、そのステータスは死んだ本人と全く同じなのだ。


 それが、死んだ数だけ蘇った。


 確か、先程の戦闘で私達は20人強の敵を倒した。

 私達も23人が倒れていった。今、あれから更に損害を受けている。

 血の気が引くのを感じた。


 下から悲鳴が上がった。


「やっぱりか。クソ!」


「スフィアル。落ちいて」


 悪態をついたスフィアルを叱咤するリラ。

 でも、その目には不安が一杯に浮かんでいた。


 やっぱり、というのはペインの時と同様なのだろう。恐らくリベリオンアンデッドも本来効果範囲はこれ程広くないのだ。

 だが、これは三の曲輪全体とその下の方にまで及んでいる。

 一体どれだけの時間と労力をこの2つの魔法に注ぎ込んだのか。ニヤニヤと笑みを浮かべながら研鑽を積む姿を想像し、その性格のネジ曲がりっぷりに私も心の中で悪態をついた。


「グオオッ!」


 私達がまだ行動前のアンデッドを攻撃していると、真横にゴルディークが吹き飛ばされてきた。


 私達が反射的にそれを目で追うと次の瞬間、ベイブが弾き飛ばされ地面に転がった。


「お前達。離れていろ!」


 ゴルディークが叫ぶと同時に、赤い闘気をまとった大剣がゴルディークのオートシールドを突き破った。


「ブーステッド……バンカーアアアッ!!」


 狼男と化したソードブレイカーが銃弾の様な速度でぶつかり、その大剣がゴルディークの腕ごと装甲を破壊した。その衝撃だけで地面が爆ぜ、破片が火花を散らす。

 剣先はゴルディークの肩口に深々と突き刺さっていた。


「……自慢の重腕……ぶっ壊してやったぜ……」


 そう呟いたソードブレイカーの首を、青白い刃が貫いていた。


 ゴルディークが剣を引き抜くと、ソードブレイカーはゆっくりと崩れ落ち、光の粒となって消えていった。


「見事」


 ゴルディークはそれを見つめながら賞賛の言葉を贈った。


 不意に、ゴルディークの側に黒い球が飛び出してきた。

 私はとっさに跳び、それを手甲で払い退けた。


 いつの間にかダークルーラーの髑髏顔がこちらに向き直っていた。

 先程まで空を逃げ回る鳥人族を黒い球で執拗に追い回していたダークルーラー。

 ペインの効果でパニックを起こしていたのもあり、ついに全ての鳥人族が崖下に消えていった。


 私達とダークルーラーの間を遮る者はもう誰も居ない。どうやら今のソードブレイカーが最後の壁だったらしい。


「すまない。油断をしていた」


 ゴルディークが私に声をかけてきた。

 私は親指を立てて応えた。お互いダークルーラーから目を離さずに。


「……回復魔法が使える者はいるか? 右腕が動かん」


「は、はい! 私、使えます!」


 ゴルディークの右腕は力なく垂れ下がっていた。あれだけ重厚だった鎧は見る影もなく砕け、無事な箇所が見当たらない。

 しかし、手だけは剣を放さずに握り締められていた。

 すぐにリラが回復魔法をかけて治療すると、幾分は動く様になったようだ。


「助かる。ヤツを倒すのに協力してくれ。どうやらひとりでは荷が重いようだ」


 ゴルディークはダークルーラーを見据えながら唸り声を上げた。

 既に満身創痍、それにヤツは恐らく対人特化の魔法をまだまだ隠し持っている。

 いくら盾となる人員が居ないとは言え、単純な力押しで戦える相手とは思えない。まだまだいくつも手札を隠しているだろう。


「部隊長。作戦はあるのか?」


 スフィアルが手短に訊ねた。


「囮を頼む。俺が斬る」


 ゴルディークもそれだけ答えた。


「わかった。ベイブ。ミケ」


 スフィアルがベイブと私の名を呼ぶと同時に、私達は一気に飛び出した。

 既に立ち上がっていたベイブも同時に、左右から挟み撃ちにして距離を詰める。


「ホッホッホッ。甘い」


 カラカラとした声を上げてダークルーラーは指を鳴らす。

 その瞬間私達は斥力場に弾かれて接近に失敗した。


 地面を踏みしめ衝撃に耐えるが、目の前を黒い球が埋め尽くしていた。

 既にペインの効果は消え失せてはいるが、重い衝撃で前進できない。


「ピアッシングサンダー!」


 スフィアルが一直線に貫く雷撃を放つ。


「それも届かない」


