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ミケのオンラインリハビリテーション  作者: 白ネコ扇子
第3章・神聖王国 廃砦の足跡
17/87

17・レイド結成

 冒険者ギルド・アルテロンド支部。


 神聖王国首都だけどここも支部なのか。これだけ大きな街なのに。本部はどこにあるんだろう。 

 扉を潜るとアイゼネルツ支部と同じくギルド施設と酒場が併設されていた。


 まずはこの町でのクエストを見てみようと掲示板に向かう。

 クエストの名称と一緒に依頼内容と報酬。そして適正レベルと実施場所が書いてあるのを目にする。

 かなり幅広い。私の様にこの町へ来たばかりの適正レベル10のクエストから、30くらいまでのものまである。

 この町周辺のフィールドやダンジョンだけでもかなりの数があるらしく、しばらくはこのアルテロンドを拠点に活動する事になりそうだ。


 隣の掲示板には『侵攻クエスト』と書いてある。

 陣営同士の戦争をクエストにしたものだ。

 どの地域を領土に治めるか、どの町を奪うか、どの砦を落とすか、などがクエスト内容としてある。つまり領土戦か。他にも戦闘内容に関するクエストも多数存在している。

 魔王軍陣営のプレイヤーも討伐すると報酬が出るみたいだ。

 魔王を倒すのもクエストとして貼り出してある。やはり難易度が高いのか、報酬も他とは比べ物にならないくらい莫大だ。

 これらは特に受けなくても、達成した時点で自動的にその侵攻に関わったプレイヤーに報酬が与えられるらしい。


 魔王や国王など、それぞれの陣営の君主の戦闘力は領土の広さや発展具合で増減するらしい。今の所は拮抗しているようだ。

 と、地図が貼ってあるのでわかる。それぞれの領土が色別に塗り分けられていた。神聖王国が青。魔王軍は赤だ。

 中立地帯なんてのもあるんだね。中立地帯は緑色だ。中立地帯も結構広いな。

 無色は未開の地との事。大部分はまだ未開の地なんだ。

 っていうか、王様戦うんだ。しかも設定からすると魔王と同じくらい強そう。


 シナリオクエストは自動的に発生するものみたいだから掲示板には無い。

 でも、プレイヤーが書いたらしい貼り紙が目についた。


『マクシミリアン砦跡IDレイド募集。


 主催:アシン


 募集要項:

 人数無制限。レベル、種族、職不問。パーティ、ソロ不問。

 クリア済不可。

 スカウト1名募集。


 大体3~4パーティ募集。レイドボス討伐までよろしくお願いします』



 ちょうど探していた内容だ。

 IDはインスタンスダンジョンの略。やっぱりここはレイドを組めば複数のパーティでも一緒にダンジョンに入れるんだ。

 レイドとは、元々強襲、急襲という意味で、ネットゲームでは複数のパーティで戦うボスを「レイドボス」と呼ぶ。その事から複数パーティで組んだ同盟を『レイド』と呼ぶ様になったのだとか。


 1パーティでしか入れなかったアイゼネルツ坑道に対し、レイドで攻略するマクシミリアン砦跡。相当な難易度を覚悟しておこう。


 さて、募集主のアシンとやらはどこだろう。

 貼り紙に手を伸ばしたら、突然目の前にウィンドウが開いた。


『主催者にメッセージを送りますか?

