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ミケのオンラインリハビリテーション  作者: 白ネコ扇子
第3章・神聖王国 廃砦の足跡
22/87

22・居酒屋で祝勝会

「「「カンパーイ!!」」」


 私達は今、酒場の個室で祝勝会の真っ最中だ。



 マクシミリアン砦跡を発って、私達はアルテロンドの街に帰還した。

 ほんの数時間探索していただけなのに、もっとずっと一緒に冒険していたかの様に感じる。


 冒険者ギルドに向かうと、戦いの最中倒れていったメンバーに再会した。「ハードスケイル」の4人だ。偶然にも倒れたのはこのパーティのメンバーだけだった。

 リタイアしてしまった事を謝罪されたが、私達の攻略成功を祝福してくれた。


 その後アシンさんが今回得た情報、特にボス戦でのリフトの操作やドラゴンゾンビの行動パターンなど、攻略方法の手解きをしていた。

 アシンさんの方から次に活かしてほしい、と出来る限りの助力を申し出ていたくらいだ。

 攻略半ばで断念する気持ちは3度目の正直を成し遂げたアシンさんが一番わかっている。だからこそ仲間の成功を願う気持ちも人一倍強いんだろう。


 それと、彼らも打ち上げに参加してくれる事になった。最初は辞退していたが、アシンさんの強い要望に折れる形となった。意外と押しが強いようだ。




 酒場の個室に入ると、それぞれ適当に席に着いた。

 あ、これ東国風の個室だ。お座敷席っていうやつ。サムライルックのアシンさんらしいチョイスだ。畳だ。靴は脱ぐんだよ。おお、ザブト~ン。


「ミケさんはどれ頼む?」


 私の隣には弓使いのフォルマージが座った。

 するとすぐにメニューを私に見える様に広げてくれた。


 この個室は予約制で、インスタンスダンジョンと同様の仕組みになっている。

 なのでどれだけ騒いでも外の迷惑にならないし、誰かが間違って入ってくる事もない。


 他のみんなもそれぞれメニューを手に取り注文を始めていた。


「え……っと。ウイスキー。ロックで」


 私が注文すると、周りの空気が凍った。


「ミケさん。それは……もう少し大人になってから、ね?」


 フォルマージさん。そんな目で見ないで。悪い子を諭す様な毅然とした口調だ。凄く心にくるんだけど。


「あの……。私、20歳、です」


 私はおずおずとそう答えた。別に悪い事してる訳じゃないけど、なんか凄く言いづらかったのは何でだろう。


「ウソだろ!?」


「てっきり小、中学生くらいだとばかり……」


「確かにゲームだから外見で判断はできないけど……。やっぱり私もそのくらいかと……」


 悪かったな。20歳で。

 何故だ。見た目か? 仕草か? 言動か!? 慎ましくも悩ましい大人の女性を演出する為、クールで無口なキャラクターを演じていたというのに。いや、素だけどさ。


 ……それがかえって引っ込み思案な子供に見えていたらしい。くっ。


「じ、じゃあミケさんはウイスキー……ね。私は生ひとつ」


 フォルマージはバツが悪そうに注文を再開した。目を合わせてくれないんだけど。


 注文した瞬間、私達の前に料理が現れた。待ち時間無しで配膳される仕様はありがたい。


「え~。では、皆さん。マクシミリアン砦跡攻略、お疲れ様でした。ここに攻略成功を祝して、乾杯をしたいと思います」


 上座でアシンさんが立ち上がり、コップを手に挨拶を始めた。

 鎧を外し、着物姿になったアシンさんは足軽から……農民の出で立ちになっていた。どんだけ役を全うするんだ。この人は。


「よう。ちゃんと食ってるか? 育ち盛りなんだから、食わなきゃダメだぞ」


 私達が皆美味しい料理に舌鼓を打っていると、フォルマージの反対隣にドカッとデッドが座ってきた。

 話聞いてたのか?? 確かにまだ成長の余地はすっごくあるよ。ええ。成人してますけどね。


「アシンさんの方には行かなくてもいいの?」


「ああ、あっちはあっちで話したいだろうしな。」


 なんだ。またあぶれたのか。デッドもそろそろ一匹オオカミ(笑)気取るのやめたらいいのに。

 仕方ない。私が一肌脱いであげようじゃないか。


「ねぇ。デッド」


「ん? おお~い! みんな! 本日のMVP! 我らがにゃんこからみんなに一言あるってよー」


 なんだと!? おい! もう酔ってるのかこのオヤジ! 何言っちゃってんの!? やめて。私人前で話すの苦手なんだから! お前そんなんだからあぶれるんだよ! 腕を引っ張るな。……あぁ、立ち上がっちゃった。

 仕方ない。一発ビシッと決めてやろうじゃないか。


「……え、えぇ……。本日はお日柄も……よかった、です。あ、どうも、ありがとうでした、ござい。ミケです。成人してます」


 何言ってんの私?