 ダークルーラーが手をかざすと、掌に魔法陣が現れて雷撃を喰い尽くした。


「スペルイーター!?」


 相手の魔法を吸収し自らのMPに変換する魔法。


「そら、お返しだよ。ポイズンミストだ」


 ダークルーラーが両手を大袈裟に広げると、紫色の毒々しい煙が立ち込める。

 近くにいた私とベイブはそれに巻き込まれた。

 わずかに体が重くなり、にわかにHPが減少し始める。毒のバッドステータスを受けたらしい。

 それより視界を奪われた。黒い球が見えない。

 突然、煙を突き破ってきた黒い球に顔面を撃ち抜かれた。


「くっ」


 私は顔を振ってブレた視界を直す。


「サンライトフィールド!」


 リラが杖を掲げると、周囲を温かな光で照らした。すると一帯から煙が消えていく。

 敵の魔法効果を打ち消す浄化魔法だ。


 しかし、晴れた煙の中にダークルーラーの姿は無かった。


「ここだよ。お嬢さん」


 それは優しく、そっとリラの肩に手を置いた。姿を眩ます魔法でも使ったのか、そこに現れるまで誰も認識できなかった。

 リラのすぐ後ろにダークルーラーの姿はあった。


「マジックドレイン」


「あ!」


 リラの息を飲む音と同時に、リラのMPが全て吸い取られてしまった。


「低レベルとは言え、聖属性魔法は厄介だからね」


「この……うッ!」


 リラは杖を振りかざして抵抗を試みるも、ダークルーラーはその腕を取り後ろ手に締め上げる。

 ダークルーラーは満足気に笑い声を上げた。


「お前ッ! 手を離せ!!」


 スフィアルが魔法を放とうと手を向ける。


「くくくっ。ほうら。お姫様を助けてごらん」


 しかし、ダークルーラーはリラを突き放すと、蛇のごとく体をくねらせてそれを掻い潜った。

 そしてスフィアルの手を取り、その間合いに入り込む。


「魔法職でもこの程度の嗜みはしておかないとねぇ」


「な……!? うぐ!?」


 ダークルーラーはスフィアルの驚愕に見開かれた瞳を覗き込むと、その腹に銀色の爪を突き立てた。

 くの字になり倒れるスフィアル。

 ただの突きではない。装備していた爪に麻痺のバッドステータスを与える効果を持たせていたようだ。

 既にリラも倒れ、動けなくなっていた。


「さぁて……グレイトフルグラビトン!」


 ダークルーラーはそう叫ぶと、背後に手を向けた。


「グオアアッ!!」


 そこにはゴルディークが叩き潰され、地面にへばり付いていた。

 剣を振りかざしたまま突然地面に激突し、起き上がれずにいた。まるで何かに押さえつけられているかの様に。

 上級重力魔法。それによってミシミシと音を立ててゴルディークの装備に亀裂が走っていく。


「ゴルディークゥ~。お前の名前はよく聞くよ。侵攻クエストじゃあすっごく有名なんだってねぇ。じゃあさ、これで終わりって事はないんだろう? くくくっ」


 ギリギリと歯噛みしながら、視線だけを上に向ける事しかできないゴルディーク。

 対称的にダークルーラーはゴルディークの側にしゃがむと、その顔を覗き込ん

でうきうきと楽しげに話しかけた。


「……おおおッ!!」


 黒い球を押し退けたベイブが大剣で斬りかかる。


「……元気だねぇ。でも、見え見えだよ」


 ダークルーラーが掌で空をなぞると、黒い閃光が迸る。

 それは打ち返そうとしたベイブの大剣をすり抜け、鎧も無視して直接体と両脚を貫いていった。なす術なく地面に転がるベイブ。


「それと君も」


 気配を殺し、地を這う様に駆けていた私にも黒い閃光が襲いかかった。

 黒い閃光は私の左腕を切り裂き、左腕のHPが全損。感覚が消失する。


 だが、私は構わずダークルーラーのどてっ腹に右の拳を叩き込んだ。


「……これは予想外。でも、非力だね。レベル差かな? こんな低レベルで生き残ってるなんて。運が良いんだねぇ君」


 ゴムの塊でも殴ったみたいな感触だ。

 相手は魔法職であるが、圧倒的なレベル差のせいでこちらの攻撃は全く通じていない。


「お前……覚悟しろ」


 だけど関係ない。私はだらりと垂れ下がった左腕を前へ出し、右手を引いてすぐに構え直した。


「これはこれは、お待たせして申し訳ないねぇ。そんな可愛らしいナリでまた随分と健気な事。くくくっ。