はい/いいえ』


 ビックリした。今回は触らなかったぞ。名前の時みたいなヘマはしない。

 この貼り紙に触れる事で即連絡が取れる様になっているんだ。

 私は「はい」をタッチした。


 さて、どういう文面を書こうか……。手紙を書く事なんてあまりないから、こういうのって苦手。拝啓……から始めるんだっけ。



『アシン様


 拝啓

 初めてお便りを差し上げます。

 アイゼネルツを旅立ち、新たなる冒険に希望を馳せる今日この頃。

 アシン様におかれましては緑美しく、清々しい気候にて健やかにお過ごしの事と存じます。


 この度はマクシミリアン砦跡インスタンスダンジョン攻略レイド募集に心より感謝申し上げます。

 本日、私もアシン様の目標実現の為に微力ながらお力添えをしたいと考え、応募させていただきました。

 私も一員の末席に加えていただけたら幸いです。


 それではアシン様にお目にかかれます事を楽しみにしております。

 以上、どうぞよろしくお願いいたします。

 かしこ

 〇年〇月〇日

 ミケ』



 ようし。できた! 我ながら完璧だと思う! 送信っと。

 さて、返信を待とう。


「あ、あのー……」


「ピョエイッ!?」


 突然後ろから声をかけられてビックリした。文面に夢中で全く気付かなかった。おかげで変な声出た。


「ミケさん……ですよね? 募集主のアシンです」


 振り返ると短く刈り上げた黒髪に精悍な顔つき。無精髭を生やした偉丈夫が、何やらおそるおそるといった様子で手を伸ばしていた。


 装備は東国の鎧武者の様な出で立ちだ。ただ、装備が足りない。兜も無いし鎧も最低限胴を守るだけの物しかない。サムライというより、足軽といった風体なのが色々惜しい。

 利き腕とは逆の左腕と左脚にのみ手甲とすね当てを装備している。体を半身に構えた時、そちら側でのみ攻撃を防ぐ為だろう。重量の節約にもなるので、より攻撃力の高い武器にその重量を回せる。

 服装や装備品は赤を基調としたやや目立つ色合いで揃えてあった。


 ……ただ、その顔には「戸惑ってます」と書いてあるのが見て取れた。




「い、いやぁ、あんな丁寧な文面が送られてくるから驚きました」


 私達はテーブルへと移動し、飲み物を注文した。

 なかなかワイルドな外見をしている足軽。失礼、アシンさんも見た目に似合わず腰が低い様に感じるんだけど。なんか緊張してるし。


「は、はい。……手紙、書くの、初めてだったので……」


 ごめん。私もだ。

 お互いまだベテランというには程遠いプレイ歴で、不慣れな所も多いからだ。

 アシンさんはずっとテーブルで応募してくる人を待っていたそうだ。

 で、掲示板でずっと手紙と格闘していた私の事が気になっていたらしい。

 というか、返信は簡潔に用件だけ伝えれば良かったみたいだ。レベルと種族、職業も添えて。むしろそっちを書いてなかった私。恥ずかしい。


「では改めて、アシンです。人族のウェポンアタッカーで槍を使ってます。よろしくお願いします」


「ミケ、です。龍人族のミスティックマスターです」


「……ネコ。お好きなんですか?」


 もうこのやり取り慣れた。好きだよ、ネコ。


 メンバー募集は順調らしい。既にアシンさん自身のパーティと、もう一組パーティが参加してくれる事になっているそうだ。

 名指しで募集していた『スカウト』も既に確保済みとの事。


 『スカウト』とは、ダンジョンの探索に特化した職業。他のゲームではシーフや盗賊なんて呼ばれ方もしている。主に地形の把握やトラップの解除、モンスターの感知など斥候としての役割に非常に強い。レベルが上がればトラップの設置や姿の擬装なんていう敵を翻弄するスキルもあるらしい。

 反面戦闘力はやや低めなので正面切っての戦闘には不向きだ。


「ここのダンジョン探索にはスカウトのスキルが必須なので」


 アシンさんは既に2度マクシミリアン砦跡に赴いているそうだ。

 そして2度敗退している。今回こそは3度目の正直といきたいとの事だ。


 そんな所で私が来たという訳だ。

 レイドボス討伐はかなりの人数で参加可能という事で、人材はいくら有っても足りないそうだ。

 シナリオクエストはレイド推奨の難易度となっており、数に物を言わせて挑む事がセオリーとなっている。1度クリアしたプレイヤーは2度と参加できず、その為高レベルのプレイヤーに手伝ってもらう事は難しい。

 集まったパーティも大体同じくらいのレベル帯になっているそうだ。

 ダンジョン自体の適正レベルは11だけど、難易度的には大体15レベルくらい推奨だって。アシンさん自身は18との事。


 えっ?

