16・神聖王国
「よくぞ参った。我が王国はそなたを歓迎しよう」
私は今、神聖王国の王城に来ていた。
あれからアルテロンドの発着場に到着すると、操縦士のオヤジが笑顔でキャンディをくれた。棒付きの絵柄がグルグルしてるヤツ。曰くペロペロキャンディーだ。
私は即粉々に噛み砕いて飲み込んだ。
するとステータスが大幅に上昇する支援効果が発揮された。こんな物にこんな効果を付けるな。結局活かす事なく効果は消えた。
飛行船から降り立つと、発着場には一人の老紳士が待っていた。黒い燕尾服に身を包み、シルクハットを頭に乗せている。その両脇には同じく燕尾服の若い男性が付き従っていた。
老紳士は帽子を取り軽く挨拶をすると、王城からの迎えである事を伝えてきた。
そして案内という名の強制連行で、いきなり玉座の間で王様と謁見という運びになったのだった。
純白の柱と壁。金の刺繍が施されたレッドカーペット。玉座まで続くその両脇にはズラリと鎧姿の兵士が並んでいる。
高そうなシャンデリアに高そうな飾りに高そうなもうよくわかんない。
ゲームとはいえ、このリアリティと気合いの入った作り込みのおかげで、自分が場違いすぎる気がしてならないんだけど。
え……っと。やっぱり跪いた方が良いのかな?
「よい。そのまま楽にしてくれて構わぬ」
あ、はい。すみません。
王様自ら話しかけてくれるというのも凄く緊張する。
私以外にはプレイヤーはいない。どうやら今この場はインスタンスダンジョン扱いみたいだ。初めてここに来た者へのイベントなんだろうな。
ちなみに城門を潜ったら入口すぐの所にある小部屋に案内され、そこにあった魔法陣からこの玉座の間にワープさせられた。あっけないなと思ったけど、何か理由があるのだろうか。
「余はアーヴィン・アルフォンス・アルテロンドⅦ世。この世界が今、未曾有の危機に脅かされているのはそなたも知っておろう」
王様は淡々とした、しかし沈痛な思いを含んだ声でそう話し始めた。
名前長いな。アルテロンド。この国名と首都は同じ名称なんだろう。
王様は整った顔立ちの壮年の男性だ。やや細面だが、わずかに入る皺がその顔に力強さと聡明さを与えている。
長いプラチナブロンドの髪をオールバックに後ろへ流し、鋭い目付きはまっすぐ私を貫いていた。
やだ、かっこいい。
低い声も渋くて素敵。もうむしろ跪いていいですか? 跪かせてください。
赤く染め上げられたシルクの織物を贅沢に使った衣装。毛皮と多数の織物が重ねられて作られたマント。その頭上には幾多もの宝石が散りばめられた王冠を乗せている。
そして、重厚な黄金の鎧。それが危機とやらが戦いに関するものなのだという事を暗に匂わせていた。
「今、我が国は闇の君主、魔王率いる魔人族の軍勢に侵略されんとしている。その驚異に対抗する力を集めているのだ。
この度、我が神聖王国アルテロンドに訪れてくれた事、誠に感謝する」
「……こ、こちらこそ、ふつつか者ですがよろしくお願いします……」
なんとなく頭を下げた。
「おお、そうか! そう言ってくれると余も嬉しい。よろしく頼む。新たなる希望。ミケよ!」
ミケって呼ばれるとなんだかおもはゆい。どうせならこんな時くらい、当初の予定通りミシェーリナと呼ばれたかった。
その点がちょっと残念だったので、私はこう返す事にした。
「はい……」
これしか言葉が出て来なかった。顔が熱い。風邪かな。
「だが、魔王軍に挑むにせよ、力が及ばぬのではそなたも望ましくはなかろう。
我が国にはある少女の伝説が存在している。神話の時代、かつての魔王を討ち滅ぼした英雄の軌跡だ」
「英雄……」
ちょっとかっこいい。この世界にも歴史の設定があるのか。図書館とかで調べられるのかな。
「左様。かの少女は世界各地を旅し、力を集めついに魔王と剣を交えたと伝えられている。
そなたにはその足跡を追い、魔王を倒す為の力を得て欲しい。きっと世界を救う手がかりとなるはずだ」
「任せて下さい……!」
私は胸を張り、ビシッと額に手を添えて敬礼で応えた。仕事の癖だ。
手のひらで踊らされてる感はあるけど、どうでもいい。やる。
「これは頼もしい。では、まずはここより北の地にある『マクシミリアン砦跡』に赴くと良い。歴史上初めて少女が戦ったと記録にある地だ。もしかしたら少女の足跡が埋もれているやも知れぬ」
どうやら伝説の少女を追って魔王軍陣営と戦う為の武器やアイテムを集めていく感じかな。こちらの陣営専用のストーリーがあるみたいだ。
じゃあ、飛行船で魔都・ベルクゼリオンを選んだ場合もあちらでのストーリーがあったのかも。
「では、そなたにはささやかだが支度金を与えよう。マクシミリアン砦跡は多数のモンスターが根城にしている難所だ。複数のパーティと共同で挑むといい」
複数のパーティ!? う~ん。入れてもらえるかなぁ……。でも、それほどの難易度なのだとすると、私ひとりでは厳しそうだな。
とりあえず支度金で準備を始めよう。
でも、どうせこういうのって「今財政難だから」って50ゴールドとヒノキの棒しかくれないんだろうな。まぁ、仕方ないか。
「支度金10万リッチェと低級回復ポーション10個、低級MPポーション10個だ。少ないが受け取ってくれ。」
「じゅっ!?」
思ってたより2000倍も多い! ポーションも初級の1ランク上の低級だ。
王様は私に向けてわずかに微笑んだ。
キュンとしたのは内緒。
『シナリオクエストが開始されました』
ふと、目の前にメッセージウィンドウが現れ、クエスト内容が表示された。
『マクシミリアン砦跡にて、封印されし魔物を倒せ!』
やってやろうじゃないか。
私がその伝説を塗り替えてやんよ!