 でも、その貧相な体びッ!?」


 ゴチャゴチャ喋っている髑髏の股間を蹴り上げ、続けざまに仮面の口に右手を突っ込んで黙らせる。


「プリズムアロー!」


 魔人族は闇属性の値が高い。代わりに聖属性は極めて低く設定されている。その上闇属性に強く偏るダークルーラーなら聖属性はさらに低い。

 私はその口内にありったけの聖属性の矢を撃ち込んでやった。


「ごぉええッ!? ……なんだ!? プリズムアロー!? 格闘職じゃないのかッ!?」


 ダークルーラーは私から距離を取ると、えづきながら叫んだ。

 先程までの余裕はどこへやら。仮面の隙間から煙を吹いている姿は些かマヌケだった。


「さっさと構えろ」


 私は拳を向けると、ダークルーラーが態勢を直すのを待った。


「……フフッ。いいね、君。頑張ったけど、詰みだ」


 ダークルーラーがそう言い終える前に私は拳を突き出した。


 だが、目の前で視界が突然反転した。

 足が地面を離れ、手足が宙をさ迷うう。私は空中で逆さ吊りにされていた。


「リバースグラビティ」


 重力を逆転させる魔法。

 チッチッと指を左右に振りながら笑うダークルーラー。


「ふぅ。少し驚いたけど、もう打ち止めかな? みんな倒れてしまったようだけど」


 ダークルーラーは私の顔を覗き込むと、満足気に笑った。

 既にベイブとスフィアルは倒れ、私とゴルディークも動けない状態に陥っていた。

 リラもMPが枯渇し、さらに麻痺している。


 ダークルーラーは勝利を確信したのか、またケラケラと笑い声を上げながら周囲を見渡した。



 だが、既に立ち上がっていたリラの姿がそこにあった。



 側に落ちた麻痺治療薬のアンプルが転がる音が、静かな闇夜に響いた。

 ダークルーラーはそれを見つけると、大きく息を飲んだ。


 私は基本的にいつもソロだ。

 魔法職としてはMPも少ない上、バッドステータスを回復できる魔法もまだ覚えられるレベルにない。

 故に、治療薬は一通り常備していた。


 だから、余っていた麻痺治療薬でリラを回復させたのだ。

 最後の拳は攻撃ではない。そう見せかけただけだ。

 私はニヤリと笑みが浮かぶのを感じた。


「しまっ……ッ!!」


 リラは腰のMPポーションのアンプルを折った。



「サンライトフィールドッ!!」



 咄嗟にダークルーラーがリラの首を掴む。

 だが、それより一瞬早く辺りを温かな光が包み込んだ。


 刹那、ダークルーラーが振り返るより早く、刃がその身を貫いていた。


「ガアアアアアッ!!!」


「ゴ……ルディークゥウウウ……ッ!!!」


 砕けた鎧の破片をばら撒きながら、ゴルディークはその両手で握った剣を突き刺した。

 浄化魔法がゴルディークを重力の拘束から解き放ったのだ。

 その姿は猛獣が獲物を狩るがごとく、獰猛に、素早く、そして確実に相手を捉えていた。


「は、離れろ……ケダモノめ……ッ!!」


 ダークルーラーはゴルディークの胸元に手を添えると黒い閃光で胴を貫いた。

 だが、ゴルディークはその手を緩める事なく、逆にその首に喰らい付き牙を突き立てた。


「ここで殺すッ!!」


「ご……うぉ! そっちこそ死んでしまえ……ッ!!」


 ダークルーラーはメチャクチャに魔法を乱射し、ゴルディークの体をズタズタに切り裂いていく。

 だが、その身に食い込んだ刃と牙はさらに深く抉り込んでいった。


「リ、リパルシブフォース……ッ!!」


 バリバリと音を立ててローブが裂ける。

 貫いた剣や牙がその身を引き裂いていったが、死に物狂いで斥力場を発生させてゴルディークを剥がす事に成功した。なりふり構っていられなかったのだろう。


 全身を穴だらけにされながらも、ゴルディークは意に介さずそれに追いすがる。

 リラはスフィアルとベイブの回復に当たってもらった。

 私はゴルディークを追った。


 ダークルーラーはヨロヨロと切岸の端まで逃げた。

 縁の土塁を背にもたれかかりながら、こちらに向き直った。

 そして、右腕を仰々しく広げて切岸の下を指し示した。


「……見るがいい。この光景。痛みと恐怖に慄いた人々が、私の掌で踊る様を。

