15・陣営勢力
あれから調べてみたら、どうやら飛行船にはレベルが10ないと乗れない設定だという事がわかった。
普通、このアイゼネルツにたどり着いた時点で10あるものだそうだ。
だが、レベルの上がりにくい龍人族の、それもかなり飛ばして進んできた私は未だレベル9だった。
よかった。本当に年齢制限かと思った。シェルティも最初ここに来た時点で10あったみたいだし、気が付かなかったんだろう。
私は残ったクエストを消化してレベル上げをする事にした。
山道でロックウルフを討伐したり、再び坑道に籠ったりと1人でなんとかこなしつつ、私は戦いのカンを取り戻していった。
そんな時だった。
おつかいクエストで道具屋のおかみさんから回収を依頼された「トンネルオークの作業ズボン」を手渡す。何に使うんだこれ。
クエスト報酬で経験値が入り、ついにレベルが10に到達した。
喜びについ拳を握ってしまったが、突然――
目の前に、それは現れた。
『聞こえますか』
急に辺りが暗くなり、私の正面にはどこから現れたのか、大きな光が存在していた。
形を成さない、ただ光であるとしか表現できないそれは、私に語りかけてきた。
『あなたはまもなく大きな岐路を迎えます。
あなたは光を選べば人々を導く礎と。闇を選べば理を変える為の力となるでしょう。
どちらの道を行くかはあなたの意志次第。
答えは都に。光と闇の都に向かって下さい。
天駆ける船が足掛かりとなりましょう。
あなたの未来に希望と幸運があらん事をお祈りしています』
それだけ言うと、光は姿を消した。
辺りも元の明るさを取り戻していた。
道具屋のおかみさんは何事も無かった様に笑顔で佇んでいる。さらに周囲にいるプレイヤーですら特に変わった様子を見せていなかった。
「い、今の……?」
突然の出来事に私は腰を落とし姿勢を低く構え、どこから攻撃があろうと対応できる様に警戒していた。
というか、完全にうろたえてた。周囲の皆さんが白い目で見ているのに気が付かないくらいに。
私はいそいそとその場を立ち去った。
何だったんだろう。どうやらあれは私にしか見えていなかったみたいだった。
まさか、この作られた世界に何か異常が? 進化したAIが意思を持って私に接触を図ってきたというのか。
そして世界を救って、と私を頼ってきたという訳だな。ならば仕方ない。
私は、世界を託された。
……という事はなく、今後の行き先に関するただのイベントだったみたいだ。
レベルが10に上がると自動的に発生して今後の行き先を提示するというもの。
次の町は2つの行き先からどちらかを選んで進む事になるようだ。
神聖王国・首都『アルテロンド』
魔王軍・魔都『ベルクゼリオン』
この世界では2つの勢力が覇権を賭けて争っているらしい。今後このどちらかに進む事によって、互いに争う陣営勢力に所属する事になるようだ。
戦争のクエストで戦ったり、領土を奪って勢力を拡大したりするのが目的となるらしい。
さらに奪った領土を軍事拠点として強化していくだけでなく、新たな町としてプレイヤー自身で治めたり、産業を発展させていったりもできるそうだ。
装備品に関係する技術や素材なんかの開発が一番期待されている。
私は農地で作られた作物が新たな料理として店に並ぶ、という事の方が気になったけど。
それと、神聖王国と魔王軍はそれぞれ人族と魔人族が統治している事もあって、神聖王国に魔人族が、魔王軍に人族が所属する事はできない仕様になっているとの事だ。
私は龍人族なのでどちらでも所属できる。
そして、それぞれの都にはここアイゼネルツからだと、ここから出航している飛行船にてのみ移動できる。
そう。飛行船だ。
私は一抹の不安を抱えながら、草原の発着場へと足を運んだ。
青空の下、風が草を揺らしていく。
私は風になびく髪を押さえながら、飛行船の下に立っていた。
操縦士のオヤジが相変わらず鋭い目付きでこちらを見ている。
私はゴクリとツバを飲み込むと、オヤジに話しかけた。
大丈夫。今度こそは。
「おや? お嬢ちゃん。パパとママとはぐれちゃったのかな? 一人旅かい? エライでちゅねぇ~。なに、子供から料金なんか取れるかい。さぁ、乗った乗った!」
「…………」
野郎ッ!! ブッ殺してやるッ!!!
私は両足に力を込めて踏ん張って構えた。私は1本の木だ。大地に根を張る1本の大樹なのだ。
たとえ大地が裂け、天が落ちて来ようと、私はこの不動の構えと揺るがぬ信念を貫き通してみせる。
命を賭してでも決して私は、負けない。
……私は船内に放り込まれた。
そういう仕様のせいで、強制的に。端からは保護者に引っ張られていく駄々っ子にしか見えなかったに違いない。
私は悔しさで泣いた。
船内は木の床に赤い絨毯が敷かれ、白いテーブルクロスの引かれた丸テーブルがいくつも配置してあった。その側には黒いアンティーク調の椅子が置かれ、ちょっとしたレストランみたいだった。
円形の窓もそれぞれ足下から頭のてっぺんまでスッポリ収まるくらい大きい。それが室内の左右両壁いっぱいに並んでいて、展望はとても良かった。
「それで、お嬢ちゃん。神聖王国・首都『アルテロンド』と魔王軍・魔都『ベルクゼリオン』どちらにいくんだい? 俺達船乗りは中立だからどちらにも行けるんだよ。
ただし、どちらか選んだらしばらくもう片方には行けないからな。最近何やらキナ臭い匂いがしてやがるしよ」
説明ゼリフが始まった。操縦士のオヤジは難しい顔をして遠くを眺めていた。
私は無視したい気持ちをグッッッ!!! っとこらえ、聞いた。
ここで所属する陣営を決めるのか。
これからはモンスターだけでなく、対人戦も発生する事になるようだ。ますます腕が鳴る。
だけど、どっちにしよう?
シェルティはどちらに行ったんだろう。精霊族だからどちらにでも所属できるしね。
そういえば、ルクスは人族だったからアラウンド ザ ダイヤモンドのみんなは神聖王国だろうな。
それと魔王軍と聞いてあのいけ好かない魔人族を思い出したので、やはり神聖王国にしようと決めた。
「……じゃあ、アルテロンドへ」
「よ~しよし。一人で決められたんでちゅか。エライでちゅねぇ~。じゃあ、アルテロンドに着くまで良い子にしていられるかな? じゃあ、出発するぞ!」
飛行船での初めての空の旅は、私に消えないトラウマを植え付けたのだった。
次回投稿は28日午後8時予定です。
操縦士のオヤジは筋肉モリモリマッチョマンの変態だ。
ギャグ回は戦闘に次いで書くのが楽しい。1人ゲラゲラ笑いながら書いてます。
ただ、投稿ボタンを押す直前になると「面白いと思っているのが自分だけなのでは?」と急にビビり始めるというチキンっぷり。
大丈夫。きっと大丈夫……。
次回、第16話『神聖王国』
お楽しみに!