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ミケのオンラインリハビリテーション  作者: 白ネコ扇子
第3章・神聖王国 廃砦の足跡
19/87

19・砦跡内部

「とりあえず一安心です」


 全員が屋内に入ると、鋼鉄の扉を閉じて出入り口を塞いだ。

 扉はシステム的な保護がかかっているのか、外のモンスターが叩く音すらしない。破られる心配はなさそうだ。


「攻略もかなり順調ですし、各自装備の消耗具合を確認して下さい」


 アシンさんは構えていた槍を地面に立てると、皆を見渡して言った。


 装備には耐久力がある。

 防具なら攻撃を受ければ、武器なら攻撃しても減少していく。

 防具も1ヶ所に集中して攻撃をされるとその部分が破損、穴が空いたりする。あと、飾りや繋ぎ目など弱い箇所は壊れやすく設定されている。

 武器の場合は刃こぼれや折れる事もあり、その為確認はしっかりしておかないと戦闘時命取りになりかねない。

 耐久力が減少すれば性能は落ちていき、ゼロになると粉々に砕け散って装備品としての効果は無くなってしまう。もっとも、ゼロになっても修理すれば元通り新品に戻るから大丈夫だ。


 そういえば、素手で攻撃しても手のHPは減らないな。ただ、敵の攻撃と相殺すれば減るけど。

 ちょっとした発見かも知れない。


 皆装備の確認と回復を済ませ、ほとんど損耗がない事がわかった。


「正直、ここまで順調に来れるとは思っていませんでした」


 アシンさんが少しだけ嬉しそうに言う。

 前々回、初挑戦時は先程のバルコニーでスカウトを守り切れず、扉を開けられなかったそうだ。

 レイドも崩壊し、引き返す事もできず増える追っ手に全滅させられた。


 だから中庭からの階段を破壊したのか。あれを壊さなかったら後続がゾロゾロ入ってきていたんだ。

 2回目の攻略でそれに気付いたとの事。この時はスカウトも扉を開ける事に成功した。

 ただ、この時点でかなりの人数が倒れ、戦力は著しく低下していた。ようやくボスにたどり着いた時にはもうほとんど戦う事もできず全滅したという。


「じゃ、ここからは俺達が主役を張る番だな。行くぞ。にゃんこ……グフッ!」


 デッドがクイクイと指を曲げて促す。……が、私はわき腹に肘を入れてひとにらみした。


「なんだよ。照れてんのか?」


 ダメだ。全く堪えてない。


「デッドさん。ではよろしくお願いします。護衛には俺も一緒に行きます」


 アシンさんがそう提案したが、デッドは目をつむり頭を振った。


「いや、アンタはここで温存しといてくれ。ボス戦じゃアンタの攻撃力が攻略の要になる。なに、俺も毎回来てるんだ。大丈夫さ」


 アシンさんに同行してきたスカウトってデッドだったんだ。毎回一緒に攻略にきていたのか。


 ここから先はいたる所にトラップが張り巡らされ、さらにそれはモンスターが触れても発動するという。種類によっては巻き添えを食らう危険もあるので、大人数を前提としているレイドがかえって裏目に出るのだそうだ。

 あと、トラップの配置は毎回ランダムらしく、ダンジョンエリアに入ってからずっと注意して見ていたのだとか。


 前回はまだレベルが足りず、トラップを見落としたせいでかなりの打撃を受けたそうだ。そのせいもあってデッドなりに責任を感じているらしい。


「おいにゃんこ。ダメージはあるか?」


 私は首を振った。

 先程の戦闘で攻撃は全て回避していたし、損耗は無い。

 自分でもかなり戦いのカンを取り戻してきていると感じる。あの程度ならいくら力がある敵でも、かすり傷ひとつ負う事はないだろう。


「だよな。護衛ならコイツひとりで十分だ。アシンさんもさっきの戦いぶりは見ただろ? レベル10のクセしてゴブリン共を無傷で倒すヤツなんざ他にいるか? しかも幼龍ミスティックマスターでだ」