 みんなそんな目でこっち見ないで。まるで初めてお使いに行った子供でも見るみたいに。キツい。顔が熱い。


「……お前よぉ。もっとこう、なんかあるだろ」


 デッドが呆れた目を向けてくる。

 お前殴っちゃうぞ! 誰のせいだと思ってるんだ!

 とりあえず一言もの申してやる。えぇっと……なんだ。そうだ。


「デッド……。たすけて」


 違う! つい本音が出た。もう誰か助けてくれ。涙出てきた。


「わ、悪かった。いいスピーチだった。感動した! もう、座っていいぞ。にゃんこ」


 うわ。デッドが優しくなった。気持ちワル! でも、とりあえず私を座らせてくれた。女の涙は強いって本当だったんだ。


 それからは私への質問タイムが始まった。

 やはり幼龍ミスティックマスターという最弱種族と残念職業の組合せで、あれだけ戦えるのがみんなには不思議でならなかったみたいだ。


 とりあえずリアルでは格闘の専門家だという事だけ伝えておいた。

 幼い頃からあらゆる格闘技を身に付け、父と修業しながら育った事。学校をサボってキャンプと称した武者修業の旅に出ていた事などを話した。

 父とクマさんを倒した話はみんな笑って流していたけど、詳しい解体の仕方を説明したらドン引きしながらも信じてくれた。


 でも、格闘技の大会には出た事がない。

 もったいないと言われたけど、生きる為の技術として学んでいただけでそれがステータスになるなんて欠片も知らなかったからだ。

 仕事に就く際はその場で警察の強いっていう人を倒しちゃったので、優遇してもらったんだ。格闘の技能以外はギリギリだったっけ。


 話は私のステータスについてへと移った。

 確かに自分でも異様に攻撃力が高いとは思っていた。

 皆顔を寄せて自分の考えを述べ始めた。謎解きみたいにみんなでワイワイ相談している。チートだとか言われたらどうしようかと思ったが、心配なかったみたいだ。みんなの考え方のポジティブさに嬉しくなった。

 きっと互いを身近に感じながら戦い、共に苦難を乗り越えたおかげだと思う。リアルと同じ様に自分自身の体を動かして戦うVRゲームだからこそ、より強い一体感が生まれたのかも知れない。

 画面越しのゲームでは得られない、何かが確かにここにはあった。


「ミケさん。もしかして、ずっと素手で戦ってきたんですか?」


 アシンさんが閃いた様に質問を投げてきた。


「うん。体の動かし方に慣れる為。最初、ゲームを始めた時からずっと」


 魔法は回復や牽制で使う程度だ。


「じゃあそれなりに体術熟練度が上がってたって事じゃねぇのか? 素手の攻撃力に補整がつくんだろ? なぁ?」


 デッドがマーシャルアーティストのゲイルへ目を向ける。


「うん? まぁ。そうだな。俺はホラ、ナックル装備してるから成長遅めだけどね。素手ならもっと早いだろうし」


 ゲイルは唐揚げをつまみながら、アイテムボックスから愛用のナックルを取り出して見せた。

 ちなみに彼のレベルは16で、体術熟練度と武器のナックルの熟練度がそれぞれレベル14とレベル16だそうな。

 ずっと同じ武器で戦っていれば、大体武器の熟練度とキャラクターレベルは同じくらいになるそうだ。ナックルを装備してきたせいで体術熟練度はやや低めだ。


 ナックルは唯一攻撃力に体術熟練度の補正が上乗せできる武器だ。しかも武器を交換すれば簡単に攻撃力を上げる事ができる。

 マーシャルアーティストは職業による攻撃力補正もさらにプラスされているという。


『マーシャルアーティスト』

 格闘での攻撃に特化した職業であるのは周知の通り。体力が極めて伸びやすい。

 職業による攻撃力補正はあるが、筋力の伸びは前衛職としてはやや控えめ。

 魔力は前衛職としては伸びがいいのでMPが多く、スキルや必殺技を多用しやすい。また、その為魔法防御力もある程度確保できて防御性能のバランスがいい。

 ステータスを大幅に強化したり、必殺技の様に超人的な体術を使ったスキルを習得する。

 もっとレベルが上がれば「気功」を放って遠距離攻撃をするスキルも習得できるそうだ。気は物理攻撃、【打属性】扱いらしい。


 【打属性】?

