23・散歩
第5話と第6話を少し修正しました。
無駄な文を整理したので、少し読みやすくなったと思います。
展開に変更はありません。
龍人族の設定で「レベルアップに必要な経験値が他種族の2倍」を「戦闘で得られる経験値が他種族の半分」に修正しました。
「どうだね。気分は」
「い、痛い……です。うぐぐぐ……!」
私は今、車椅子に座っていた。
病院のスタッフ達に抱えられ、なんとか座面に着地できた。
入院してからベッドを出たのは初めてだ。
私の回復力には先生も首を傾げていた。
全身複雑骨折と内臓もいくつか損傷し、一時は命が危なかった時期もあったらしい。意識がなかったから記憶にはないんだけどさ。
今回、経過が順調なのと、私がヒマで死にそうだったので先生が特別に許可してくれた。
ただ、無茶は厳禁だ。様子見として試験的に外出する事が叶った。
もしかしたら、VRゲームで体を動かしていたのが回復に作用しているのかも知れない。先生はやんわりと否定していた。けど、可能性がない訳じゃないとは思っているそうだ。
まだ特に損傷が酷かった右腕と両脚が治っていないので、無茶はしようにもできない。私はギプスに包まれた右腕を動かしてみた。うん。無理。
「じゃ、行くか! 先生、コイツちょっと借りてくね」
と、車椅子のグリップを握るのは赤髪の同僚、リシアだ。相変わらずスーツを着崩しただらしない格好をしている。
また仕事をサボってお見舞いに来てくれた。
「で、どうよ? 経過は」
「うん。順調。先生もビックリしてた」
私達は病院に併設されている公園に来ていた。完全バリアフリーで車椅子でもスイスイ移動できる。途中、リシアはそこかしこにガンガンぶつけまくってたけど。
天気も良く絶好の日向ぼっこ日和。
噴水前のベンチにリシアは腰かけた。
「あ~、復帰はまだ遠いかぁ~。アンタがいないと仕事押し付けられる相手が減るから大変よ」
「……私以外にも迷惑かけてたんだ」
「失礼ね。ちゃんと後で飲みに連れてってあげてるわよ」
「……悲惨」
リシアはザルな上、逃がしてくれないからな。それにきっと相手に奢らせてるに違いない。誰か知らないが気の毒に。
ちょっと、やめろ。ギプスに「喧嘩上等」とか書くな。
「小腹が空いたわね。お、きたきた! こっちこっち!」
どこかに手を振っているリシア。
突然空腹をアピールすると、それに合わせた様に誰か来たみたいだ。
そちらに目を向けると、赤いポロシャツとキャップを被ったお兄さんが目に入った。何やら四角い箱をいくつも重ねて運んで来ている。
「毎度! ありがとうございます。トロ~リ美味しいピザーダヨ! ご注文のピザをお持ちしました」
「待~ってましたぁ! ほら、シェリル。アンタも食べるでしょ?」
コ、コイツ。病院にピザ注文しやがった。先生に見つかったら怒られるの私なんだけど。
「ありがと。これ代金ね。で、シェリル。もうシナリオクエストの1つや2つクリアしたんでしょ?」
リシアはピザ屋のお兄さんにお金を渡しながら、早速ピザを一切れ手に取った。ピザソースの香りが食欲をそそる。私にもくれ。
「うん。この前マクシミリアン砦跡をクリアした」
私も一切れ頬張る。少し焦げたチーズの香り。トマトの酸味とサラミの脂が口一杯に広がる。久し振りのジューシーな味わいに、私は感動でうち震えた。美味しい。
「へぇ。レイド結成できる程にはコミュニケーション能力を身に付けたか! お姉さんちょっと嬉しいよ」
チーズの糸を引きながら、リシアはニヤニヤ笑顔を浮かべた。
歳はそっちの方が1個上だけどさ。そういえば女性だったな。オッサンだと誤認する事がよくあるから忘れてた。
ちょっ。今度は「オジサン趣味」って書かれた。……反論できない。
「あれ? リシアさんもエクステンドオンラインやってるんですか? 奇遇ですね」
不意にピザ屋のお兄さんが会話に入ってきた。
「まーね~。トーマス君もなの?」
「あ、いや失礼。はい。俺もこの前マクシミリアン砦跡をクリアしたばかりなんですよ」
というか、リシア。知り合いなの?