「そう……ですね。どうやってるのか理解の範疇を超えてますが、実力は凄いものを感じました」


 アシンさんも褒めてくれた。なんだろう。嬉しい。ふふふ。


「な~に気持ち悪い顔してんだ? じゃあ行ってくる。それまで作戦会議でもしててくれ」


 む、失礼な。


「わかりました。こちらも回復が完了次第追いかけます」


「じゃ、行くぜ。相棒!」


「ん」


 こうして私とデッドは砦の奥に進み始めた。




 ここ、入口のある最上階フロアは建物の屋上にあるペントハウスの様なものだ。小さな明かり取りの窓と下へ向かう階段だけで、他に部屋はない。

 部屋の中には大昔に使われていた大砲や弓矢の残骸が転がっている。きっと外のバルコニーや城壁から敵を迎撃していたんだろう。


 私達は階段を降りた。


「こっちだ。ついてきな」


 デッドは迷いなく廊下を進む。

 このフロアは全4階ある建物の3階にあたる。狭い廊下がいくつも交差していて方向感覚を狂わせる。同じ様な景色が続き、それが複雑に入り組んでいた。

 思っていたより綺麗だ。壁や柱も白さを保っているし、装飾の入った扉も開閉できる。


「止まりな。トラップだ」


 廊下を進むと突然デッドが手で制した。


「今からトラップの解除を始めるから、見張り頼む。解除中は他のスキルが使えねぇ。ミスティックマスターならデテクトの魔法が使えるだろ。廊下の前後を見といてくれ」


「わかった。見てる」


 移動中ずっと探索スキルを使いながら歩いていたデッド。

 デッドはしゃがみこむとトラップの解除を始めた。

 特に何も見当たらない床だが、デッドが「リリース」と唱えると扉を開けた時と同じキューブが現れた。

 今度は制限時間があるみたい。時間内に解かないとトラップが起動するようだ。しかし、デッドは苦もなくあっさりと解いてしまった。


「っし! 楽勝! 見張りご苦労さん」


 デッドは親指を立ててこっちを見てくる。笑顔がウザい。あと頭を撫でるな。


 このフロアはランダムな配置でゴブリン達が徘徊しているそうだ。

 パーティを組んでいないし数もまばらなので、罠さえ無ければ戦闘自体は外より苦ではないらしい。


 いくつかトラップを解除しながら何度目かの曲がり角を通り過ぎた。

 今の所まだモンスターには出会っていない。運がいい。


「……ん? コイツはちょっとかかりそうだな」


 鍵同様トラップにも難易度があるみたいだ。今回は少し時間がかかるらしい。


「でもそこの曲がり角を過ぎればもうすぐだ」


 デッドは今までより面倒くさそうに見えるキューブをいじりながら、廊下の向こうを顎でしゃくった。

 私はその向こう側へまたデテクトの魔法を放つ。

 ここは前後をT字路に挟まれた廊下だ。ただの通路で扉は無い。

 なんだか嫌な予感がする。


 デテクトに反応があった。


 前方右の曲がり角から敵3体、左から2体を探知した。結構多い。今まで出会わなかった分数が集中したようだ。


「前から敵5」


「ちっ。しょうがねぇ。一旦退いて解除済みの所まで戻るぞ」


 だが、後ろに放ったデテクトにも反応があった。


「デッド。後ろ……7」


「……ヤベえな。クソ。前はこんなに集まらなかったぞ」


 悪態をつくデッドの頬に汗が一筋流れる。


 しかし、トラップ解除の手を止める事はしなかった。


「おいにゃんこ。まだスキルポイントは残ってるか? もしあるならルインスペルの魔法を覚えとけ。俺が死んだらこの先必要になる」


 デッドはトラップに向き合いながら声を絞り出した。


「すまん。完全に読み違えた俺のミスだ。コイツを解除するまででいい。護衛を頼む。そうしたら全力で逃げろ」


 デッドは戦闘職じゃない。だが己を知っている。前後を計12の強敵に挟まれ、切り抜ける事が不可能だと即座に判断したのだ。

 彼はそれでも最後に自分の役割を果たそうと決断した。前回、トラップで味方に大損害を与えた責任を果たそうとしているのかも知れない。

 決死の覚悟を決めた顔だ。

 こんな状況でも不敵な笑みを浮かべているのは、私を不安にさせない為なのかな。

 そして、生き残る可能性の高い私に、自分の命を託すつもりだ。


 だけど、私はこう応えた。


「……私が片付けるまでには、終わらせてね」


 前はルインゴブリン4、ゴブリンナイト1。後ろはルインゴブリン5とゴブリンナイト2。

 私はフォース、ビルド、スピリットの魔法をかけると、前方へ跳んだ。


 前方組は前衛にルインゴブリン2。中衛にルインゴブリン2。後衛にゴブリンナイト1だ。

 最前列にいた盾持ちのルインゴブリンが剣を振り上げるより早く、その持ち手を蹴り上げ隣のゴブリンに突き刺す。

 その間をすり抜け、群れの中央にいたルインゴブリンの両脚を取ってタックルをかけた。

 不意を突いたおかげでかろうじて押し倒す事ができた。私は下からこちらを掴もうとする手を避け、後ろに仰け反った。

 最後尾に控えていたゴブリンナイトの振り下ろした大きな斧が、前髪を掠めた。


「ギ……ッ!」


「これ借りる」


 斧が私の下にいたルインゴブリンをかち割った気配を感じつつ、その手に持っていたダガーを奪いデッドに向かって投げつけた。


「ゴブッ!?」


 通路後方から迫っていたルインゴブリンの首に、デッドの頭上を掠めてダガーが突き立つ。