 なんだか耳慣れない単語が出てきた。

 魔法が炎、冷気、雷、聖、闇の5属性あるのと同じく、武器での攻撃にも属性があるという。


 物理攻撃属性には【打】、【斬】、【飛】の3種類がある。


【打属性】

 格闘による打撃や棒、ハンマーなどの鈍器がこれにあたる。

 キャラクターHPに与えるダメージは並。だが、鎧や盾の耐久値に与えるダメージが多く、さらにキャラクターHPにダメージが貫通しやすい。

 武器の耐久値は高めの物が多い。


【斬属性】

 剣や槍などの刃物全般がこれにあたる。

 キャラクターHPに与えるダメージが大きい。反面鎧や盾の耐久値に与えるダメージは少なくはないが、キャラクターHPへのダメージはやや貫通しにくい。

 武器の耐久値は並から低めの物が多い。

 大剣や斧は斬属性と打属性を併用しており、攻撃性能が極めて高いという特徴がある。


【飛属性】

 弓矢や投擲用のナイフ、手裏剣などがこれに当たる。岩や壁などが砕けた飛礫もこの範疇に入る。

 キャラクターHPに与えるダメージは並。だが、鎧や盾の耐久値に与えるダメージは極めて低く、貫通もしにくい。

 武器の耐久値はかなり低く、武器に直接攻撃を受けると脆い。弓はその代わりに通常の使用ではほとんど下がらない。

 ほぼ中~遠距離攻撃の武器なので距離を取って戦う事になる。



 話を戻そう。アシンさんが再び質問を投げかけた。


「ミケさん。体術熟練度の成長は、やはり龍人族だと遅いんですか?」


「ううん。経験値と違ってこっちは早いみたい」


 ボスを倒した時、レベルが上がって私は晴れてレベル11になった。

 あれだけ戦っても上がったのは1つだけか。龍人族のレベル上げはやはり厳しいな。

 多分魔法や武器の熟練度もそうなんだろうけど、私は得意な体術ばかり鍛えてる。

 そういえば、しばらく熟練度がどのくらい上がったか見てないな。レベルと違って上がってもスキルを覚えられる訳じゃないし。

 ちょっと確認してみよう。


「体術熟練度・レベル24だって」


 全員が口に含んだ飲み物を吹き出した。


 メンバー内最高レベルのアシンさんは、このクエストでキャラクター、槍熟練度共にレベル19に上がったそうだけど、それより高い。


「どど、どういう事っ!?」


「24!?」


 全員でテーブルに身を乗り出して私に詰め寄ってくる。アシンさんだけはひとり納得した顔で枝豆を頬張っていたけど。


 やっぱあれか。空いた時間を見つけてはシャドーや型の練習なんかをやってたからかな。モンスターがいなくても素振りだけで多少熟練度は上がるみたいだったし。いいリハビリになった。


「え、え、えっと。シャドーと……型で……」


「つまりはレベルアップに時間がかかる龍人族が、その縛りのない体術熟練度を鍛えた。さらに空いた時間で素振りを繰り返して熟練度の成長を促していたんですね。

 結果、レベルの倍以上の成長を遂げた、と。たゆまぬ努力の賜物です」


 アシンさんが注釈を入れてくれた。多分そういう事だと思う。


 それから、私の筋力値も伝えてみたら、幼龍ミスティックマスターとしては異常に高い事がわかった。

 ステータスが全て平均より高めの人族。職業は筋力値最低のマジックウィザードと比べてだけど、私は同じくらいあるらしい。しかも私よりレベルが高い人だ。

 みんな「バグか?」と思ったみたいだけど、たぶんあれだ。


 筋トレだ。


 これまた習慣で、シャドーと合わせて腕立て、腹筋、スクワット。そこら辺に落ちてる岩なんかで筋力値以上の重量を担ぎながら、スタミナが全損するまでトレーニングしていたからだ。