私はリシアに視線を送る。
「リシア……」
「ん? あぁ。こっちはトーマス君。見ての通りピザ屋さんよ。で、こっちはシェリル。見ての通りケガ人よ」
おい。それじゃ私ただの包帯巻いた人じゃないか。ちゃんと同僚って説明してあげろ。
「初めまして。トーマス・メトリーです。リシアさんには毎度お世話になってます。今日は珍しく路駐じゃないんですね」
リシアお前。いつも仕事中車にピザ頼んでるのか。おい、笑ってごまかすな。
「シェリル・キア、です」
「喧嘩……したんですか?」
違うから。上等とか書いたのリシアだから。仕事での名誉の負傷だ。
物腰の柔らかい青年だ。背も高い。笑顔の爽やかないいピザ屋さん。帽子に隠れているけど、金色の髪は短く切り揃えてあって身だしなみにもマメに気を使っているのが窺える。私達と同世代かな。
「いつもは道路だから探すの大変なんですよ。この前もなんの目印もない空き地で競馬の中継聴いてるし……」
「それでもちゃんと届けてくれるトーマス君には大感謝よ。おかげでアタシはいつも美味しいピザが食べられる。ふふっ」
「……ありがとうございます」
リシアに関わると大変だよね。わかる。さすがトーマス君えらい。苦笑を抑えていたのは見逃しておこう。
ぎゃー。ギプスに「ピザ女」って書かれた。
「そうそう。お2人は一緒に冒険してらっしゃるんですか?」
「いいえ。こんなペーペーと一緒になんてやってらんないわよ」
やっぱりリシアもやってたんだ。っていうか、勧めておいてその言いぐさはないだろ。
「そうなんですか。俺はバイト先の仲間と始めたばかりで。俺が下手っぴなせいで何度足を引っ張ったやら。早く上手くなりたいものです」
トーマス君は苦笑しながら頭をかいた。
「そうなんだ。私も。まだわからない事がたくさんあって、いろんな人に教えてもらってる」
「君も始めたばかりなのかい。砦跡は大変だったでしょ。俺も何度も失敗してね。でも、今回募集で入った人のおかげでなんとか攻略できたんだ」
「私も……たくさんの人と一緒に協力したのは、初めて。みんなのおかげで楽しかった」
今まで完全にキワモノかゲテモノ扱いだったけど、今回少し認められた気がしたのが嬉しかった。
「うん。そうだね。これもオンラインゲームのいい所だよ。新しい出会いで学ぶ事もたくさんある。俺も、その人のおかげで常識に囚われない新しい可能性を見た気がするんだ」
トーマス君はどこかに想いを馳せているようだった。
新しい可能性か。私もこのゲームのおかげで得たものがあるのかな。
この怪我のおかげか。少し自分と向き合う機会ができた。
私は、もう負けたくないんだ。
私もこのゲームの世界で戦う事で、新しい強さを身に付けられるかも知れない。
この怪我をした時、今までの自分がとても無力に思えた。自分自身でも結構強い方だと自惚れていたのかも知れない。
でも、自分はまだまだ弱い。それを改めて思い知らされた。
だから、私はもっと強くなりたい。
警官としてみんなを守るにも、武道家として高みを目指すにも、私はもっともっと強くならなきゃいけないんだ。
強さの先に何があるのかはまだわからない。でも、今はもう少し足掻いてみよう。
「たかがゲームと言われればそれまでだけどね。でも、己が自身の肉体を駆使して戦う事で、リアルでは得られない何かを得る事ができると思うんだよ」
トーマス君も出会いによって自身の一歩に繋がる何かを見つけたのかな。
人によってそれは違うんだと思う。でも、みんなきっとそれを目指す事が新しい自分への一歩になっている。そう思う。
私もトーマス君の気持ちが少しわかる。今回のレイド結成で感じた一体感は今までの私にはなかったものだ。
私にとっては確かに新しい自分への一歩だった。
「トーマス君も、目指しているものがあるの?」
「俺かい? ……そうだね。あるよ」
ふと気になって訊ねてみた。
その瞳に強い意志を感じたからだ。もしかしたら、何かしらのヒントがあるかも知れないと思ったから。
きっと共感できる何かがあると思う。
「サムライさ!」
ごめん。やっぱわかんない。
「おっと、そろそろ行かないと。では、これからもピザーダヨをご贔屓に。ありがとうございます!」