 後方組は前衛が今攻撃した1匹を含めた4匹。後衛にゴブリンナイト2匹とルインゴブリン1匹が並んでいる。

 だが、首にダガーを刺したまま、そいつはデッドに棍棒を振りかぶった。


「プリズムアロー」


 その手に雷属性の矢を撃ち、動きを止める。

 秒間4発。聖属性の光の矢を、残り3発後ろに迫っていた3体の顔に命中させた。


「アギャー!?」


「イギィ!?」


「ウギョエ!?」


 閃光でやられた目を覆うルインゴブリン達。しばらくの間視力を奪った。


 私は自らを取り囲むゴブリン達をすり抜け、前衛の最初に剣で刺したルインゴブリンを後衛集団の中に蹴り押した。

 仲間達が私を攻撃しようとしていた所に、代わりに入ってきたルインゴブリン。反応の遅れた仲間達にとどめを刺され、光となって消えていった。


 その間にデッドの背後で棍棒を振りかぶっていたルインゴブリンの前まで走った。


「お前の相手はこっち」


 そのまま刺さったダガーを掌底で殴りつけた。

 刃に首を貫かれたルインゴブリンが光と消えるのを見届ける前に、わずかに体を右に避ける。

 瞬間、その奥にいたゴブリンナイトの放った矢が、左側頭部を掠めて通り過ぎていった。通路の反対側からゴブリンの叫び声が背中に届いた。


 私は視力を失いがむしゃらに武器を振っている前衛のルインゴブリン達を、後衛のゴブリン達の方へ蹴り出した。


「ゴ、ゴブッ!?」


「ギィ!? ガァブ!?」


 壮絶な同士討ちが始まった。これでしばらく時間を稼げる。


 それを尻目に私は再び通路前方の群れへと駆け出した。

 ルインゴブリンの1体が目に刺さった矢を引き抜き、槍を構えて突進してくる。

 それに合わせてもう1体のルインゴブリンが剣と盾を、ゴブリンナイトが斧を振りかざして一斉に突撃してきた。


 私は突き出された槍の穂先を靴底で横に滑らせると、その持ち主の顔に飛び蹴りを叩き込んだ。

 綺麗にカウンターが決まったはずだが、元々の筋力差で倒れない。だが、片目を失っているからか、今の蹴りで私を見失ったようだ。


「!」


 すぐ近くを剣が通り過ぎる。盾の向こうからにらみつける視線と目が合った。

 私はその盾を掴むと、思いきり引き寄せた。筋力で劣る私の方が相手側に引寄せられる形になったが、直後に元の位置をゴブリンナイトの斧が通り過ぎていた。


 盾を抱きしめる私と見つめ合うルインゴブリン。


「……どうも」


 盾持ちのゴブリンは私を引き離そうと盾を振るが、私は身を屈めその内側に潜り込んだ。

 そして盾を持つ腕を掴むと、ゴブリンナイトの振るった斧をガードする。盾越しに大きな衝撃がビリビリ伝わってくる。


 前と後ろを挟まれた形になった。

 前にゴブリンナイト。背中には密着している盾持ちのルインゴブリン。その2体が同時に武器を振り上げた。

 私は背中越しに振り下ろされた腕を掴むと、その勢いを利用し一本背負いを決めた。同時に背中に斧が命中した衝撃が伝わってくる。ただし、背負ったルインゴブリン越しにだ。

 投げたルインゴブリンが前方のゴブリンナイトをなぎ倒しながら、光と消えた。


 背後から槍が突き出される。体を回して穂先を受け流すと、その柄を横に軽く叩いた。


「グブ!?」


 軌道の逸れたその刃は、立ち上がろうと体を起こしたゴブリンナイトの首筋を貫いていた。急所を断たれたゴブリンナイトは立ち上がる事なく再び崩れ落ちた。


 槍を引き抜いたルインゴブリンだったが、こちらを見るその目にプリズムアローを放つ。


「カ……ッ!?」


 冷気属性で顔を凍らせた。数秒はまたこちらを見失うはずだ。


 私は再び通路後方で乱闘真っ最中の群れへと向かった。

 どうやらちょうど同士討ちが終わったようだ。

 前衛3体のルインゴブリンは視力がなかったせいで一方的に殴られていたのか、ずいぶんとボロボロになっていた。今になってようやく視力が回復したみたいだ。


「ふ……っ!」


 私は飛んできた矢を掴んで捨てると、先頭を進む3体のルインゴブリンに躍りかかった。

 左側のルインゴブリンに迫り、突き刺そうとしてきたナイフを蹴り上げる。取り落としこそしなかったものの、大きく体勢を崩したのを見送る。


 間髪入れず中央にいたルインゴブリンが振り下ろしたハンマーを身を捻ってかわすと、その勢いで顔に後ろ回し蹴りを入れた。既に満身創痍でステータスが低下していたルインゴブリンは、耐えきれず後ろに下がった。そこに、デッドを狙っていた矢が刺さってとどめとなった。


 ナイフ持ちのゴブリンが体勢を直し、構えたのが見えた。

 1体、後衛の唯一元気なルインゴブリンが両手の双剣を構え、飛びかかってくる。右からもボロボロのルインゴブリンの振るったサーベルが迫る。

 私は身を翻し、一番近くにいたナイフのゴブリンの手を掴むと、側頭部に肘を入れて遠心力で場所を入れ替えた。

 直後、ナイフのゴブリンは双剣とサーベルに襲われ、その手からナイフがこぼれ落ちた。


「グゥフッ!」


 ようやく奥に控えていたゴブリンナイト2体が弓を投げ捨て、斧に持ち換えた。

 それを視界の端で捉えながら、サーベル持ちのゴブリンの足下に冷気属性のプリズムアローを4発全弾撃ち込む。サーベル持ちのゴブリンは凍り付いた足下につまずき、わずかに前へつんのめった。