 スタミナが回復し終わった後、ごく稀に筋力値が上がっている事があった。ほんのわずかだったし、気のせいだと思ったけど違ったんだ。


 じゃあ、素の重量のままスタミナが切れるまで走った後に体力値が上がっていたのも気のせいじゃなかったんだ。


 それを伝えると全員が驚愕の声を上げた。

 誰も知らなかったらしい。攻略サイトにも載っていない隠し要素だったみたいだ。

 確かにこんな事やってるの私くらいだと思う。上がる確率は運も絡み、レベル上げでモンスターと戦うのに比べたら遥かに効率は劣る。実際上がるのは20回に1回あればいい方だ。

 まぁ、時間だけはあるからね。実質ニートみたいなものだし。


「にゃんこよぅ。お前、ニートなのか」


 デッドがなんとも言えない顔でこっちを見てくる。おい断定するな。違うから。休職中なだけだから。

 ちゃんと納得するまで説得するのには骨が折れた。


 あと、私は攻撃の際ほとんどカウンター気味に相手の動きに合わせているのも攻撃力上昇に繋がっている。

 この世界でもリアル同様カウンターはかなり威力が上がる。素の攻撃力が低い私にはこの恩恵がとても大きい。

 ドラゴンゾンビの突進に対して放った蹴りは、今回最も高いダメージを記録したものだった。獣身覚醒した状態だった上、相手の強大な攻撃力とこちらの脚のHPを一撃で全損する程の代償。そして日頃からの積み重ね。その全てが複合してたどり着いた結果だ。

 最弱種族と残念職業の私だけど、まだまだ可能性はたっぷり秘めている。



 その後、実は泣き上戸だったアシンさんにまとわり付かれていらぬ苦労をした。アシンさんはフォルマージに引き渡した。

 けど、おおむね楽しい祝勝会はお開きとなった。


 外に出ると、すっかり夜の帳は落ちて綺麗な満月が出迎えてくれた。


「おい。にゃんこ」


 振り返るとデッドがいつものニヒルな笑みを浮かべて立っていた。


「今日は世話んなったな。おかげでアシンさんも喜んでたぜ」


「ん」


「ダンジョンでは……お前、スゲーがんばったな。みんなも言ってたがよ。俺も太鼓判を捺すぜ。うん」


「……ありがと」


「でだな。俺も……ほら、お前を評価してるわけだ。その、2人で砦を探索した時とか、お前の働きといったら凄かったしよ。クリアできたのもお前がいたから、っていうか。お前が護衛だったおかげだ。

 でよ、その……」


 なんだ。珍しく言葉が回りくどい。指で頬をかいている。らしくないな。

 とりあえず私を褒め称えているのだけはよくわかった。ふははは。もっと褒めるがよい。


「デッド。もっと褒めて」


 私は満面の笑みでデッドを見上げた。


「……まぁ、ここで俺達ゃ解散となる訳だが、また俺の力が必要になったら声かけろや。いつでもいいからよ。じゃあな!」


 デッドは後ろを向くと、振り返らず足早に去っていった。私の笑顔はスルーだ。顔が少し赤かったのも見間違いかな。


 私もそろそろ帰ろう。

 まったく。パーティ組んでほしいならそう言えばいいのに。素直じゃないやつだな。

 次回投稿は16日午後8時予定です。


 某米所の地方都市で、魚介を売りにしてる居酒屋にハズレは無い。と、思います。


 宝石の様に赤い脂の乗ったブリの刺身。添えられた葉ワサビと共に醤油を付けて食べた時の、ワサビのツンとした香りと口一杯に広がる脂の旨味。

 透明なつゆに浸ったアサリのお吸い物。アサリのダシがよくきいたつゆは、程よい塩加減の落ち着く味わい。ふわりと鼻に通る醤油の香りと、ひっそりと浮かべられた三葉の爽やかな風味。一口飲み込むごとに心と体を温めてくれる。

 控えめに焦げ目がついた黄金色の炙りエイひれ。お店にあれば必ずお願いする。噛む度にしみ出る旨味とほんのり甘いミリンの風味。最初はそのまま食べて、次は軽く七味の振られたマヨネーズを付けて食べる。これがまたビールによく合う。……ビール飲めないから人のを見た想像だけど。


 エビマヨ、から揚げ、餃子に焼き鮭!!

 お酒は20歳になってから!!


 お腹空いた!!


 もっと美味しそうに表現できる様になりたいなぁ。


 次回で今章最後です。オフ回です。第23話『散歩』


 お楽しみに!

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