トーマス君は礼をすると手を振って去っていった。
去り際、リシアに「妹さん。早く良くなるといいですね」って声をかけていったのがちょっと複雑だった。リシアは笑ってた。
私も唯一動く左手を振って見送った。
私がトーマス君と話していた間、終始沈黙を貫いていたリシアが目を細めてニヤニヤしていた。
「……なに?」
「よくしゃべる様になったな~と思って。前は相づちとイエス、ノーくらいしか言わなかったってのに」
「むぅ。そう……かな」
口下手なんだ。確かに以前は肉体言語が主だったと思う。必要以上言葉を話す事はあまりしなかった。
ずっと修業の旅で人と関わる事がなかったし。父はよくしゃべる人だったけど、私は聞く側に徹する事が多かったっけ。
「やっぱりアンタにエクステンドオンラインを勧めて正解だったわ。さすが私の着眼点は素晴らしいの一言に尽きるわね!」
悦に入ってるけど、お前ゲームのタイトルすら教えなかったよな。
「ん。ありがと」
とりあえず礼は言っておく。おかげで毎日楽しく体を動かしているよ。
「じゃ、アタシそろそろ行くわ。アンタも元気そうだったって報告しとくから。じゃね」
リシアはベンチから立ち上がると少し伸びをした。それから、まだたくさんあるピザの箱を抱えて去っていった。
1箱残してくれたのはリシアなりの優しさ……なのかな。ピザ、美味しい。
噴水を後ろに、私はひとりさんさんと降り注ぐ日光を堪能した。
今まで暗い病室に籠っていた分を取り戻す様に、外の空気を味わった。
いい天気なのに人がいない。まるでこの広い公園を私1人で貸し切っているみたいだ。
ゲームとは違ったいろんな匂いの混じった空気も、現実にて外へ出た事を実感させてくれた。
そして、私は動かない体でひとり取り残されたこの現状も実感していた。
あのバカ!! 1人で帰るな!!
ヤバいよ! こんな時に限って周りに誰もいないし。
まだ筋力の戻ってない左手1本ではとても自力で車椅子を動かす事は難しい。
やがて雲行きもあやしくなり、ポツリと雨が顔を打ってきた。
「あの……。君大丈夫?」
ちょっと泣きそうになってきた頃、ようやく誰かに声をかけられた。
「うぅん……。大丈夫じゃない。ぐすっ……」
そちらを向くとひとりの少年が立っていた。
勇気を振り絞って声をかけてきたのか、ちょっと距離が遠い。おずおずと差し出された手が宙を彷徨っている。
「えっと、とりあえず押そうか?」
私は頷いた。下を向いたら溜まっていた涙がこぼれた。リシアめ。この涙の代償は高くつくと思えよ。
「ずっと動かないからおかしいと思ったんだ」
私はこの少年に病院のロビーまで押してもらった。雨が弱い内になんとかなってよかった。
癖っ毛の黒髪に、背は多分私より少し高い。線の細い顔でちょっと可愛いかも。体つきも少し細い方だ。中学生くらいかな。黒のジャージを着ているせいで全身真っ黒だ。
こんな昼間に、とは思ったけどそういえば今日は休日だ。入院してると曜日の感覚が鈍くなってくる。
公園前を通った時に私がひとりでいるのを見かけたという。
その時は特に気に留めなかったけど、帰りしなに通った時も同じ様に座っていたから気になったそうだ。
「ありがと。助かった」
「いや、別にいいって。弟の見舞いのついでだし」
少年はぶっきらぼうにそう言った。
「部屋、どこ? 送ってってやるよ」
「いいの?」
「ついでのついでだし。気にすんな」
だけどなかなか良い子だ。というか、コレ完全に年下の女の子と思われてるな。
優しさがかえって私の自尊心を傷付けて少し複雑だ。
「にーちゃ~ん! 忘れ物ー!」
廊下の向こうから元気な声が響いてきた。
そちらに目を向けると、車椅子の男の子が手を振っていた。私と違って元気よく車輪を回してこっちに近付いてくる。
「いけね! わりぃ。助かった」
少年は車椅子の男の子から何やら受け取ると頭を撫でた。男の子はちょっとイヤそうだったけど。
まだ小学校に上がったくらいの年齢だ。この子が少年の弟みたいだ。
「うわ。ミイラ男だ!」
弟くんは私を指差すと、断定した。
「バカ、ちげーよ。ミイラ女だ」
違う。ミイラ違う。でも、私は少年に名乗ってない事に気付いた。
「……シェリル・キア。私の名前」