 その顔に全力で膝を入れ、仰け反った無防備な喉に足刀を突き立てた。サーベル持ちのゴブリンは倒れ、光となって消えていった。


「グブブッ!!」


 不意に薙ぎ払われた斧を手甲でガードする。かろうじて斜めに滑らせ、受け流す事に成功した。

 だが、ゴブリンナイトは振り抜いた斧に再び力を込めている。


 私は後ろに跳躍し、双剣のルインゴブリンの懐に飛び込んだ。

 即座に私を貫こうと刃を逆手に構える双剣持ち。


「ケケ! ……ゲッ!?」


 だが、私がしゃがみこむと同時に、正面から振るわれた斧で頭部を失った。


 私は正面に立つゴブリンナイトに足払いをかけた。だが、万全のゴブリンナイトの筋力相手ではびくともしなかった。


「グブルアッ!」


 振り下ろされた斧を地面に転がって回避する。すぐに拳で地面を殴った反動で立ち上がる。

 さらに振り下ろされた斧を、体を独楽の様に回転させ避ける。

 そして、一気に懐へ潜り込み鳩尾に肘を打ち込んだ。


「グブブ?」


 わずかによろめくゴブリンナイトだったが、胴を守る鎧のせいで効果が薄い。


 そろそろスタミナが心許ない。体力があるとはいえ、それは魔法職にしてはの話だ。


「はあ……」


 既に半分を切り、体の動きも鈍くなってきている。攻撃も正確性を欠いてきた。もう時間がない。


 ゴブリンナイトがこちらを見下ろそうとその目を向ける。

 だが、させず顔を蹴り上げ、続けざまに頭に踵を落とす。さらにだめ押しで首にハイキックを叩き込み、頭を揺さぶる。


「グ……ブッ!?」


 ゴブリンナイトが私の姿を見失ったその刹那。


「……んっあッ!!」


 背後に回り、渾身の力を込めて首をへし折った。



 私は残った力で全力で走った。

 姿勢を低く屈め、地を滑る。

 トラップ解除に集中するデッドの背中にたどり着き、腕を交差した。


「ぐ……っ!」


 両腕の手甲に斧が食い込み、砕け散る。


 腕にも刃が深く突き刺さっていた。

 ゴブリンナイトの最後の片割れ。そいつがデッドの方へ目標を定めていたのは視界の端で捉えていた。さっきから弓でずっとデッドを狙っていた奴だ。

 私と戦う仲間達を尻目に、悠々とトラップの解除で背を向けるデッドに斧を構えていたのだった。

 私はなんとか相対するゴブリン達を倒し、デッドに攻撃が及ぶのを阻止できた。


「にゃんこ!? おい!」


「前を……。集中して……!」


 デッドが振り返りそうになるのを制する。

 デッドはそれ以上何も言わずトラップの解除を続けた。

 私は笑みが浮かんで来るのを感じた。信頼されていると思ったからだ。

 なら、応えないと。


 だが、今ので両腕のHPがほとんど失われてしまった。もう肘から先の感覚がない。


 腕に刺さった刃が抜き取られ、再び頭上に振り上げられる。

 私は両脚に力を込めて立ち上がった。

 振り下ろされた斧を蹴り上げた左足でガードする。すね当てに刃が食い込み亀裂が走った。

 脚はまだ繋がっている。


「ヒール」


 私は回復魔法を腕にかけた。さらに腰のアイテムホルダーに付けた回復ポーションのアンプルを折り、重ねがけしてHPを回復させる。

 龍人族の特性のせいで回復量は少ないが、わずかに腕が動く様になった。


 間髪入れず右足で跳ねるとゴブリンナイトの両肩を掴んだ。

 ゴブリンナイトと目線が合う。私はその目をにらみつけると、上半身を思いきり仰け反らせた。