私は一礼してその場を後にした。
まぁ、魔法陣ですぐ追い出されたんだけど。ちょっとヒドイ。
神聖王国アルテロンド。
人族が主としている陣営。神を信仰しており、魔人族を筆頭とした邪悪から世界を取り戻す事を使命としている宗教国家である。
信仰している神は、この世に生きる全ての生命を創り出したという創造神。
人間が元首として統治しているのもあって、人族を優遇した文化が強いみたいだ。
元首は国王。さっきの王様だ。
チェスみたいに国王が倒されない様に守るのも所属するプレイヤーの役割である。
魔王軍陣営も私達と同じプレイヤーであるから、こちらを攻撃してくる機会を窺っている。そして国王が倒されると陣営全体にペナルティが科されるという話だ。
反対に私達も魔王を倒すと大きな恩恵が得られるらしい。
今の所まだそれぞれの元首が倒された事は無いそう。それだけ守りは堅いという事か。
首都はここ『アルテロンド』。
白亜の王城を中心に街並みが放射状に広がっている。
街は区画ごとに大きな壁で分けられ『住宅街』『歓楽街』『商業区』『防衛区』がそれぞれ東西南北に広がっていて、その中心に王城のある中央区が存在している。特に東の防衛区は、東の果てにある魔王軍領からの侵攻に備えて多くの防衛設備が配置されているらしい。飛行船の発着場もここにある。
建物は全て純白の石造りで、防衛時には防護壁にも隠れ家として拠点にも使えるようだ。入り組んだ街並みも迷路の役割を果たしている。
水路も整備され、綺麗な水が流れている。大きさも人が入れるくらいあり、戦いでは塹壕や通路としても使えそうだ。防衛時は堀の役割も兼用するんだろう。
恐らく、王城の中も迷路の様になっているのかも知れない。だから魔法陣で一気に玉座の間に移動させられたんだろう。
それにしても綺麗な街並みだ。住んでみたい。と、思ったら住宅街に家を建てて住めるらしい。間取りも自由との事。素敵。
ちなみにアイゼネルツの町にも建てる事ができるそうだ。別荘地として人気らしい。
あとステータスが少し上がっているのに気付いた。
神聖王国陣営に所属すると『神の加護』という支援が常時かかるようになっており、【火】、【冷気】、【雷】、【聖】属性、【体力】、が上昇するみたいだ。
ちなみに、魔王軍陣営所属のプレイヤーを討伐――PKしてもペナルティはないそうだ。
普通プレイヤー同士で争うと犯罪者の烙印が捺され、賞金が付くんだけど。敵は人間じゃないって事なのか……無情。
それと、魔王軍陣営の町へ侵入すると町人が逃げたり襲ってくるが、反撃しても罪に問われない鬼畜仕様。
これが、神聖王国という陣営だ。
私は商業区にある冒険者ギルドに足を運んだ。
次回投稿は12月5日午後8時予定です。
王様のCVは速水奨さんで妄想して下さい。
こういう陣営とか世界観の設定を作っている時が一番楽しいです。楽ですし。
次回も色々設定が出てくる感じです。戦闘回は次々回からになりますね。
毎度、戦闘回を載せた後は閲覧数が増えてくれているので嬉しいです。上手く書けていた様で良かった。
次回、第17話『レイド結成』
お楽しみに!