「おう。シェリルね。俺はマシュー・ラッド。で、こっちの元気なのが」
「ボクはジーン! よろしくね。シェリルお姉ちゃん」
ジーンが屈託のない笑顔を見せた。
ぐっ。可愛いじゃないか。小さな男の子が向ける笑顔は破壊力ヤバイ。デッドじゃないが、頭を撫でたい。むしろハグしたい。
顔に出すと嫌われかねないのでグッとこらえた。
私達は揃って私の病室に移動した。
ジーンの怪我はあと1週間もあれば退院できるそうだ。
木に登って降りれなくなった子猫を助けようとしたはいいものの、落下して足を骨折したらしい。子猫は無事だったとの事。
今はヒマ過ぎて自主的に病院中を動き回ってリハビリしているとの事。気持ちわかる。
「いつも言ってるだろ。もっと慎重に、周りを見て行動しろって」
「え~! めんどい~!」
「めんどいじゃない! まったく……」
マシューは頭を掻くとため息をついた。
元気すぎる弟にマシューはいつも苦労しているそうだ。私にも妹がいるけど、もうずいぶん会ってないな。
「いいな……」
ふと声に出してしまった。
「そうか? そこら中駆け回ったりよじ登ったりして大変だぞ? なあ?」
マシューはジーンの頭を揉みくちゃに撫でた。
「うわっ! 頭触んなよな! もう子供じゃないんだから!」
「そう言ってる内は子供だっての」
そう言いながらマシューは何故か私の頭に手を置いた。頭撫でんな。もう子供じゃないんだから。
「むぅ……」
「あ、わりぃ。クセで」
マシューはニシシと笑った。
最近、よく似たシチュエーションが多々あったからか、少し慣れてしまった自分がいる。
まぁ、相手がちょっと可愛い気の残る男の子なら悪い気はしない……かも。
私はまだ手の感触が残る頭を撫でた。
「子供じゃないし! ボク、にーちゃんがクローゼットの3段目の引き出しの裏に隠してある本だって読んだんだから!」
ジーンが車椅子から身を乗り出して抗議した。両手で体を浮かせながら。危ないぞ。
「おま……ッ!! ハァッ!? 何勝手……ハァッ!?」
マシューは顔色を変えると激しく狼狽した。
ほほう。どんな内容なのかは聞かないでおいてやろう。ただ、私はジーンに目を向けて頷くだけだ。
おっ。優秀な弟くんは察したのか親指を立てて頷いた。
「……え~っとね。たしか……ムグ!」
「ジーン! それ以上はダメだ。いいか? 明日プリン買ってきてやるから……ッ!! なッ!?」
マシューがジーンの口を押さえた。かなり必死だ。でも、返事を聞く為にすぐに放した。
さて、ジーン。
「3つ。今日、なら忘れてあげてもいいよ」
「くっ……!」
ジーンはなかなかいい性格をしている。私にとっては残念な結果になってしまったけどね。
決して興味がある訳ではないけれど? 警察官としてまだ若い内に変な趣味へと進まない様、指導しないといけないからね。それだけだよ。うん。
おっと。マシューが私の視線に気付いたようだ。
「ま、違っ、そういうんじゃないから……!」
うわすっごい焦ってる。私は元々ジト目だからな。悪い方に捉えられたと思ったらしい。
大丈夫。健全な若者ならば当たり前の事だと理解している。
私はニコリと微笑んだ。
「ニヤっとすんな! くっ…買ってくるから。ジーン、しゃべるなよ!」
ニヤっとじゃない。ニコリだ。自分の笑顔に自信がなくなりそうだよ。私悲しい。
真っ赤になってマシューは部屋から出ていった。
ジーンは元気に手を振って見送っていた。
「あんなにあわてるにーちゃん初めて見た。ふふふ」
「そうなの?」
「うん。いつもは『にひる』っていう、ニヤッて感じで笑ったり、おおげさな動きでなんかしたり。あ、アメの棒でタバコを吸ってるマネしたりとかもしてるよ」
うわー。なんか聞いちゃいけない事聞いちゃったな。それが似合う様になるにはいささか年齢が足りないな。20くらい。
「マシューって、14歳……?」
「すごい! シェリルお姉ちゃんよくわかったね! エスパーだ!」
エスパーじゃないけど、当たっちゃったよ。まぁ、この年頃ならよくある事だと思う。
私も当時は……いや、やめておこう。なまじ体が動いたせいで色々伝説を残した。とだけ言っておく。
「あ! これにーちゃんの部屋にもあるやつだ!」