 私、レベル10。

 その事をアシンさんに伝えると少し驚いた顔をして「正直、庇ってあげられる余裕はないと思う。自分の身は自己責任で守ってほしい」と言った。

 まぁ、当然だ。私はただ頷いた。


 とりあえず、もう一組程パーティが参加したら出発という事で、私も準備しておこう。王様からもらった10万リッチェがあるしね。

 支度金が想像よりはるかに多かった事に驚いたと話したら、アシンさんも驚いていた。アシンさんは千ぽっちだったそうだ。どうやら王様の話に肯定的な返事をするともらえる物が増えるらしい。心当たりがありすぎる。

 相当ニヤけていたのか、アシンさんがドン引きしていた。

 ……だってカッコ良かったんだもん。




 とりあえずまだ時間はありそうだったので、街に出て防具屋へ向かった。


 しかし、どれも性能は高いものの、重量と必要魔力量が相応にあり、今の私のレベルでは少々ステータスが足りない。

 満足に揃えるならば、あと4~5レベルは上げないと装備できないようだ。

 幼龍ミスティックマスターじゃなければ装備できただろうに。



 その後、もう一組パーティが加わり、いよいよ出発する事となった。


 それぞれ戦利品の分配や戦闘での立ち回りを相談している。大体の攻略方法は経験者のアシンさんが中心となって伝えている。


 さて、ここで問題なんだけど。


「俺たちの所は連携もあるからちょっと……」


「うちも、ミスティックマスターは使い所がわかんなくて……」


 アシンさん!

 あ、目を反らした。覚えてろこの足軽。


 どのパーティにも入れてもらえずちょっと涙目になりかけた時、声がかけられた。



「おう。じゃあ俺と一緒に来い」



 神か!

 そこにいたのは黒のバンダナを額に巻き、黒い布の覆面で口元を覆った軽装の男だった。

 上から下まで服装は黒で統一されている。腰のホルダーには投擲用の道具だろうか。小型のナイフやカギ付きのワイヤーなどが下げられている。

 男は覆面を指で下げ、口にタバコをくわえて煙を燻らせた。

 タバコなんてあるんだこのゲーム。ニコチン無しで健康的。しかも美味しいらしい。副流煙は臭いがしないそうで、周りへの配慮も完璧。そしてカッコいい……かどうかは個人の見解による。

 口元に皺が刻まれ、無精髭を生やした顎と額に巻き付けたバンダナから覗く鋭い目。なんだかダンディだぞ。

 唯一名指しで募集されていたスカウトか。


「お、おぉ……。ありがとう……。仲間」


「一緒にすんな! 俺はあぶれたんじゃねぇよ!」


 煙を吐きながら声を上げるスカウトの男。


「ったく。俺の仕事はひとりの方がやりやすいんだよ。探索専門のスカウトなんざそんなもんだ」


「デッドさん。いいんですか?」


 アシンさんがこのスカウト――デッドに声をかけた。

 デッドは目を閉じ、口元ををわずかに歪めて笑みを作る。そして咥えたタバコを指で摘まむと、大袈裟に腕を振って親指で私を差した。


「おう。かまわんさ。ミスティックマスターならソロでの立ち回りは心得てるだろ。俺の護衛って事でちょうどいいさ」


 このしゃべり方でよくトラブルにならないな。文字だけのチャットだったら絶対ケンカになってるヤツだ。まぁ、この大袈裟な身振り手振りと軽い笑顔を交えた物腰のおかげだろう。


 というか、このダサい名前といい芝居がかった言動といい、なんだか三枚目っぽい。ちょっとタイプじゃないな。なんちゃってダンディだ。

 あ、だからあぶれたんだ。


「……今何か失礼な事考えたろ? チビすけ」


 む、鋭い。実力だけは本物かも知れない。あと誰がチビすけだ。


「まぁいいや。よろしくな! デッドだ。え……っと」


「……ミケ、です。よろしく」


「おう! よろしくな。にゃんこ!」


 にゃんこ言うなこのオヤジ。


 ちょっと相方に不安が残るが、私達はマクシミリアン砦跡に出発した。

 次回投稿は12日午後8時予定です。


 新キャラも増え、次回戦闘回です!


 さて、作者自身ネットゲームではほとんどボッチかリア友とたまに組むくらいだったので、色々とボロが出そうでヒザが震えております。


 次回第18話『マクシミリアン砦跡』


 お楽しみに!

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