14・ガールズトーク
今日は検査があった。
包帯もいくつか取れ、ようやくミイラ男から半分、いや3分の1くらい脱出できたかな。まだまだ退院には程遠いが、順調に回復してきているようだ。
先生に「こんなに早くよくなるなんて、まるで子供みたいだね」なんて言われたけど、全然気にしてない。
骨折も比較的軽いヒビだけだった左手。そのギプスが外れたのが、何より気分良かった。
看護師さんに洗ってもらったらビックリする程汚れが出てきた。女子としてこれは人に見せられない。ヤバい。
ずっと動かしていなかったからか、動かすと筋肉に痛みが走る。固定していたギプスがなくなったせいで、なんかフワフワして頼りない感じがする。自分の手なのに全然思った様に動いてくれない。突然得た自由に手が戸惑っているみたいだ。
でも、この不思議な感じが少し楽しかった。
ちょっと細くなった腕を見て、手を握って力を入れる。「前の4割くらいだな~」なんて思っていると、バタバタと足音が近付いてきて突然部屋の扉が開かれた。
「おばあちゃん! 電話で倒れたって……ギャーーーッ!! おばあちゃーーーんッ!!!」
失礼な。おばあちゃんじゃない。むしろロリロリボディで困ってるくらいだ。若さとは私を悩ませる病の様なものなのだ。分けられるのならキミのおばあちゃんに少し分けてあげたい。
だから私を揺さぶるな。死ぬ。ホント死ぬからやめて。あ、今なんか取れた!
「す、すみません! とんだ早とちりを……! すみません! すみません!」
お詫びに、と彼女が売店で買ってきてくれた苺のタルトに私は舌鼓を打っていた。
サクサク香ばしいタルト生地が美味しい。あ、ちょっとバターの練り込まれた甘い香りがする。ヨーグルト風味のクリームと甘酸っぱい苺の相性もいい。星3つ。
せっかく自分で食事が摂れる様になっても、味気ない病院食ばかりで飽き飽きしていた所だ。この甘味は灰色の入院生活にうんざりしていた私に鮮やかな潤いをもたらしてくれた。
やはりゲームではこのお腹の満足感までは再現してくれないからね。
ただ、その彼女はコメツキバッタみたいに何度も頭を下げていた。このままだと土下座まで始めかねないと思ったので、顔を上げてもらった。
聞けば、実家のおばあちゃんが倒れたと電話があり、慌てて駆けつけたら包帯だらけの死にかけだったものだからビックリしたそうな。死にかけゆーな。そうだけどさ。
おばあちゃんはただのぎっくり腰だったらしい。あと下の階の病室だった。
「あ、名前まだでした。私はリスティ・ノーツと申します。高校1年生やってます」
「私はシェリル。シェリル・キア。ポリスメン、です」
「えっ!? 歳上だったんですか!?」
キミはもっと本音を隠した方がいい。
お互いに自己紹介をした。
リスティにベッドの側にある椅子を勧めると遠慮がちに座ってくれた。
リスティは遠くの学校に通う為、家族と離れて一人暮らしをしているそうな。
小麦色の日に焼けた肌。同じく少し日に焼けた長い茶髪を後ろで一本に束ね、黒い縁のメガネをかけている。
目尻の下がった優しそうな顔をしていて、はにかんだ笑顔がちょっとかわいい。
白いTシャツに茶色のハーフパンツと男の子みたいな格好をしている。それは慌てて来たからで、普段はもっと可愛らしい服も着ているとか。でも体を動かすのは好きで、こういう服もまあまあよく着るらしい。
少し日に焼けているのも運動部に所属しているからだという。弱いらしいが。
時折園芸部に顔を出して植物の世話をしたり、学校で飼育されているウサギの世話を手伝ったりもしているんだって。
今は将来の進路で悩んでいるのだけど、動物に関わる仕事がしたいとの事だ。
いいなぁ。私は成績ギリギリだったっけ。
ほとんどお父さんとキャンプという名の武者修行の旅に出ていたから、青春とか無かった。出席日数もギリギリだった。何してんだ私。
それから、実家は元々農家で今は祖父母が規模を縮小しながら細々やっているそうだ。もうほとんど趣味みたいな感じで。
その為機械は使わず人力で賄っているそうだが、今回おばあちゃんが腰をやってしまったのだと。
ちゃっかりリスティも自分の分を買ってきていて、2人でいろんなスイーツを食べながら会話を楽しんだ。
利き腕がまだ出来の悪いハニワみたいになっている為、左手に慣れるまでなかなか大変だった。まぁ、ちょうどいいリハビリになったよ。
「あ、VRギアじゃないですか。シェリルさんもVRゲームをされるんですか?」
「うん。エクステンドオンラインっていうの」
「私もです! 面白いですよねエクステンドオンライン!」
これは驚き。マンガやゲームは好きでかなり知識は豊富との事。
「私はまだ始めたばかり。最近やっとダンジョンに潜ったんだ」
「私もやっと最初のダンジョンに潜ったばかりなんですよ! 友達に手伝ってもらってなんとかクリアできました!
体を動かすのは好きなんですけど、あまり上手ではなくて。クリアできたのもその友達のおかげです」
リスティは空中にパンチをするマネをして、その場面を再現しようとしていた。クオリティがいまひとつなせいであまり伝わっては来なかったけど、とても楽しそうだった。
「もしかしたら、私達どこかですれ違ってるかも知れませんね」
「うん。私は……」
「あ、でも今は秘密って事で、いつか向こうで出会う時の楽しみにしましょうよ!」
リスティは口元に人差し指を当てると、少しはにかんで笑った。
「そうだね。その方がきっと素敵」
今日は楽しかった。ガールズトークという私にとってなかなか貴重な体験をさせてもらった。……リシア? あれはガールに含めない。
先生にはスイーツの空容器が見つかり呆れられた。「こんなに食べるなんて、食いしん坊さんだね」って2人分の量を指差して。待って。違う。
次回投稿は21日午後8時予定です。
これにて第2章終了です。
次回から第3章開始になります。アイゼネルツの町から次の町へと舞台を移し、新たな仲間とさらに激しい戦いへと身を投じる……予定です。
ただ、まだ第3章のサブタイトルを考えていないという……。どうしましょ。
第15話『陣営勢力』
お楽しみに!