 両手、片足がまともに使えない以上、もはやこれしか攻撃手段がない。見下ろす視界の端に、ゴブリンナイトがこちらを見ているのが映った。


 私は体を全力で前へ振ると、ゴブリンナイトのその顔に、頭突きをブチ込んだ。


「ゲ……べッ!」


 角兜に亀裂が入り、ゴブリンナイトの頭が後ろへ吹っ飛ばされた。


 衝撃でグラリとよろめいているゴブリンナイト。

 立て直す隙は与えられない。私は大きく開けているその口に手を突っ込み――


「プリズム……アローッ!!」


 ――渾身の力を込めて魔法を全弾撃ち込んだ。


 ゴブリンナイトは鼻や耳、顔中の穴から火花を散らすと、その場に倒れ光となって消えていった。


 地面に着地し、私はかろうじて動く体をわずかに横へ動かした。

 直後、鋭い槍がわき腹をかすめ、切り裂いていった。

 振り返ると、片目の無いルインゴブリンが槍を握ってこちらをにらみつけていた。顔にはまだ氷の破片が貼り付いている。


 私は片足で跳ねると、そちらに向き直った。


「……残り1体。お前で最後」


 お互い満身創痍。決着は近い。



 私は跳んだ。




「終わったぞ! にゃんこ! もう逃げろ!!」


 解除したキューブが消えていくのを確認すると、デッドは背後を振り返った。


 デッドはその光景に目を見開いた。


「……私の勝ち」


 私は倒れ行くルインゴブリンを前に、立っていた。


 背中からかけられた声に、私はデッドの方を振り返った。


「……遅かったね」


「おまっ!? えっ!? 全部倒しちまったのか!? ゴブリン!」


 親指を立てて余裕だとアピールするのも忘れない。事実余裕だし。

 と、そこでついにスタミナが尽き、私はその場に倒れた。


「にゃんこ!!」


 デッドは駆け寄ると、私を抱え起こしてくれた。


「……まったく、大したにゃんこだぜ! お前はよう! このにゃんこ!」


 おい、安物家電みたいに頭をポカポカ叩くな。ただでさえ心許ない性能が落ちたらどうするんだ。にゃんこ呼びも含めて抗議しようと思ったけど、デッドがあまりに嬉しそうにはしゃぐのでやめてあげた。

 少し疲れた。


 ……はぁ、もうにゃんこでいいや。

 次回投稿は26日午後8時予定です。


 ミケの活躍はやはり書いていて楽しいです。今回、ミケ単独での無双だったので特に爽快でした。

 ……でも、敵が多すぎたせいでやはり文章がごっちゃりした感が拭えない。ミケの活躍を書きたかったとは言え、暴走気味だったかも知れませんね。自重せねば。


 ミケの格闘シーンは、いつもニコニコ動画で『あさとし』さんという方が投稿している『燃えよ美鈴』という動画シリーズを観ながら想像力を働かせて書いています。

 格闘シーンのキャラクターのわずかな所作から動きの流れ、カメラワークまでとにかくかっこいい。作者さんは格闘技の経験者か? と、言われていたりしますが、全然そんな事はないそうです。

 カンフー対近代格闘。対複数から対剣術まで様々な相手と戦うのも参考になるポイントです。

 スゴく面白いですよ!


 さて、次回いよいよボス戦! 第20話『地下大監獄』


 お楽しみに!


 年が明けたらそろそろ挿し絵を描こうかしら。

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