と、VRギアを指差してジーンははしゃぎ出した。
「VRゲーム? そうなの?」
「うん! エクステンドオンライン!」
奇遇だな。リシアもやってるって言ってたし、人気のゲームなのかな。
「私もやってる。それ」
「ほんと!? にーちゃんのを見せてもらった事があるんだ。これをパソコンにつなぐとキャラを見たり、ちょっと変えたりできるんだよ」
そうなのか。ちょっと変えたりって何だろう。
そういえば、キャラクターメイクで設定した外見は多少いじれるらしい。多分それだ。
種族によって一部の部位のみ変更できるみたいだ。私なら龍人族だから角と鱗の色、あとタトゥの色なんかも替えられる。
瞳と髪、肌の色は全種族共通で替えられる。
髪の長さは課金しないとダメだったっけ。
試しにベッド脇の机にあるパソコンに映像端子を繋いで見よう。
お、ホントだ。出た。ミケだ。
ゲーム内で動かしている自分の姿を見る事ってあまりないからな。ちょっと新鮮。
「へぇ~。きれいだね。これがシェリルお姉ちゃん?」
「うん」
ちょっと照れくさい。自分でデザインしたキャラを見られるのはなんだかくすぐったいな。
「にーちゃんのキャラ、真っ黒いおじさんなんだよ。シェリルお姉ちゃんみたいにきれいなみどり色にすればいいのに」
ゲームではやっぱり渋いダンディに浸っているのか。リアルのマシューは細身で、どちらかというと可愛い顔をしてるからな……。
「買ってきたぞ!」
マシューが息を切らして扉にもたれかかっていた。思ってたより早かったな。
「しゃべってないだろうな!?」
「しゃべってないよ! 『仁と義を重んじる人間になれ』っていつもにーちゃん言ってるじゃん」
確かに大事な事だと思うけど、言葉のジャンルが偏ってる気がする。
「ねーねー! シェリルお姉ちゃんもにーちゃんと同じゲームやってるんだって! 見て見て!」
「それVRギアじゃん! マジで!?」
マシューは疲れを忘れた様に食い付いてきた。やっぱり同じ趣味の人間がいるのは嬉しいんだろう。
ジーンはこちらを向いている画面をマシューの方へ向けた。
「……何も映ってないぞ?」
どうやら画面を動かした拍子に映像端子が抜けてしまったようだ。真っ黒な画面にはそれを覗き込むマシューとジーンの顔だけが映っていた。
「えー? あれー?」
残念そうなジーン。
まぁ、私は同じゲームをやってる相手に自分のキャラを見せるのは少し恥ずかしかったので、これでもよかったかな。
「まぁ、しょうがないさ。ゲームの話は後でしようぜ。それよりアイス。ほら」
マシューは袋に入ったアイスを3つ取り出した。
「うん! やったー!」
ジーンはアイスを受け取ると、それぞれ私とマシューに差し出した。
「はい、にーちゃんとシェリルお姉ちゃんも! 一緒に食べよ!」
それから、私は利き腕が使えないのでマシューに食べさせてもらった。あーんして。お互い恥ずかしかった。
あとはみんなで冷めたピザを分け合ったりして、しばらくお話をした。
「またね~! シェリルお姉ちゃん!」
マシューに車イスを押されてジーンが部屋から出ていく。
「なぁ」
マシューが振り返った。
「ん」
「よかったらまたジーンの遊び相手になってやってくんないか? 見ての通り元気すぎるから、ヒマを持て余してるみたいでさ」
「わかった」
「サンキューな!」
マシューはまだ幼さの残る笑顔を見せると部屋を出ていった。
いいお兄ちゃんだ。
私も退屈で死にそうなのは同じだったしね。来てくれるのはたまに思い出した様に顔を見せるリシアくらいだ。
……そのリシアがようやく思い出したのか、隣の公園で私を探し慌てふためいているのが窓から見えた。
もう少し放っておこうと思った。
次回投稿は23日午後8時予定です。
これをご覧になったお兄さん、お姉さん。ご唱和下さい。
こんな弟いるワケねぇーーッ!!
はい。という訳で、第3章終了です。
次回から新章開始です。
再びボッチ旅のミケ。ちょっとだけ戦闘あります。
次回第24話『レツト平原』
お楽しみに!
……前回、何故か閲覧数が妙に伸びてたんですけど、一体何があったんでしょう?
初めて活動報告に更新情報を載せたから?
それとも、まさかあとがきの食レポのせいじゃないですよね……?