 ククッ。たまらないね。意気揚々と戦意に満ち満ちた奴らがサッと表情を変えて縮こまるあの姿。

 ……好きなんだ。他者の体と心に痛みを与えるのが。どうにも性分でね。やめられない」


「……貴様がそういう役割を演じるならば、俺も遠慮なく斬ろう。ダークルーラー『嫌われ者のルルド』」


 ゴルディークはまっすぐ見据えながら剣を構えた。

 ダークルーラー、嫌われ者のルルドはケラケラと笑っていた。


「……さて、私を倒してもあの亡者の群れはあと1時間は勝手に動き続ける」


 ルルドは切岸の下へ視線を向けた。

 そこには多少数を減らしていたが、およそ30体程のアンデッドがこちらの軍勢を襲っていた。

 なんとか態勢を立て直してはいたものの、残っている味方は20人を切っている様に見える。


「できれば最後まで見届けたかったけど、まあいいや。最後に引導くらいは渡してあげようかな。数が多いから操りたい奴を見つけるのに時間がかかったよ」


 ルルドが指を鳴らす。すると切岸の下から円筒形に重なった魔法陣が空に立ち上がった。

 どうやらあのアンデッドは特定の個体を直接手動で操れるらしい。

 その魔法陣で構成された砲身を見て、ゴルディークは声を上げた。


「ホズレット……!」


 三の曲輪で倒れたゴルディークのパーティメンバーだ。

 そして、あの砲身はホズレットが行使できる最大火力の攻撃魔法「タワー オブ クリメイション」。


 その矛先は、まっすぐここを狙っていた。


「私と共に死んでくれ。……ゴルディークッ!!」


 魔法陣から火花が激しく迸り始める。



「お前。少し反省しろ」



「え?」


 距離を詰めた私はルルドの襟首を掴んだ。


 いつ接近されたか気付いていなかったのか、ルルドは気の抜けた声を漏らした。

 私はそのまま足を払うと、切岸からルルドを放り投げた。


 次の瞬間、炎の柱が夜空を貫いた。

 あっという間に空を赤く焦がし、膨大な熱量が離れた位置にいた私の髪を焼いていく。

 炎が凄まじい衝撃波を伴って通り過ぎ、私は遥か後方に吹き飛ばされた。


 そして、その大火は空を舞うルルドを飲み込んだ。


「……やっぱり、いいね。君……」


 それだけ言い残すと、ルルドは光の粒となって夜空に消えていった。


「ふん……」


 まったく。反省する気はなさそうだ。

 それでも、少し気は晴れた。

 性根の曲がり切ったヤツだったけど、ある意味自分の信念にはまっすぐなヤツだった。そこだけは、ちょっと尊敬する。


「無事か?」


 ゴルディークがこちらに歩いてきた。向こうも無事のようだ。ボロボロの満身創痍だけど。


 最後、私がルルドを投げ飛ばしたせいで魔法の照準が定まり切っていなかったのだろう。炎の柱は切岸から少し離れた上空に放たれていた。

 もう少しずれていたら私達も黒焦げだったかも知れない。


 ゴルディークが地面に転がった私に手を差し伸べてきた。


「君は……コーヒーの」


 そこでゴルディークは私の事を思い出したようだった。

 私はその手を取って立ち上がった。


「あと少し。楽しんで勝とう」


 私はニッと笑った。

 私の言葉にゴルディークもわずかに笑って返してくれた。


「君は、勇敢な女性だ。頼りにしている」


 ゴルディークは振り返ると未だ仲間達が戦う戦場へと向かった。


「…………」


 え? 今、女性って言った?

 女の子でもチビでも、お嬢ちゃんでもなく。


 私は左腕に回復魔法をかけると、肩を大きく回しながら仲間達の下に向かった。

 きっと今、私はすっごく緩んだ顔をしているに違いない。

 次回投稿は4月3日午後8時予定です。


 敵役を書くのは少し難しいです。

 ただ、どんな性格にするにしても、1つ決して曲げない信念を持たせるとなんだか魅力が出る気がしますね。

 読んでいた漫画がヘルシングやエアマスターとか、敵が魅力的な作品ばかりだったおかげです。

 それに追い付けるくらいのものが書ける様になりたいものです。


 次回第34話『包囲』


 お楽しみに!


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